新型コロナウイルスの感染拡大で、落ち込む旅行業界と盛り上がるeコマース

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新型コロナウイルスが中国全土および世界の複数の国に野火のように広がり、アジアのスタートアップやテック企業は影響を受けている。旅行業界は特にだ。

旅行の予約が20%から60%落ち込んでいます。(インドから)中国行きだけではなく、東南アジア全体です。

そう語るのは Cleartrip の航空部門グローバルヘッドである Balu Ramachandran 氏だ。同社はインドのオンライン旅行業界のリーディングプレイヤーである。もし大流行が続けば、最も多くのインド人が東南アジアの国々を訪ねる4月から6月までの、観光シーズンのピークに観光旅行産業が影響を受けることになる。

ジャカルタのスカルノ・ハッタ国際空港で国外へ向かう旅行者に対し、マスクを配布する Traveloka の従業員
Image credit: Traveloka

その他のオンライン旅行代理店もウイルスの大流行にマイナスの影響を受けている。ジャカルタ拠点の Traveloka は、明確な数字は挙げなかったが、現在の予約は2019年12月よりも少ないと述べている。しかしながら、12月は旅行のピーク時期であり、中国行きの複数のフライトが一時中断されていることを考えれば、この減少は驚くことではないと Traveloka のチーフマーケティングオフィサー Dionisius Nathaniel 氏は言う。

SARS の致死率9.7%と比べれば、感染者3万人で2%が死亡というコロナウイルスの致死率は高くないように見える。しかし、大流行によって世界経済が被るコストは、ほんの8,000人超が罹患した2003年の SARS の3倍から4倍になるかもしれないと考えている専門家もいる。

現時点では、弊社プラットフォームでは(現地当局の)指示に従い、今回の状況の影響を受けている目的地へのフライトを一時的に中断しています。これは複数の航空会社が発表した公式情報に合わせたものです。弊社が主に注力しているのは、この状況がどう発展するのか注意深く監視することです。(Nathaniel 氏)

Traveloka はスカルノ・ハッタ国際空港で国外へ向かう旅行者に対して、ウイルスの拡散を防ぐためのマスク配布を始めている。一方で競合の Expedia は中国や香港に向かうユーザに、柔軟な返金機能を開始している。Trip.com は中国へ向かう旅行客、ならびに中国からの旅行客の予約を受け付けた中国国外の3万カ所のホテルに対して、無料キャンセル規約を拡大している。

e コマースへの影響

悪いことばかりではない。ウイルスの大流行で旅行業界はネガティブな影響に耐えているが、e コマース企業はここ数週間のビジネスが盛況であると伝えている。

シンガポールの Qoo10 ではヘルスケア製品、特にマスクや手の消毒薬、そして免疫力を高めるビタミン C やブラックエルダベリーエキスのようなサプリの、ページビューや売り上げが上昇しているという。同社は具体的な数字は明らかにしていない。

Qoo10のスポークスパーソンは次のように述べている。

トラフィックと売り上げは1月20日、春節の直前という早い段階で増加し始めました。祝日が終わると、売り上げは指数関数的に伸びました。メディアの記事が大衆の関心を高めていますし、その逆もまたしかりです。

実例として、本記事を書いている現時点で、Qoo10 のホームページの「ホットトレンド」欄は「サージカルマスク」や「手の消毒薬」関連の検索語句で埋め尽くされている。

Qoo10 のホームページの「ホットトレンド」欄

同地域の e コマースプラットフォーム Lazada は、東南アジア全体で特定の製品に対する需要が高まっているとしている。

Lazada Group のチーフストラテジーオフィサー Magnus Ekbom 氏は次のように述べている。

ビジネスの向上を誇っている場合ではありませんが、東南アジア全体で1週間から2週間前と比べると上昇しています。特定のカテゴリークラスタでは1週間前と比べて30%から40%上昇しています。シンガポールでは RedMart が量が増加している一例です。

影響はインドネシアのような国にも及んでいる。同国では症状が確認されたという報告はないが、薬局やスーパーマーケットではマスクや手の消毒薬が売り切れになっていると報じられている。

サプライチェーン

e コマースプラットフォームの Bukalapak のスポークスパーソンによれば、同プラットフォームでは医療用マスクや防塵マスクの売り上げが2倍になっているとしているが、具体的な数字は明らかにされていない。

ここではサプライチェーンの確保が重大な懸念となっている。Qoo10は需要が高い製品の価格を手頃に抑えようと対策を打つだけでなく、より多くの海外の業者に在庫をシンガポールへと提供してもらうよう促したり、直接自身で買い付けることで、マスクやその他ヘルスケア製品の国内供給を増やすべく努めている。

Qoo10のスポークスパーソンはこう述べている。

現時点では、週末にかけて13万個のマスクが韓国から届く予定です。

また Bukalapak もこういった製品の供給を絶やさぬよう、製造業者と「緊密に協力」している。Lazada の Ekbom 氏は、中国からの国境を越えたビジネスは同社のビジネスにとって「小さな部分」ではあるが、中国のサプライチェーンは、東南アジアおよび全世界において、e コマースだけではなくあらゆるものにインパクトを与えると述べている。

中国では旧正月の休みの期間を延長していましたので、フルフィルメントにいくらかの遅れは覚悟していました。

しかし、人々の動きは鈍っていても、全体的な貨物量には「非常に限られた」混乱しかなかったという。

当局からはサプライチェーンに混乱を起こさないようにという、強い要望がありました。

インダイレクトデリバリー

コロナウイルスを取り巻く事態の進展は流動的なままだが、多くの企業は保健当局のガイドラインを基にした予防措置を導入し、状況を注視しているようだ。

例を挙げれば、Alibaba(阿里巴巴)のフードデリバリー部門 Ele.me(餓了麼) や新しい小売りスーパーマーケットチェーン Freshippo(盒馬鮮生)は、中国で「インダイレクトデリバリー(間接配送)」サービスをローンチした。Alibaba のスポークスパーソンによれば、これは配達の前に連絡を取り、商品を指定されたポイントに置くことで、配達員と顧客が直接的な接触を避けられるようにするものである。他の企業も従業員が自宅で仕事をできるようにしている。

ウイルスのさらなる拡散を防ぐには、警戒することが非常に重要だ。例えば、Grab は当局の忠告に従った予防措置として、ウイルス保持の疑いがあるユーザのアカウントを一時的に使用不可にすると述べた。

そして2003年の SARS の流行と同様に、この新たなコロナウイルスの流行にも希望はある。

Ctrip(携程) と Skyscanner も所有している Trip.com Group CEO の Jane Sun(孫潔)氏はこう述べる。

SARS のときの経験から言えば、コロナウイルスの流行が収まれば、旅行の需要は戻るでしょう。SARS が収束した際は、2倍から3倍の需要がありました。医療関係者が予防の方法を開発し、ウイルスを管理下に置くことができさえすれば、需要や購買力は発生します。

【via Tech in Asia】 @techinasia

【原文】

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