ピックアップ:Global Fintech Report Q2 2019
ニュースサマリー:「Banking as a Service(※以下BaaS)」という言葉に大きな注目が集まりトレンド化している。つい先日、日本でも決済サービス「Kyash」が国際ブランドカード発行・決済処理を企業に一括で提供する「Kyash Direct」の提供を開始した。
日本でBaaSトレンドの拡大をより身近に感じるようになる一方、米国では既に大きな波が起きている。Uberなどの大手テック企業を巻き込むレベルにまでのムーブメントとなっている。
<参考記事>
- Kyash、企業が自社ブランドのVisaカードを即時発行できる「Kyash Direct」をローンチへ——Fintechファストトラックプログラムにも参加
- 経費精算アプリ開発のクラウドキャスト、カード即時発行スキーム「Kyash Direct」を使った経費精算用Visaプリペイドカードをローンチ
BaaSとは、主に金融ライセンスやソフトウェアを用いて既存の銀行サービスを機能単位で作り変え、それを企業に対しオンデマンドで提供する業態の総称。
またBaaSと一言でいっても、金融ライセンスを活用してテック企業ないしフィンテック企業の銀行代理サービスを提供するモデルや、よりテクノロジーに特化して企業と銀行間のAPIインフラを提供するモデルなど様々な業態がある。
先月公表されたCB InsightによるFintech レポート「Global Fintech Report Q2 2019」では、まさにそのBaaSカテゴリーの発展について言及があった。ここ数年、フィンテックまたはテック企業がバンキング・プロダクトをローンチするケースが急激に増加してきているのだという。
以下のCB Insightが作成したリストは、近年バンキング・プロダクトを提供し始めた企業の数を表している。特に2018年からの増加が顕著である。
リスト入りされている企業の中にユニコーンに属するフィンテック・スタートアップが複数おり、かつその他にも一般的なプラットホーム企業(Uber)や通信キャリア(T-Mobile)の名も存在する。統計的とまでは言えないが、上述した近年のトレンドを認識するためには十分に参考になるデータだといえる。
別のデータを参考にすると、ここ数年、米国の企業が実施しているEarning Callの中で、BaaSに関して言及される回数が急激に増加しているということが分かる(以下グラフ)。
まとめると、近年のトレンドとしてテック企業・フィンテック企業がバンキング・プロダクトを提供するケースが非常に増加しており、その裏にはBaaSと呼ばれる多様なインフラ業態が存在しているということが挙げられる。
そして今になって、これまでインフラとしてテック企業の銀行化を下支えしてきたBaaSエコシステムそれ自体が大きなトレンドとして認識され始めたのである。
話題のポイント:本記事ではまず、銀行業務の引き受けにフォーカスしたBaaSモデルの例として、現在ライドシェア大手「Uber」やオンライン株式投資アプリ「STASH」などに対しサービス提供を行なっている「Green dot」を紹介します。
ライセンスによる銀行口座・カード発行、決済処理機能提供モデル
Green dotは米国を拠点とする世界最大のプリペイド・デビット・カード企業。同社のプロダクトはWalmartなどを含む10万超の小売店で利用可能。
預金金利3%・決済時に3%のキャッシュバックを受け取れる「アンリミテッド・キャッシュバック・バンクアカウント」などを筆頭に、カード発行に特化したサービスを提供しています。
既に上場済み、かつ大規模なネットワークをもっている同社ですが、近年はテクノロジーを用いた金融サービスの開拓に舵を切っています。たとえばAppleと提携して米国内のApple PayとApple Cash Cardの送金機能を支えています。
カードの発行や預金・決済処理・給与支払い・税金などの銀行機能から、ブランディングやマーケティングなどのビジネス面のサポートを提供しています。
ライドシェア「Uber」ーードライバーに収入の即日受け取りを提供
Green dotのサービスを利用する企業の1つがUberです。Lyftとのライド・シェア競争に奔走する同社ですが、市場シェアを獲得するためには多くのドライバーを惹きつけ、配車供給量を高めることが一つの重要な戦略となります。そこでUberが目をつけたのは、ドライバーの報酬受け取りの利便性を向上させることでした。
2016年、UberはGreen Dotのサービスを利用するオンライン銀行「Go Bank」発行のデビット・カード「Uber Debit Card」を通し、ドライバーに対し即日で報酬受け取り可能な「Instant Pay」を提供を開始。
Go bankのデビットカード・決済処理機能を活用した「Instant Pay」によって、早くても約1週間待たなければいけなかった支払い状況は、1日に5回まで引き出し可能になり、賃金受け取り体験が一変しました。
実際、想像以上の利便性から数カ月で8万を超えるドライバーからの登録・利用が行われたそうです。現在はドライバーが持っている全てのデビットカードに対応しています。
一般的なデビットカードとは異なり、Go bankのデビットカードは会員費無料。そして、独自の決済プロセスによる低コスト化により、引き出し手数料は無料となっています(一般的なデビットカードの手数料は0.5ドル(約53円))。
また、同デビットカードではWalmartなど米国中の小売店でキャッシュバックがもらえたりと、Green Dotのネットワーク優位性を活かした差別化ポイントも存在。カード表面には“Uber”の文字があり、細かなブランディング・サポートもおこなっていることが分かります。
