在タイ日本大使館とCPグループ、越境オープンイノベーションイベント「Rock Thailand」を共催——日本のスタートアップとタイ財閥が一堂に集結【ゲスト寄稿】

by ゲストライター ゲストライター on 2019.4.2

本稿は、バンコクを拠点に、求人メディアや人事向け SaaS を提供する TalentEx の古川桃子氏(Assistant to Executive / PR)による寄稿を、編集部で再構成したものである。

写真は、TalentEx 経営企画担当・上野智弘氏による撮影。

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在タイ日本大使館と、タイのセブンイレブンや携帯通信大手 True を傘下に擁する CP グループ(チャルン・ポカパン・グループ)は3月14日、タイ・バンコクの True  Tower でタイ財閥と日本のスタートアップによるデモデイ「Rock Thailand」を開催した。このイベントは、日本の革新的スタートアップとタイ財閥の戦略的提携を促す「Open Innovation Columbus(OIC)」という活動の一部だ。OIC 関連イベントとしては、昨年10月に在タイ日本大使館が主催した「DX Summit」に続くものとなる。

タイ財閥の多くは、その組織の大きさからデジタル化経済の恩恵を十分に得られていないことが多い。日本では大企業がスタートアップと協業することで(オープンイノベーション)、デジタルトランスフォーメーション(DX)を図ろうとする動きがみられる一方、タイにおいては、現地スタートアップが得意とするバーティカルの特性上、オープンイノベーションで DX が進むのは少し先のことになりそう。

そこで、OIC では DX に役立ちそうなバーティカル(AI、ロボティクス、IoT、物流)をリードする日本のスタートアップのうち、特にタイをはじめとする東南アジア市場への進出に関心が深いチーム10社を選びバンコクに招いた。日本のスタートアップの力を使ってタイ財閥を DX することに主眼に置いた、クロスボーダーのオープンイノベーションを狙った試みだ。

参加した日本のスタートアップ10社の代表らは、CP グループの CEO Suphachai Chearavanont 氏のほか、タイ石油公社(PTT)、ビールブランド「チャーン」で知られる流通小売大手の TCC、カシコン銀行、王室系の SCG(Siam Cement Group)、病院運営大手の BDMS(Bangkok Dusit Medical Service)など大手財閥の経営幹部を前にピッチ、PoC(実証実験)をベースとした協業関係の樹立に向け担当者との個別協議が行われた。

なお、第1回目となった今回の「Rock Thailand」に登壇したスタートアップは、タイを含む東南アジアのスタートアップシーンに造詣の深い、日本のベンチャーキャピタルやメディア関係者10名で構成された委員会によって選出された。

以下に、参加スタートアップの発表内容を紹介する。紹介順はピッチ登壇した順番。なお、具体的な協業内容については、参加したタイ財閥とスタートアップ間以外には原則非開示となっているため、参加スタートアップからコメントを得られたものについてのみ紹介する。

PKSHA Technology

PKSHA Technology で VP of Product を務める 瀧野諭吾氏

PKSHA Technology(東証:3993)は、自然言語処理、画像認識、機械学習、深層学習技術に関わるアルゴリズムソリューションを展開。機能特化型のアルゴリズムモジュールを開発し、それらをさまざまなソフトウエア/ハードウエアのコア機能/サブ機能として利用できるようサービスを提供している。アルゴリズム研究を行う技術者・研究者が設立した PKSHA では約70%のエンジニアが博士課程を卒業しており、アカデミックな専門知識を持った優秀な人材が集まっていることが特徴。PKSHA はそれらのリソースを用いて、天候や設備のメンテナンスなど業界ごとに適応したサービスが提供できると語った。

ABEJA

ABEJA Singapore マネージングディレクターの外木直樹氏

ABEJA は、コア技術である AI プラットフォーム「ABEJA Platform」を活用し、各種ソリューションをさまざまな業界に提供する AI スタートアップ。蓄積されたビックデータから、人間の手を介さずに、そのデータを適切に表現する特徴量を自動的に抽出するディープラーニングを活用しサービスを提供している。

