スマートシティやモビリティのニーズに応じて、AIやクラウドソーシングで加速するマッピング技術のイノベーション

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An image from Mapillary Vistas Dataset, a pixel-accurate annotated street-level imagery dataset for autonomous mobility and transport.
Image Credit: Mapillary

Google と Apple が、デジタルマッピング(マップ制作)の分野にいかに大きな影を投げかけているかを考えれば、両社がこの市場の首尾を象徴しているかのように見えても仕方がないだろう。しかし、自動運転車やスマートシティといった広範囲に及ぶサービスに対する需要により、マッピング分野に技術革新の限界を押し広げる新世代の競合企業が生み出されている。

最大手の Google と Apple が利用する、衛星画像と路上を走り回る車両を組み合わせるという基本的なマッピング手法は、e コマース、ドローン、その他様々な形のモビリティ分野における移り変わりの激しいビジネスニーズに対応するには、時代遅れでスピードに欠けつつある。こういったサービスには多くの場合、リアルタイムでのアップデートやはるかに豊富なデータを必要とするような、非常に特殊なニーズがある。

こういった課題に対応するため、新しいマッピング会社は、様々な技術の中でもとりわけ人工知能やクラウドソーシングを活用し、はるかに複雑なジオデータを提供しようとしている。グローバルなマッピング市場の触媒となっているのが、このような増加しつつある多様性や競争だ。Grand View Research によると、このような背景を持つ同市場の成長率は年間11%を超え、2025年までに87億6,000万米ドル規模にまで拡大すると予想されている。

サンフランシスコに拠点を置く Mapbox でオート部門を率いる Alex Barth 氏は言う。

今はマッピング企業にとって、世界がつながりつつある非常にエキサイティングな時代です。ロケーションに関する新しい考え方がいろいろと生まれています。

2005年にローンチされた Google Maps は当時革命を引き起こした。埋め込み可能な順応性のあるマッピングサービスは、当時の最大手 Mapquest にあっという間に取って代わった。Mapquest は、道順を提供するスタティックマップで早期から他社に先行していた。2012年に Apple が Google との関係を解消して独自にマップ制作に乗り出した。同社のマップは当初大失敗と見なされたが、その後次第に性能が良くなっていった。

両社いずれのモデルにしても、問題は両社を取り巻く世界のスピードが、この両大手企業の進化よりも早いということだ。現に Wall Street Journal は6月第5週、Google Maps の虚偽のビジネスリスティングが推定1,100万件にのぼると報告しており、同マップの信頼性に大きな打撃を与えた。これに対し Google は、昨年、虚偽リスティングを300万件削除し今後も努力を重ねていくとしながら、偽のリスティングはビジネス要覧の出版が始まったほぼ当初から存在していたと主張している。

その一方で、マップのユースケースは爆発的に増え続けている。都市はスマートパーキングに注目するようになり、プランナーはインフラ上の決定を下すのにマッピングデータに頼るようになり、デリバリーサービスはより詳細な最新情報を必要としている。他にも様々なビジネスが、ジオターゲティングをマーケティングや e コマースで活用している。そしてもちろん、自動運転車やコネクテッド車は高性能のマッピング情報を必要としている。

新たな方向性

Mapbox は、こういったニーズに応えるべく出現した、新しいタイプのマッピング会社の好例である。

2010年に設立された同社は、ベンチャーキャピタル投資で約2億2,700万米ドルを調達した。同社は当初、選挙監視といった活動を支援するためのウェブツールやモバイルツールを、政府機関や非営利組織向けに構築するチームだった。Barth 氏によると、より多くのマッピング機能を追加しようとするにつれて、既存のジオスペーシャル(地理空間)データの希薄さを実感したという。独自のマッピングソリューションを構築する道を歩み始め、やがて Mapbox の設立へとつながっていった。

Mapbox’s Aerial View Vision SDK
Image Credit: Mapbox

Mapbox が提供するプラットフォームとソフトウェア開発キットは、人工知能と拡張現実(AR)を利用しマップに情報を重ね合わせる。Mapbox はその後、主として開発者が独自サービスでマップを活用できるようにするツールを、メディア、ロジスティックス、農業、行政、不動産、ドローンなど、幅広い業界を対象とし構築する。使用例として、Snapchat の Snap MapsWeather Channel AppWashington Post の選挙結果Tableau によるデータの視覚化などがある。

