「Web MaaS」は回遊経済の真骨頂となるか?——アクアビットスパイラルズ、非接触技術「スマプレ」で大津の自動運転バス実証実験に参加へ

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Image credit: Aquabit Spirals

QR コードや NFC 技術を使って、ユーザのスマートフォンを特定の URL と紐づけるサービス「スマートプレート」を開発するアクアビットスパイラルズが、滋賀県大津市で実施される自動運転バスの実証実験に参加することが明らかになった。実験の日程は7月12日から9月27日までで、JR 大津駅前→びわ湖大津プリンスホテル→JR 大津駅前の周回コース(1周回の所要時間32分間)のシャトルバスで運用される。朝9時のびわ湖大津プリンスホテル発から夜19時32分のびわ湖大津プリンスホテル着まで1日10便運行の予定。

これは、経済産業省や国土交通省が全国で展開する新モビリティの社会実装プロジェクト「スマートモビリティチャレンジ」に採択された、大津市や京阪バスが展開するレベル3の自動運転バスを使った実証実験に参加するもの。乗客の乗降車に際して必要となるバスの OD 情報(origin-destination 情報)の取得を日本ユニシス、乗車認証と料金徴収や MaaS 連携の機能をアクアビットスパイラルズが提供する。

小誌では今年4月、アクアビットスパイラルズの非接触技術による決済プラットフォーム「PayChoiice」を取り上げた。これまでの非接触決済は店舗側に何かしらのデバイスを必要としたが、NFC チップを貼り付けておくだけで非接触決済できる環境を提供可能。先ごろ、Apple が WWDC で披露した「App Clips」も同様の機能を持っていることから、この種の仕組みは世界的にも注目を集めていることがわかる(PayChoiice は Web アプリだが、App Clips はミニアプリのダウンロードが必要になる)。

大津での実験にアクアビットスパイラルズが持ち込むコンセプトは、この PayChoiice を決済から MaaS(Mobility as a Service)へとエンハンスしたものと言えるだろう。都市部の交通機関であれば、鉄道の改札やバスの乗降口に FeliCa 決済のリーダ・ライターが備わっており、キャッシュレスでの乗降車が実用化しているが、少し郊外や地方へ足を伸ばすと切符や整理券+現金決済を余儀なくされるケースが多い。地方でキャッシュレス対応が進まない理由の一つは、リーダ・ライターをはじめとする設備の導入や運用コストだ。

Image credit: Aquabit Spirals

今回アクアビットスパイラルズが実験で導入している仕組み「スマプレチケット」では、ユーザはスマートフォンを運賃箱や車内各所に貼られたステッカー(NFC チップと QR コードが貼ってある)にかざすだけで良い。スマートフォン画面上で人数を入力すれば、ApplePay や GooglePay やクレジットカードで決済が完了する。降車時には、運賃箱や車内各所でスマートフォンを再びかざすと画面上に券面が表示されるので、それを運転士に提示することで一連の操作は終了となる。

この実証実験では自動運転やキャッシュレス決済を導入していることにスポットが当たりがちだが、プロジェクトを担当する京阪バス ICT 推進部の大久保園明氏は、「緑ナンバーを取得しており乗客から料金もいただくので、実験とはいえ営業運転で黒字にすることを念頭に置いている。採算性の問題から地方の交通網が削減されている中で、新たな需要を掘り起こし低コストでの運用を実現し、それを鉄道事業やバス事業に採用していくためのノウハウを蓄積することが狙い」と語った。

今回の実験では定額運賃での運用だが、日本ユニシスのスマートタウン戦略本部の担当者は「OD 情報を取得しているため、将来的には区間変動運賃はもとより、ダイナミックプライシングなどにも応用できる。乗客の行動変容が生まれてきている中で、定期券を使って会社と自宅を往復するだけではなく、それ以外の柔軟な運賃体系にも対応でき、しかも、IC カードよりも簡単に対応できる点は大きい」とアクアビットスパイラルズの仕組みを評価した。

Image credit: Aquabit Spirals

アクアビットスパイラルズ代表取締役 CEO の萩原智啓氏は、「スマートプレートを活用した Web MaaS によって、回遊経済が創出できる」と主張する。

商店街などのスタンプラリーがまさにそれ。回遊経済ということになるが、それと同じことがスマプレ(スマートプレート)でできる。その起点が交通なら MaaS になるんじゃないか、というのが我々の考えだ。

どの乗客がどこから乗ってきて、どこで降りたかを捕捉できるので、それをもとに乗客を商業施設などに誘導するクーポンを配布したりすることも可能になるだろう。

今回の実証実験を推進する大津市と京阪バスでは、今回で3度目となる実証実験の過去回の参加者の中からキャッシュレス決済の実現要望が多かったため、大幅なシステム改修や導入コストを必要としないアクアビットスパイラルズの仕組みに白羽の矢が立ったという。新型コロナウイルスの影響から非接触での商取引行為が推進される中で、現金の授受はもとより切符・改札・運賃箱・券売機さえ必要としない点でもこの仕組みへの期待は大きい。

<参考文献>

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