目の動きで仮想空間を操作できるヘッドマウントディスプレイ「FOVE」が、Kickstarterでクラウドファンディングを開始

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安っぽい80年代の映画や、90年代の失敗作のことは忘れよう。真のバーチャルリアリティが戻ってきた。それも、SF次元の期待に見合った技術を伴って。筆者や読者のようなガジェット好きをターゲットにした VR(仮想現実感)グッズの復活は、ヘッドマウント・ディスプレイという形で、Oculus VR が牽引している。同社は2012年、ゲームに特化した開発キット「Oculus Rift」で Kickstarter キャンペーンを展開した。25万ドルの目標額に対し、240万ドル以上を調達。VR 革命を牽引してきたかに見えた Oculus は、その可能性に懐疑的な立場をとる人たちの批判にも会ってきたが、ソーシャルメディアの巨人 Facebook が昨年6月に20億ドルで Oculus を買収したのを機に、多くの人が文句を言わなくなった。

Facebook に買収される以前から、Oculus は VR に対する消費者の関心を引きつけてきた。ソニーは、この発展途上の分野に Project Morpheus というヘッドセットで昨年3月に参入を発表。報道によれば、Facebook 会長の Mark Zuckerberg は、Oculus 買収の意向を発表する一週間前、Playstation 4 向けのソニーの VR ハードウェアをテストしていたと伝えられている

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Morpheus がベールを脱ぎ、Facebook が驚くべき発表をしてから一ヶ月後、両者にとってのコンペティターとなるスタートアップが静かに、東京大学のインキュベータ Intellectual Backyard にオフィスを構えた。fovea(中心窩、網膜の黄斑部に位置し、読書、車の運転、そしてもちろん、ビデオゲームをするのに極めて重要な部分)にちなんで、FOVE と名付けられたこのスタートアップは、高度なアイトラッキング技術をヘッドセットに実装することで、再興する VR プラットフォームに革命を起こそうとしている。

数ヶ月に及ぶ準備を経て、今日、FOVE は Kickstarter でクラウドファンディング・キャンペーンをスタートさせた。目標額は25万ドルだ。

小さなカメラ

では、アイトラッキングはどのように行われ、VR 体験をどのように補完するのだろうか。

FOVE の CTO Lochlainn Wilson は、Tech in Asia に次のように語った。

目の色に関係なく、目を光らせるために Fove は赤外線を使います。赤外線を使うことで、人種にかかわらず、虹彩が同じ色を反射します。FOVE には仕込んである小さなカメラが、ユーザには見えませんが、ユーザの目の動きをとらえます。(Lochlainn Wilson 氏)

Oculus や Morpheus のようなヘッドセットは、 VR ですべてのものをボケの無い状態で見せようとするのに対し、FOVE のアイトラッキング技術は、人間の目から見て自然にに見える被写界深度を再現する。例えば、顔の前に手を出して手のひらを見たとき、手のひらの向こうはボケて見える。FOVE では、ユーザが見ている部分にリアルタイムで焦点を合わせるグラフィック・エンジンを実装しており、2560 × 1440 のディスプレイ上でこの効果を実現している。

視線を捕捉するアイトラッキング・カメラは、三次元位置や頭の位置を捕捉する加速度センサーと連動しているため、目の動きで VR を制御しながら、頭を振って360度を見渡すことも可能だ。

特にゲームにおいては、アイトラッキングは多くの利点を持つ。

ゲームを楽しむ上で、例えば、アイアンマンのスーツを着て飛ぶようなものであっても、目が使えることで多くの可能性が生まれる。敵を見るだけで照準を合わせることも可能だろう。三次元の世界で二次元カーソルを使っていては、直感的に遊べない。(Lochlainn Wilson 氏)

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ゲームの操作がしやすくなるのに加え、FOVE のアイトラッキングによって、ゲームの中のキャラクターともより深い対話が可能になる。

FOVE を使えばキャラクターとアイコンタクトができるので、コンテンツ制作に新しい世界を開くことになるだろう。キャラクターたちは、ユーザが注意を払っているか、どこを見ているかを知れるようになる。(Lochlainn Wilson 氏)

つまり将来、FOVE は、女性のキャラクターがユーザに話しかけてきたとき、ユーザが彼女の胸に視線を留めていたら、彼女はユーザにビンタを食らわすことだってできるようになるわけだ。変質者の諸君はご注意を。

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アイトラッキングの可能性

VR ゲームを進化させるアイトラッキングの可能性についても見過ごせないだろう。3月にサンフランシスコで開催された Game Developer’s Conference で、ソニーの Magic Lab の研究開発チームは、プレーヤーが目を使って環境をスキャンし、見つめるだけで敵に照準を合わせることができる、外付けの赤外線カメラを披露した。

アイトラッキングに特化したドイツの技術企業 SensoMotoric Instruments(SMI)は、最新の Oculus 開発キット用のアイトラッキング・アドオンをデザインした。このアップグレードには、アドオンの実装のために SMI へ Oculus を送る必要があり、14,850 ドルがかかる。Oculus 本体の42倍の値段だ(Oculus 開発キットの最新版 DK2 は 350ドルである)。