こういったサードパーティーのサービスを強化するだけでなく、マップはデータを収集および匿名化し、Mapbox のメインプラットフォームにフィードバックする。同社では4億点以上のエンドポイントを使用し、次々と送られてくるデータを収集してマップを充実させる。

Barth 氏はこのように語る。

私たちは、使用方法次第でマップがどんどんスマートになっていく、自己学習マップに期待を寄せています。最近ではますます、センサーを介したマップの自動構築が増えてきています。そしてそれらを使用するのは人間ではなく機械です。精度だけでなく、データの最新性の面でも大きな飛躍が見られます。

スウェーデンの Mapillary は、多少異なるアプローチでこういった課題に挑む。

Mapillary の CEO 兼共同設立者の Jan Erik Solem 氏は次のように述べた。

マップ利用者が期待するものは、10年前と比べて大きく変わりました。ますます多くの企業が、競争力の高いマップを求めています。

同社はスウェーデンのマッピングスタートアップで、ベンチャーキャピタル投資で約2,450万米ドルを調達している。

Solem 氏は、顔認識技術の開発を手がけた同氏の以前のスタートアップを Apple が買収した後、2013年に Mapillary を設立した。同社は、人々が所有する膨大な数のモバイルデバイスを活用する。こういったデバイスが提供する画像やジオデータは、ますます精度を上げている。ユーザが Mapillary アプリ経由でアップロードする情報で、豊富な情報を含む巨大なデータベースが作成される。

次に Mapillary はコンピュータビジョンを利用してデータを分析し、マップのアップデートや改善に利用するデータを特定する。マップは、BMW、Lyft、トヨタといった企業で活用されている。トヨタはこのマップを利用し、自社の自動運転車のアルゴリズムの微調整を行っている。Mapillary はまた、画像内のテキストを読む Amazon Rekognition の使用を可能にするパートナーシップを結んでいる。コンピュータビジョンの性能を強化し、市内の駐車スペースを特定するサービスにつないでいる。

同社が最近ローンチしたマッピングマーケットプレイスは、特定のマッピングニーズを有し、特定のプロジェクトに対して費用を惜しまないビジネス側と、その情報の収集が可能なアプリユーザのコミュニティをつないでいる。そういったビジネスの目的が果たされるだけでなく、このデータは Mapillary の通常プラットフォームにも追加される。

Solem 氏はこう語る。

ライドシェアリング用のマップ、デリバリー用のマップ、スクーター用のマップ、それぞれが異なります。画像やセンサー情報がこれほどたくさんのデバイスで収集されていることを考えると、企業の将来の一端をマップも担うことになるでしょう。

Tactile Mobility はこの手法に新たなひねりを加え、車両に組み込まれたセンサーやソフトウェア経由で道路状態のデータを収集する。カメラで物体を確認できるほか、自動運転車はそのような微妙な差異を、道路の凸凹、くぼみ、路上の水、道路のカーブといった微妙な差異を「感じる」ことができなくてはならない。同社は、このような情報をマップ層として追加する SurfaceDNA というシステムを開発した。

よりスマートなシティ

このようなマップは、その多くが様々なジオロケーションサービスやモビリティサービスを強化するために利用されている一方で、変化しつつある都市においてもますます重要な役割を担いつつある。

イスラエルに拠点を置く Moovit は、2012年にローンチされて以来、都市輸送システムのマップをクラウドソースによって構築してきた。データの大半は、200万人近くにのぼる「Mooviters」が生成する。彼らは地元の公共交通機関サービスの情報を提供する。

2017年に Moovit はデータを公開し、都市が同社のツールを使って公共交通を改善できるようにした。地方自治体は、Smart Transit Suite と呼ばれる同サービスを認可した後、このデータにアクセスし、政策立案者が交通網をよりうまく管理し、建設プロジェクトを計画して都市内の人や車両の流れをより正確に分析できるよう役立てる。そして都市は、このデータを市民や地元企業に様々な形で提供する。

