デジタルノマド向け賃貸マーケットプレイス「Anyplace」シリーズAで530万ドル調達ーーLife as a Serviceへ拡大目指す

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Credit by Anyplace

家具付きの部屋、ホテルの賃貸サービスを提供する「Anyplace」は5月12日、シリーズAで530万ドルの資金調達を発表した。GA Technologiesがこのラウンドをリードし、他の出資者としてはEast Ventures、サイバーエージェント(通称:藤田ファンド) 、三井住友海上キャピタル、デジタルベースキャピタル、Heart Driven Fundが参加した。また個人としてもJason Calacanis氏、本田圭佑氏、富島寛氏が参加している。同社の創業は2015年、サービス立ち上げは2017年である。

Anyplaceはホテルの部屋や家具付き住宅を月ごとに契約して借りることができるオンラインマーケットを運営。最近ではホテル以外にCo-livingの物件も取り扱っている。住宅やホテルを所有せず、集客と手続きの処理を行い、手数料として10%を徴収するモデルだ。月額契約時におけるホテルの割引率は通常30〜50%だが、これによりホテルは月額収入という新しい収入方法を得られる仕組みになっている。

現在23カ国70都市で利用可能。予約可能部屋数は1万室以上がマーケットプレイスに掲載されている。月間流通総額の成長率は新型コロナウィルスによる影響がある前で20%を達成していたという。累計顧客数は1,000人超。

今回の調達資金を用いて、ライフスタイルを提供するプロダクトを開発予定。具体的には年内にCommunity・Perks・Loyalty Programなど、ノマド的なライフスタイルをより促進できる仕組みをローンチするとのこと。

Airbnbとは違う、「居住」という強み

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Credit by Anyplace

さて、withコロナ時代の資金調達だ。これからやってくるであろう経済低迷期を乗り越えるための調達をどこも急いでおり、その一環としても受け止められるかもしれない。だが、筆者個人としてはそんなコンサバティブな調達としては見ていない。理由は2つある。

1つは「居住」という提供価値。

短期滞在としてみれば、コロナの影響でホテルや民泊利用は沈んでいる。たとえばAirbnbだ。先日、Airbnb CEOのBrian Chesky氏は1,900名の従業員解雇を宣告した。また2020年は、2019年の収益約48億ドルの半分しか計上できない可能性をメディアで報じられている。明らかに不動産系スタートアップには苦難の時代と言えよう。

だが、ここでAnyplaceの提供価値が活きてくる。同社はデジタルノマド向けの中長期滞在ニーズに焦点を当てている。ホテルの利用価値を「滞在」から「居住」へと変えているのだ。

たしかにAirbnbを筆頭に、宿泊系サービスは大きな影響を受けている。しかし、これは短期滞在ニーズに集中しているゆえの打撃である。一方のAnyplaceは長期滞在ニーズに着目している。この違いはミドル・ロングスパンで見れば大きい。

with-コロナの現在、外出自粛が市場に横たわっているため、AirbnbもAnyplaceも大きなダメージを受けるはず。他方、市場が徐々に持ち直してくるpost-コロナ時代には、娯楽目的の旅行需要より先に、居住需要の方が先に持ち直す可能性がある。

完全オンラインで仕事をする習慣ができたことから、仕事のために各地を転々とする行動は今の自粛の反動のように加速すると考えられる。このニーズを先にすくい取れるのはAnyplaceの可能性が高く、短期滞在にサービス価値を振っているAirbnbやExpediaのような旅行市場の巨人ではない。安直に「ホテル版Airbnb」のように解釈するとAnyplaceの可能性を見失う。

Googleより強いデータ資産を持つ未来

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Credit by Anyplace

もう1つは「インホーム・コマース」の可能性だ。

生活拠点をホテルに移す人たちが増えている。そこにあらゆるライフサービスを提供することで新たな市場が開く算段を持っているのがAnyplaceだ。

居住に関連するライフサービスの強化は高い可能性を秘める。1社事例を挙げたい。マンション住人向けの家事手伝いサービスを提供する「Hello Alfred」だ。同社は入居者向けに生鮮食品配達や洗濯、食器洗いなど、あらゆる生活サービスを提供する。利用者には専属スタッフが付き毎回訪問するシステムのため、細かなライフスタイルまで知り尽くしている。オンラインサービスでは獲得できない「信頼」が同社の強みである。