ABEJA Singapore マネージングディレクターの外木直樹氏は、ABEJA の強みと3つ挙げた。

  1. ABEJA はあらゆる分野において、サービスが提供可能。
  2. 国際的にサービスを展開しており、特に東南アジアにおいてはすでに実績がある。
  3. AI によるソリューション提供サービスのみならず、自社プロダクトも提供している。

外木氏は  Rock Thailand への参加を受けての感想を、次のようにコメントしてくれた。

CP グループを含めて主要な財閥の経営陣とお話ができた。すでに会話をしていた財閥から一緒にやりたいと言っていただき、また他の財閥の方々には、それぞれの課題に合わせ AI を活用した取り組み——スマートファクトリー、スマートシティ、スマートストアなど——を提案した。日本政府のお墨付きをいただけたことで、財閥とは単純な受発注の関係ではなく、タイのイノベーションに向けた協業体制をつくることができそうだ。

シンガポール、タイにきて2年間ほどが経つが、この1年ほどの間に AI について企業の経営陣の興味関心がすごく増しており、我々はいくつかのプロジェクトを一緒させてもらう機会を得た。会社の中で大切にしている「ゆたかな世界を実装する」を元に、タイのすべての AI に関わる人たちに、タイに豊かな社会を実装していきたい。

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LPixel

LPixel CEO & Founder の島原佑基氏

LPixel はライフサイエンス領域の画像解析に強みを持つ東京大学発のスタートアップ。医療・製薬・農業などのライフサイエンス領域における画像解析に AI 技術を最適化しソフトウェアを開発している。国立がん研究センターをはじめ複数の医療機関と連携し、人工知能を活用した医療画像診断支援の研究開発を進めている。グローバルにサービスを展開しており、アメリカのケンブリッジへ進出している

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スカイディスク

スカイディスク 海外戦略室長 末永善彦氏

スカイディスクは、IoT のセンサデバイス開発から、集まったデータを AI で解析するサービスを提供。製造業への導入実績が多く、機械の異常診断、歩留まり率の向上、検品の精度向上などを実現することで、スマートファクトリー化推進に貢献している。

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ウミトロン

ウミトロン 共同創業者 兼 マネージングディレクターの山田雅彦氏

ウミトロンは水産養殖にテクノロジーを用いて、食料問題と環境問題の解決に取り組むスタートアップ。シンガポールと日本に拠点を持ち、IoT、衛星リモートセンシング、機械学習をはじめとした技術を用いサービスを提供している。同社が最近発表したスマート給餌機「UMITRON CELL」を使えば、養殖している魚にタイムリーにエサを与えることができ、魚の様子を自律的または遠隔でモニタすることも可能になる。

ウミトロン 共同創業者でマネージングディレクターの山田雅彦氏は、Rock Thailand への参加を受けての感想を、次のようにコメントしてくれた。

今までも多くのマッチングイベントに参加してきたが、こんなに満足度の高いイベントはなかった。国のトップの財閥のトップクラスの方々が集まっていること、面談も用意されていて、会いたい人に会えるというのは非常に良かった。

(参加していた)ほぼ全ての財閥と話ができたが、まず彼らの現場課題を理解するために議論を始めたい。タイにおける事業パートナーとして、協業できる可能性が十分にあるのではないかと期待している。

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スマートドライブ

スマートドライブ代表取締役の北川烈氏

スマートドライブは車などから走行データを収集し、それらを可視化・解析するサービスを提供するモビリティ IoT スタートアップ。SmartDrive Fleet(法人向けリアルタイム車両管理)、SmartDrive Cars(個人向け定額制コネクテッドカー)、SmartDrive Families(個人向け高齢者見守り)、Public Service(危険エリアのマッピングや交通状況共有)など複数のサービスを提供している。ドライブレコーダーを含むセンサーを開発し、独自のデータ入手ルート開拓にも注力。

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スマートショッピング

スマートショッピング 執行役員兼BtoB事業本部長 下原良輔氏

スマートショッピングは、ユーザ40万人を超える日用品・食品の価格比較サイトを展開。昨年10月に、重量センサーを搭載した消耗品の自動発注・在庫補充ができる IoT デバイス「スマートマット」をリリースしている。主に法人向けに、ついつい発注し忘れがちな必要なアイテムを、常に必要量確保しておく作業を自動化するサービスを提供する。スマートショッピングでは、同社の商品データベース上に商品の消費前の重量を保持しており、定期的な重量計測により、残量が少なくなった時点でユーザに購入許可を求める。