Moovit はこれまでに、Intel Capital がリードした昨年の5,000万米ドル規模のラウンドを含め、ベンチャーキャピタル投資で合わせて1億3,300万米ドルを調達した。

商品・マーケティング部門のバイスプレジデントを務める Yovav Meydad 氏はこう語った。

公共交通機関の信頼性を高めたいのです。このデータは地元の政策決定者にとって極めて大きな価値があると考えています。

Google の Waze も公共輸送業者との連携を強めており、公共計画立案のためにデータを共有している。同社は最近ロンドン市と共に Smart Routing プログラムを拡大しており、排出量削減に伴いより厳しくなった新規制をドライバーが守りやすくすることで、汚染の低減を後押しする。

一方で、サンフランシスコに拠点を置く Streetlight Data は、膨大な数の位置情報サービス(LBS)、GPS、携帯データポイントからデータを集め、都市計画事業者を支援する。データは様々な官民情報源から集められている。携帯電話データ、カーナビゲーションデータ、商用トラックナビゲーションシステム、および様々なモビリティ企業とのパートナーシップなどだ。その結果できたのが車、自転車、歩行者の移動パターンに関する有用情報を提供するプラットフォームだ。

Streetlight でマーケティング・商品管理部門のバイスプレジデントを務める Martin Morzynski 氏は次のように述べた。

要するに、任意の都市を選んで、過去1年間あるいは2年間の車や自転車の交通増加量、週末と平日の差、フットボールの試合日と通常の仕事日との違いを言うことができます。かなり細かいことまでわかります。

データは、例えば歩行からスクーターシェアリングの利用、電車の利用、Uber への乗車へと移行する、様々な移動段階にある通勤者群を区別できる。クライアントによってはこれを活用し、駐車場の利用を最適化したり、新たな自転車ネットワークを考案したりすることができる。

しかしより大きな規模では、このデータを利用し、輸送機関立案者は新たなプロジェクトに関してより詳細な情報に基づいた決定を下すことができる。これには、新しいインフラの構築や新しいモビリティ形態の導入などがある。輸送機関に関する従来の調査は何か月もかかることがある上、道路を使用する車両の種類や出発地・最終目的地といった面で微妙な差異を数多く見逃してしまう。

Morzynski 氏は言う。

どこに配置しどう設計するかという点で、インフラに対する大規模な投資と言えます。こういったデータは、その方法を見つけ出す上で非常に役に立つのです。

進むモバイル化

一部のマッピング会社は、自社のマップを活用し、他のモビリティサービスを提供し始めている。

市内交通機関アプリ Citymapper が、2017年7月に自社の商用バスサービスをローンチしている。ロンドンを拠点とする Citymapper は同年5月、独自のスマートバスと交通機関サービスを試験的に取り入れ始めた。バス停の場所が決められ、従来のバスサービスとほとんど同じように運用されるが、同社のバスは USB 充電ポートやコンタクトレス決済といったアメニティを提供する。また、マッピングデータを利用し、サービスが十分に行き届いていないルートも割り出している。

オープンなマッピングプラットフォーム Here を開発した Here Technologies は、2018年1月に新子会社 Here Mobility の設立を発表した。

提供されるサービスの1つである Open Mobility Marketplace は、地域で運営される全てのモビリティサービスのハブを作るために設計されたソフトウェアだ。全モビリティサービスの運営を一元化し統一することで、同プラットフォームを利用する全ての企業により広範な市場を提供できると Here Mobility は確信している。その一方で、各都市はよりうまくサービスをモニターおよび管理できるため、混乱を巻き起こさず効率性を高めることができる。

さらに、Here Mobility が提供するディスパッチサービスは、同社のデータや分析を活用してトラックやバスといったフリート車両の管理を支援し、効率性の向上につないでいる。

同社によると現時点では、多くの都市でモビリティ革命の利益を十分に享受できていないことが判明しているという。これは様々なサービスが縦割体制で、互いにつながることなく、独立して運営されているためであり、場合によってはより多くの無駄と混乱を招いているという。Here Mobility は、こういった統一されていないやり方を調和させ、都市が前進するのを後押しできると確信しているという。