オンライン株式投資「Stash」ーーデビット決済によるリワードシステムと顧客資産の流動性強化
次に「STASH」の例を挙げます。同サービスは5ドルから取引開始可能なオンライン上の株式・ETF(上場投資信託)の売買プラットホームを提供。ミレニアム世代向けに、誰でも簡単に投資に参加できるという点が強み。資産管理教育コンテンツや自動貯金・投資ツールなどの提供も行なっています。
<参考記事>
Green Dotとの提携により、StashはVISA連携のStashデビットカードの発行と、それに紐づいた銀行口座をアプリ内に組み込むことができるようになりました。
ユーザーがStashで稼いだ収益は、Greed Dot口座と連携しており管理できます。口座に紐づいたデビット・カードを用いれば全米中の1.9万箇所のATMで出金ができるようになり、かつVISAネットワーク内の実店舗・オンラインでの商品購入もおこなえます。
Green Dotのネットワークを活かす形で、Stashデビットカードは「Stock-Back」というリワードシステムを実現させました。Stcok-Backとは、ユーザーが商品を同デビットカードによる決済で商品購入する度に、その商品を提供する企業の株式を少額分ポイントとして受け取ることができるシステムを指します(ETFシェアの場合も有り)。
加えて、同社は独自の決済処理技術によって、Stashユーザーが稼いだ収益をアプリ内銀行口座に着金させ、決済や出金できる状態にするまでの時間を以前より2日ほど早めることに成功。
上述したデビット・カードの存在はその後の決済・出金までの速度を大幅に高めるメリットがあるため、カードと決済処理プロセスは合間って顧客資産の流動性の劇的な上昇に繋がっています。
一見シンプルなサポートにも思え、UberやStashが自社でオリジナルに導入できるのではないかとも考えられますが、Green Dotの存在は迅速な導入・コスト削減のために必要不可欠です。
仮に上述したスキームをテック企業が自社だけで行うとなると、カード発行や口座発行にはコンプライアンスの重い金融ライセンスが、その決済処理にはプロセッシング技術が求められ、結果的に大きな手間・時間が必要になるからです。
Green Dotはこうしたワークフローを企業がすぐに実現するためのライセンス(カード発行・銀行免許など)・技術(決済処理)を有し、パッケージ化して引き受けるBaaS企業なわけです。
実は記事冒頭で紹介したKyash Directも、Green Dotと似たようなカード発行・決済処理を一括で請け負うBaaSモデルを採用しています。
銀行とフィンテック企業を繋ぐAPIインフラ提供モデル
さて、ここまで、BaaSの中でも「金融ライセンスを活用してテック企業ないしフィンテック企業の銀行代理サービスを提供するモデル」の一例であるGreen Dotの事例を取り上げてきました。
ですが、よりBaaSサービスの多様性を把握するために、以下では「テクノロジーに特化した、企業に銀行APIインフラを提供するモデル」の代表であるPlaidについても、簡単に紹介します。
銀行の顧客情報をテック企業へ提供するAPIサービス「Plaid」
PlaidはAPIインフラ型BaaS。Plaidを利用するアプリは同社のAPIを通して即座に銀行の顧客口座情報の認証・取得・更新ができます。
具体的には、ファイナンス・アプリの決済・送金トランザクション反映や残高確認、トランザクション履歴確認、KYC、資産運用履歴確認などの処理の高速化・簡易化が可能になりました。
APIを通して、米国・カナダの約1万の金融機関(銀行・クレジットユニオン)と多くのフィンテック企業、そして2,000万人以上の消費者を繋ぐインフラとなったPlaid。
同社は既に決済・レンディング・資産管理アプリの開発に欠かせない存在となっており、事実、オンライン株取引「Robinhood」や仮想通貨取引所「Coinbase」、モバイル送金「Venmo」、国際送金「Transferwise」などの錚々たる企業らに利用されるユニコーンにまで成長しています。
BaaS型サービスの多様性と位置付け
記事冒頭で述べた通り、BaaSという言葉は未だ定義が曖昧で、確立した特定のビジネスモデルを指す概念ではありません。しかしアプローチに多様性があることもBaaSの魅力です。
欧米では銀行のフィンテック企業に対する銀行APIの開放や銀行業務ライセンスの付与などの動きが活発化しており、その追い風を受け、銀行はフィンテックを取り込み、フィンテック企業は銀行化するといった流れが加速しています。
位置付けとしては、“銀行化”部分を低コスト化によってアシストする新しい金融インフラがBaaSといったところです。
今後上述したテック企業・フィンテック企業のバンキング・サービスの提供の潮流が世界中で増加していくと、BaaS型サービスへの需要もいっそう上昇し、サービスの多様化が進んでいくことになります。
BaaSが一般消費者の目に見えるようになることは基本的にはありませんが、BaaSサービスの多様化・充実は、今私たちが日常的に使っている消費者向けのフィンテック・プロダクトの利便性にも当然繋がってくるため、今後もその発展から目が離せません。
Image Credit Source : CB Insight Global Fintech Report Q2 2019 , Green dot, Uber Instant Pay, STASH, Plaid
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