Hello Alfredは不動産ディベロッパー(マンションオーナー企業)から収益を上げ、入居者からはお金を取らないB2B2Cモデルとして成長を続けている。生活者一人一人の購買活動に直接介入し、家の外に出ることなくあらゆる製品・サービスを提供することで「インホーム・コマース」という新経済圏を作り出した。生活者の情報を隅から隅まで知っているため、Googleより密な個人データ資産を持つのが特徴だ。

不動産オーナー企業との契約を地道に積み重ねているモデルであるため収益は確実に上がる。他方、エンドユーザーの満足度を高め、ネットワークを積み重ねることで新しい提供価値を世に生み出した。あまり知られていないスタートアップだが、個人的には大好きな企業の1つになっている。

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Anyplace 創業者 CEOの内藤聡氏

さておき、筆者はAnyplaceもHello Alfredと同様の生活体験価値とデータポイントを獲得できると踏んでいる。Hello Alfredの場合、すでにマンションに住んでいる人に生活サービスパッケージを提案することでここまで成長してきた。

Anyplaceの場合はと言えば、ホテルネットワークを自ら作り、その上にサービス展開する流れとなる。有形資産を持たないマーケットプレイスモデルとは言え、新市場を0から立ち上げるに等しいため、立ち上がるまで比較的時間がかかる。

ただ、利用者の生活全ての面倒を見るサービス領域にまで手をかければ、これは先述したようにGAFA勢を超えるデータ企業へと様変わりするのだ。時間コストをかけてでもやりきる意味が見えてくる。

Anyplace居住者との「信頼」を勝ち取ることができれば、次の転居先でもAnyplaceを継続利用してもらえる確率も上がる。個人の生活習慣データを引き継げば、担当が変わってもストレスのない生活体験を世界中どこでも再現できるからだ。実際にAnyplaceがどう動くかは別として、筆者はこのLife-as-a-Serivce(通称LaaS)のモデルにとてつもない可能性を感じている。

もっと言えば、Hello Alfredは2018年時点でシリーズBを突破、累計5,000万ドル超の調達に成功している。ライブサービス軸で語れば、Anyplaceが同程度の伸び代を持っていることが想像できるし、今回の530万ドル調達のもっと先、Anyplaceがさらに次のラウンドを重ねてバリュエーションを高められる可能性は十分にある。日本に拠点を置いていれば、おそらくスモール上場規模までは全く夢ではないはずだ。

海外市場でサービス展開をする日本人起業家で、この領域にまで足を踏み入れられて人は数える程しかいないだろう。内藤氏は確実にその中に数えられる存在となると感じられる。

繰り返しになるが、市場は新型コロナの影響で大きく低迷するだろうし、トラクションの大幅減少も容易に想像がつく。しかしAnyplaceの調達は、post-コロナに到来する新たな生活スタイルへの準備するための調達と捉えられる。生存するための調達という意味合いだけでは測れない市場の展望がある。

とりわけ、そう簡単には発生しない私たちの行動習慣が変わるタイミングが今まさに起きている。リモートワークが増えれば、コロナが去った後には自由に世界中を移動しながら仕事をするデジタルノマド層が増えることも想像される。そしてAnyplaceが狙うのはこうした時代の門出直後に誕生するマーケットだ。ホテルやCo-livingをレバレッジする、新たな長期滞在領域を寡占する可能性を大いに秘めていると考えている。

最後に、有難いことに筆者はAnyplaceを長く見させてもらっている。創業者の内藤氏がアイデアを浮かんだシェアハウスに一緒に1年近く住んでいた仲であり、同じ2015年にサンフランシスコで起業した仲でもある。ついにシリーズAまできて身も震える想いだ。そしてシリーズAのタイミングで「居住」と「生活」の両方を囲うサービスへと進化を遂げようとしている。厳しい時代だが、ここまで書いてきたように眠った巨大な可能性しか感じない。引き続き“日本人シリコンバレー起業家”の代名詞に目が離せない。