ハードコア・ゲーマーをターゲットとするハイエンドのゲーム・ハードウェア・メーカー Razer は、最近 OSVR(Open-Source Virtual Reality)という名の VR ヘッドセットを発表した。最近開催されたラスベガスの CES で、Razer の CEO は、開発者に OSVR を気の向くようにハックしてもらうことで、OSVR の開発を加速したいと述べている。アイトラッキングも、OSVR に今後追加実装される可能性のある技術の一つとされている。

Wilson 氏は、規模が大きく資金の豊富な企業が、自分たちの VR 体験にアイトラッキングを取り込もうとしていることについて、恐れを感じていない。

FOVE は、素晴らしい技術が組み合わさったものだ。Oculus が新しいハードウェアを出さない限り、この分野はオープンだ。我々が想定している価格で、我々のようなことをしている企業は存在しない。正直なところ、Oculus はアイトラッキング無しでは、シリアスのゲーマーにとって使いものにならなくなる。受動的な体験しか得られないからだ。(Lochlainn Wilson 氏)

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SXSW(サウスバイサウスウエスト)で披露された、FOVE のプロトタイプ最新版。

2人の創業者

オーストラリア人の Wilson は2013年、ヘッドマウント・ディスプレイと趣味で関わり始めた。彼は当時、心理学に関連した大学研究に携わっていた。そのプロジェクトの一つは、自閉症患者とアイコンタクトに関するものだった。

人生を変えられる可能性があるという点において、FOVE がゲーム以外の分野に進むことは極めて重要だ。我々は障害者に対して、完全に制御可能な空間を提供することができる。目さえあれば、たとえ、片方の目だけであってもね。

医療用のヘッドマウント・ディスプレイとしても使えるだろう。外科医は精密なカメラワークに使えるし、看護婦に何もかも手伝ってもらわなくてもシステムと対話ができるようになる。インタラクティブ・シネマ、金融や証券業の生産性向上、バーチャル市場調査、危険な状況のシミュレーション、デザイン研究などにも使える。ゲームは始まりに過ぎない。

FOVE は現在、ヘッドセットを障害のある児童の学校に提供しようとしている。12月に同社が投稿した心温まるビデオでは、障害のある児童が自らの目だけを使って、クリスマス・コンサートでピアノを弾いている様子が映し出されている。

ゲーム分野に関しては、FOVE の CEO 小島由香氏が、この分野の真っ只中で磨いた専門知識を持っている。彼女はソニー・コンピュータエンタテインメントで4年過ごした後、日本のモバイルゲーム企業である GREE でソーシャルゲームのディレクターになった。彼女が直接手がけたカードバトルゲームのヒットタイトル「探検ドリランド」は、2012年に月間2,600万ドルの売上をもたらした。

ハードウェア・スタートアップをやる上で、日本は最高の場所だと思います。複雑な電子機器を作る大企業があり、生産拠点のある中国、台湾や、他のアジア諸国にも近い。日本にハードウェア・スタートアップが少ないのは、リスキーだと考えられているからでしょう。私はモバイルゲームのマネタイズ方法は理解しているので、より複雑でエモーショナルなハードウェア体験においても、マネタイズがしたいと考えたのです。

ソニーに入る前は、ゲームは子供たちのためだけのものだと思っていました。しかし今では、ゲームは現代文化の重要な位置を占めていると考えています。人々の VR に対する関心やバーチャル・キャラクターとのコミュニケーションは増えていくでしょう。そのようなキャラクターとの、繊細で非言語のコミュニケーションを実現する上で、FOVE は一番の存在になりたいと考えています。(小島氏)

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左から:FOVE CEO 小島由香氏、CTO Lochlainn Wilson 氏

クラウドファンディングの開始

東京で生まれた FOVE は世界中から注目を集めている。Wilson 氏によれば、ハードウェア開発は日本に拠点を残すが、ビジネス開発はアメリカへと移転させるそうだ。

FOVE にとって、今後2ヶ月のフォーカスは Kickstarter 上でのクラウドファンディング・キャンペーンとなる。先着200人に限定された “Earliest Bird” メニューは349ドルからで、Oculus が Kickstarter にデビューしたときの、最も基本的な開発キットの価格300ドルよりも少し高い。

FOVE は昨年、日本のエンジェル投資家からシード資金調達を実施しており(調達額は非開示)、可能性のあるエグジットの選択肢の一つはすでに明らかになっている。同社は、Microsoft Ventures のロンドン・アクセラレータに招かれた日本のスタートアップ第1号であり、Wilson 氏と小島氏は、昨年の9月から12月をロンドンで過ごした。彼らは現在、東京・秋葉原にあるハードウェア・アクセラレータ DMM.make AKIBA を拠点に活動している。

Microsoft のアクセラレータが FOVE を招いたことで、これが買収に向けた布石と推測する人は少なくない。すなわち、これは Microsoft の Xbox One に統合される可能性だ。Wilson はその可能性について否定はせず、ただ「今のところ、新しいニュースは無い」とだけ語った。

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【via Tech in Asia】 @TechinAsia

【原文】

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