スマートショッピング 執行役員兼 BtoB 事業本部長 下原良輔氏は、Rock Thailand への参加を受けての感想を、次のようにコメントしてくれた。

タイの工業団地・賃貸倉庫大手 WHA とは、物流施設の高付加価値化、工場系顧客へのソリューション提案、スマートマットを活用したサプライチェーンの最適化、CP グループ、(ビールの)Singha、(タイ版コストコの)Siam Makro には、スマートマットを活用した小売店舗への自動発注ソリューション導入が提案できた。

タイでの事業展開時の大口顧客の獲得、タイを含む東南アジアでのパートナーシップ締結につながることを期待したい。

GROUND

GROUND の Chief Data Officer で Global Innovation 担当の小林孝嗣氏

「Intelligent Logistics(インテリジェント・ロジスティクス)」をコーポレートスローガンに掲げ、物流領域におけるソリューションを提供する GROUND。倉庫におけるピッキング作業を始め、物流オペレーションの最適化のために、ロボットや AI ソフトウェアを組み合わせたプラットフォームを構築している。

企業が抱える課題は、消費者にとっての選択肢が多すぎること、消費者が飽きやすいこと、消費者の行動が事前に察知できないこと(キャンセル等)などだ。同社では、消費者の行動を把握できる顧客データベースを元に機械学習を用い、需要予測に基づいて製造数・販売数を予測し、物流業務全体の業務効率の改善を図る。

GROUND の Chief Data Officer で Global Innovation 担当の小林孝嗣氏は、Rock Thailand への参加を受けての感想を、次のようにコメントしてくれた。

複数の財閥と話をしたが、特に CP グループ、カシコン銀行、WHA などには、具体的にソリューションを提供できないか検討中。当社の AI 物流ソフトウェア「DyAS(ディアス)」開発のスピードアップや、早期のタイへのマーケットインが目指せると考えている。

我々のようなハードとソフトを両方提供するようなスタートアップにとっては、通常のスタートアップ以上にスピードとスケールの両軸が求められる。事業展開する上で、PoV > PoC > PoBと大きく3ステップ踏まないと事業展開が難しい。そういう意味で成熟市場での事業展開は説明コストや導入コストが高くなる傾向があり、資本力が弱いスタートアップでは苦戦を強いられる可能性は高い。

しかし、財閥の方々と話をする中で、そういった懸念は低く、(タイへの)マーケットインを早めて対日本へのリバースイノベーションで対応しないと海外(とくにアマゾンとアリババ)とは戦えない時代になっていると感じた。

souco

souco の創業者で CEO の中原久根人氏

souco は、オンライン上に倉庫のデータベースを構築し、倉庫を貸したい企業と借りたい企業の引き合わせを可能にした物流のシェアリングプラットフォーム。利用開始までの必要手続を大幅簡素化し、申込から最短3日間で〝小ロット〟〝短期間〟で簡単に倉庫が利用開始できるようにした。サービスローンチ以降ユーザ成長は順調に推移し、登録ユーザも300社以上に達している。

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Hacobu

Hacobu 取締役 COO 坂田優氏

Hacobu は、シェアリングロジスティクスプラットフォーム「MOVO」を提供。動体管理ができる IoT デバイスなどのハードウェアとクラウドによって、求車(統合的な物流管理ソリューションとして、トラックが手配しにくい問題)、運行管理(トラックの位置情報を把握できない問題)、バース管理(待機時間でトラックを効率的に稼働させられない問題)を解決する。

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左から:Polapatr Suvarnazorn 氏(SVP, Thai Beverage)、小林孝嗣氏(GROUND Chief Data Officer 兼 Global Innovation 担当)、外木直樹氏(ABEJA Singapore マネージングディレクター)

一連のピッチ終了後には、懇親会が開かれ、タイ財閥企業と日本のスタートアップ間でのコラボレーションなどの話で活気に溢れた。Rock Thailand に参加したタイ財閥幹部からも前向きなコメントが得られた。

タイは長きにわたって日本や日本の企業と良い関係を築いており、日本を「いい友」だと思っている。この信頼を糧に、私たちは他に何かもっと新しいものを生み出せるのではないだろうか。

(今日紹介されたような)テクノロジーを私たちの会社にも取り入れることが重要だと感じた。(PTT で Robotics AI & Intelligent Solution 担当 ディレクターを務める Pichairat Jiranunrat 氏)

TalentEX CEO 越陽二郎氏(写真中央)らもネットワーキングに参加

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