16歳の少年とMicrosoftの挑戦、Mixer閉鎖は失敗だったのか?

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Image Credit:Mixer

ピックアップ:The Next Step for Mixer

ニュースサマリ:Microsoftは22日、ライブストリーミングプラットフォーム「Mixer」を2020年7月22日に閉鎖すると発表した。またMixerのコミュニティと技術はFacebook Gamingに統合される。Mixerで配信契約を結ぶパートナーはFacebookのパートナー契約に移行できる。しかし契約するかは任意である。

話題のポイント:16歳だったMatt Salsamendi氏が立ち上げたBeamというストリーミングプラットフォームが、Microsoftに売却されてMixerという名前に変わったとき、彼は18歳でした。そして今年7月に完全閉鎖されるとき、彼はまだ22歳です。

Microsoftの看板を背負ってAmazon傘下の巨大ライブストリーミングプラットフォームTwitchへ挑戦を託され、4年の月日を大きな意思決定の連続で過ごしたのちに閉鎖となり、Facebookにコミュニティと技術を移行することになったMixerは失敗だったのでしょうか。

Windows PhoneやInternet Explorerと並びMicrosoftの代表的な失敗と批判され、パートナーからも不満が飛び交う今回の閉鎖発表。それもそのはずで、TwitchのNo.1、2ストリーマーのNinja、Shroudに契約金を支払って独占配信契約を結ぶ強行策に出たのにも関わらず、1分当たりの視聴者数はTwitchのわずか2.5%しか獲得できずMicrosoftに多大な負債を生んでしまったのです。

確かにMixerだけに注目すると失敗です。Twitchを脅かすどころか市場で最も伸びませんでした。しかし、Microsoftの視点からするとゲーム市場とクラウド市場を占拠するための攻めの一手として大成功を招いたと言えるのではないでしょうか。

今後のゲーム市場はクラウドゲームを背景に「ゲームを見る」と「ゲームをする」の壁が低くなり続けます。Google Stadia、Geforce NOW、Amazon と市場が激化していく中ではクラウドゲームの技術基盤だけでなく、YoutubeやTwitchなどのコミュニティ接点を持てているかが重要な要素です。

そして今、コミュニティ形成の競争はゲーム専用から広義なものへと変化しつつあります。YouTubeは動画のストック型から、また、Twitchはストリーミング型から、それぞれのアプローチで拡張を模索中です。実際にTwitchではゲーム以外のジャンルのストリーミングも盛んになってきており、政治解釈の意見交換の場やアーティストの発信の場としても機能し始めています。

こうした市場変化に対応するべく、Microsoftはゲーム事業のクラウドゲームサービス「Project xCloud」のタッチポイントとしてMixerコミュニティに期待していました。

しかしトップストリーマーの配信が成長ドライブではないことが判明したことで、Microsoftはゲームという角度からではTwitchのコミュニティには追いつけないと判断したのです。

一方、これまでのノウハウを活かし、既存の巨大コミュニティにバックエンド技術を導入する形で配信機会を維持する戦略に舵を切った、と考えればどうでしょうか。つまり、MicrosoftがMixer閉鎖と引き換えに欲しかったものはFacebook、Instagramのコミュニティだったということです。

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Shroud のTwitterを引用

他方、Facebook GamingはUXに課題を抱えていました。そのUXの悪さからFacebook Gaming Creator Programに移動して90日間の滞在を選択したMixerパートナーに2,500ドルを支払うとしてるにも関わらず、ほとんどMixerのパートナーがFacebookを選ばない可能性が高いことがThe Vergeの取材で明らかになっています。

この問題を解決してFacebookが得意とするコミュニティ開発に専念するためにも、Mixerが持つ1秒未満のレイテンシストリーミングプロトコルFTL(Faster Than Light)や課金システム、分割画面機能など他社にはない技術的な強みを取り入れたかったはずです。

つまり、Microsoftはコミュニティを、Facebookはツールを補うことを目的としたポジティブな統合だと捉えられることができるでしょう。これまでコミュニティ開発で成功事例がないMicrosoftにとっては最良戦略に思えます。競合がGoogle Stadia × Youtube、Amazon × Twitchという陣形を取る中、Microsoft × Facebookという布陣で対抗できるようになりました。

これだけでもMixerは失敗ではないと断定するのに十分ですが、Microsoftに更なる営利をもたらす可能性があります。それはFacebookがAzureの顧客になるかもしれないということです。

Facebookとの現段階での取引では含まれていないことを明言していますが、Microsoftは2019年5月にSonyのPlayStationと独自のビデオおよびコンテンツストリーミングサービスにMicrosoftのAzureとAIを使用することでパートナーシップを結んでいる例があります。Xbox vs PlayStationというハードウェアで競争する相手をクラウド事業の顧客としたMicrosoftが、直接の競争相手に当たらないFacebookを今後巻き込んだとしても不思議ではありません。

これまで大手クラウドサービスとは距離を置いて動いてきたFacebookが何らかのサービスにAzureを選ぶ布石になるとすれば、MixerはMicrosftにとって大成功だったと断言できるでしょう。

これはMatt Salsamendi氏が16歳から思い描いてきた自社の成功とは違うのかもしれません。しかし、彼の活動はライブストリーミングが歩んでいくこれからの歴史を促進する一つのピースとして貢献し続けるはずです。その結果がどうであれ、不確実性の中で社会にベストを尽くした誇るべき功績だと思います。

今回の発表を受けてライブストリーミング市場はどのような局面を迎えるのか、ライブストリーミングの動きも注目ですが、重役から解かれるMatt Salsamendi氏が今後何を仕掛けるのかにも注目が集まりそうです。

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