本稿は「HackOsaka 2016」の取材の一部である。
「今年は自分に再投資する機会の年なので、何か新しいことを拙速に始めようとは思いません」と、日本を拠点とするイベントチケットのプラットフォーム会社 Peatix の共同創業者である竹村詠美氏は e27 とのインタビューの中で述べた。
彼女は自己変革を求めて Peatix を離れ、教育関係で新しいビジネスを始める計画を立てているが、その間も Unreasonable Institute でソーシャルエンタープライズアクセラレータを運営している。これは、世界最大のソーシャル、環境の課題解決をターゲットとしたプログラムだ。
<関連記事>
- 社会起業家を育てるアクセラレータ「Unreasonable Labs」が日本上陸、東京でローンチイベントを開催
- イベント管理サービス「Peatix」がピボットーー「グループ機能」を設けコミュニティプラットフォームへ
彼女は今日(原文掲載日:2月17日)、日本の大阪で開かれているグローバル・イノベーションカンファレンス HackOsaka で講演する。演題は「グローバル化の課題」だ。
これまでの彼女の経歴、そして日本のスタートアップエコシステムについての考えを聞くために私たちは竹村氏にインタビューを行った。
以下はその概要である。
自己紹介をお願いします。どのようにしてキャリアを始められたのですか?
大学卒業後、私は投資銀行の CS First Boston に日経平均先物・オプションのセールストレーダーとして入社しました。数字やスプレッドシートは好きでしたが、ここの職場は合わないとすぐに感じました。
1年後、Monitor グループという小さいコンサルタント企業に入りました。ここは多国籍企業の市場参入など、戦略的なプロジェクトにフォーカスしたところでした。
Monitor、McKinsey でコンサルタント業務をしていた頃、幸いにもいくつかのテック関係の顧客を担当したのですが、私はそこでインターネットの将来に魅了されました。
コンサルタント業務を4年ほどした後、エキサイト株式会社というインターネットメディア企業に取締役兼事業開発部長として入社する機会に恵まれました。それ以降、Peatix の共同設立を含めてインターネット業界で働いています。
Peatix を設立されたきっかけは何ですか?
私たち4人の共同設立者は Amazon Japan で出会いました。様々なメディア事業のプロダクトマネージャーとして働いていた時、作家や音楽家といった多くのクリエイティブな人たちが生計を立てるのに苦労していることを知りました。パッケージ化されたメディアの売上減に加えて、セールス側からは少ないマージンしか受け取っていなかったからです。
強い目的意識をもって、私たちはターゲットとするオーディエンス、つまり私たちの文化を新たなレベルに引き上げてくれるクリエイティブな人たちのためにインターネットの力を示せるような企業を創る決意を固めたのです。
いくつかの製品を試行した後、私たちはライブ体験に力を与える決意をして Peatix.com を立ち上げました。
Peatix の運営に際し一番の課題は何でしたか?
大きな課題は優れたチームを作ること、製品・市場のフィットを見つけること、そして健全な財務の維持でした。製品・市場のフィットに関しては、当初はとても困難でした。イベントやライブの体験を始めようとしている人を見つけるのが大変だったからです。
イベントを運営する人はたくさんいます。でもコミュニティレベルではごく少数です。ですから全ての市場に私たちは参画したのですが、最初は大変でした。潜在的なイベント運営者の目にとまるよう、一から大きなコミュニティを作らなければいけなかったのです。イベントプラットフォームを探している人を見つけることではありませんでした。
人材に関しては、4か国で国際感覚をもった人を集めるのが課題でした。例えば当初、私たちはシンガポールやマレーシアの知り合いが誰もいませんでした。ですから人材供給元として第三者からの紹介に頼ることができなかったのです。その代わり、幸いにも東南アジアで優れた人材確保を手助けしてくれるスタートアップコミュニティサポートを利用することができました。
最後に財務に関してですが、これには魔法のような回答はありません。ただ、当社の目的に賛同してくれる投資家を見つけるのはたくさんの時間とエネルギーを費やしました。昨年まで CFO がいませんでしたので、特に CEO からすれば実に長い時間がかかりました。
Peatix を離れた理由は何ですか?
企業が成熟していくにつれて、設立者がその会社を辞めてしまうのは珍しいことではありません。私の場合はいろいろと理由はあったのですが、主な理由はマネジメント構造をよりスリムにしたかったことです。
新しいプロジェクトとはどのようなものですか?
今はまだ詳細をお話できませんが、将来世代の教育に多くのエネルギーを注ぐつもりです。他方で日本にある Unreasonable Institute でソーシャルエンタープライズアクセラレータを運営しています。Unreasonable Lab Japan といいます。
今年は自分に再投資する機会の年なので、何か新しいことを拙速に始めようとは思っていません。
今回大阪で講演をされますね。スタートアップを大阪で運営するのと東京で運営するのとでは何が違いますか?
大阪は伝統的に東京よりも多くの起業家の方がいるところです。でもテックのスタートアップに関しては正反対のようです。
大阪生まれの方でテックの起業家の方はほとんどいません。東京、もしくは海外生まれの方が多いです。
主な違いとしては、資本へのアクセスの容易さ、潜在的な顧客の幅と深さ(特に大企業や広告主を相手にしたい場合)、そしてテック関係の人材プールではないでしょうか。
エコシステムの構築が進むにつれて大阪のスタートアップ環境は良くなってきていますが、まだ東京に水をあけられています。
日本の多くのスタートアップ企業にとっての課題は何でしょうか? どのようにすれば解決できますか?
最も顕著なのは、日本のスタートアップはグローバル化への準備ができていないことでしょう。
日本の市場は今でも相当な規模があるので、日本市場向けに超ローカライズされたサイトやアプリを構築した後に国際的な市場を相手に最適化を図るのは困難です。
サイトやアプリを多言語に「翻訳」するのは簡単なことですが、日本のスタートアップの多くは一定以上の規模の国際事業がありません。これに関しては、初めから国際的な人材を揃えるか、設立時にかなりの時間を海外で過ごすことで簡単に解決できると思います。
日本にずっと住んでいるとすぐに視野が狭くなってしまいます。でもかなりの期間を海外で過ごすと、ヒューリスティック(問題発見的)な見方ができるようになります。私は30か国以上を旅してシンガポールにも住んだ経験がありますが、グローバルな考え方、世界中の人と一緒に仕事をするコミュニケーションスキルの習得にとても役立ちました。
BRIDGE Members
BRIDGEでは会員制度の「Members」を運営しています。登録いただくと会員限定の記事が毎月3本まで読めるほか、Discordの招待リンクをお送りしています。登録は無料で、有料会員の方は会員限定記事が全て読めるようになります(初回登録時1週間無料)。- 会員限定記事・毎月3本
- コミュニティDiscord招待