同社のシニアバイスプレジデントを務める Liad Itzhak 氏は次のように述べた。

私たちは、モビリティの未来を築いているのです。世界は今、車両所有からサービスとしてのモビリティへと移行しているのです。これは誰にとっても魅力的な発想です。ですがこの未来にたどり着くには、全てのリソースを効率よく活用する必要があります。

空高く

マッピングの大半は当然ながらまだ陸地が中心だが、商用ドローン市場が急成長する中、マッピング機能を空にまで広げて作るあるいは拡大する必要性が急速に高まっている。

DroneDeploy は、ドローンが持つ可能性をより多くの人が享受できるよう、関連作業の大半を自動化するプラットフォームを開発した。時間やフライト行程のスケジューリング、データ収集、マッピング、分析などに対応する。同社はドローンメーカーと提携し、開発者にプラットフォーム用アプリの作成を認めている。

プラットフォームは、DroneDeploy が開発したドローンマッピングプログラムで動作する。同社のソフトウェアはほとんどの商用ドローンに対応しており、自動飛行を計画したり、クラウドサービス経由でデータを処理し3D マップを作成したり、迅速にデータを分析したりすることができる。同プラットフォームでは、ドローンの飛行中にリアルタイムでマップを構築することも可能だ。

DroneDeploy は、これまでにベンチャーキャピタル投資で約5,600万米ドルを調達しており、特にソーラーパネルオペレーター、鉱山業、建築業といった業界を中心に180か国に顧客を持つ。

DroneDeploy の CEO を務める Mike Winn 氏によると、フライトプラン作成やデータ分析にかかる時間を考えると、今のところドローンサービスでもっとも高くつくのは人件費であることが多いという。しかし、AI や徐々に増えるマッピングデータにより、人間への依存は減っていくだろうと同氏は語る。

ドローンの未来は、自動化です。

Winn 氏はそう語った。

しかし課題は、単一のドローンの自動化を超え、いつの日か無人の飛行体であふれるだろう空が生み出す数々の問題へと広がる。

ドローンに関わる進化をより秩序立てるため、カリフォルニア州サンタモニカを拠点とする AirMap が無人航空機管制(UTM)プラットフォームを作成した。ドローンが、飛行時に遭遇する複雑な規制や地理的な課題に対処できるようにしている。

AirMap は部分的に、マッピング技術と、ドローン使用にまつわる公的規制に関して作成した非常に高度なデータベースを融合させることで機能する。同社 CEO を務める David Hose 氏によると、こういった規制は非常に複雑かつ特殊な場合があるという。例えば、ドローンと学校との距離制限がある場合、ドローンのオペレーターは、ドローンが飛行する地域の全ての学校の位置を把握しなくてはならない。

こういった規制があるため、ドローンの採用が大幅に減る恐れがあると Hose 氏は語る。

航空業界では、ドローンは航空機と捉えられています。そのためこのような様々なルールを公布するのです。歴史的には、航空業界はそれで非常にうまくいっていました。訓練を受けたパイロットが、全ての規制を勉強し全てのルールを学びました。ですがドローンは、ずっと速く変化する家電業界から来ています。ルールに対するこのようなアプローチは、家電の分野にはあまり合っていません。

マップや地理によって定義されたルールのデータベースがあれば、ドローンは自分の位置を把握し、何らかの違反を犯すことになるエリアへと入ることを避けられる。ドローンを同サービスに登録できるため、フライトプランの共有が可能だ。それによりドローンは、他にどういったドローンが周辺を飛行しているかを知ることができ、航空管制官側も空の交通を把握しやすくなる。

配送、セキュリティ管理、救急サービスの支援などを行う可能性のあるドローンの予測台数を考えると、将来の安全性を確保する唯一の方法は、ルールやロケーションに関する正確なデータをドローンが持つことだと Hose 氏は語る。

AirMap はドローンを積極的に活用することの良さを証明するよう世界に推し進めています。私たちの信念体系は、ドローンが飛び回る世界で暮らすというものです。ですがそのためには、明確なルールや全ドローンの規制が整っていなくてはなりません。それは唯一、規制やマップの自動化によってのみ実現できるのです。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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