はじまる「シン・副業」:神戸市が副業人材を活用、変わる大企業の意識(3/5)

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(前回からのつづき)コロナ禍で変わる働き方を、副(複)業という視点で考察している。関連するテクノロジー、採用ステップとしての副業に続いて、今回は行政や大企業がこの副業についてどのような視点を持っているのかを考えてみたい。

24日に開始された神戸市の取り組みがタイムリーだ。

40名ほどの広報関連業務を手掛けられる人材を副業で求めたケースなのだが、興味深いのはやはり神戸市「外」に注目した点だろう。登庁を不要にして幅広い人材を求めることにした。もちろん、プロジェクト単位で言えば、広報やPRなどのプロフェッショナル性が求められる業務を東京や大阪など県外・市外の力を借りることは特に目新しいわけではない。しかし、副業というやや「中に入った」チームワークとして行政がこの働き方に注目したことはやはり、新しい働き方の流れを感じさせる。

今回、このプロジェクトをプラットフォームとして支えたのがクラウドワークスだ。今年1月に立ち上げたハイクラスの副業プラットフォーム「クラウドリンクス」は累計の登録者数5,500名に拡大している。同社の説明によれば、CxOクラスの人材が登録者全体の2割、マーケティング職をはじめとするビジネス系人材が6割で、また、副業者の9割がテレワークにて参画しているそうだ。首都圏のスタートアップなど累計で300社ほどが利用し、また今回のような神戸市といった行政利用も始まっている。

このプロジェクトの事業責任者を務める井上亮氏に企業サイドの思惑などについて話を聞いた(太字の質問はすべて筆者、回答は井上氏)。

コロナ禍で企業の「副業人材活用」はどう変わった

クラウドリンクス事業責任者の井上亮氏

企業や行政における副業(スポットで仕事をする方々)の見方、ひいてはクラウドソーシングを提供してきたこれまでの経緯、経験からどのような変化を感じていますか

井上:ライオン、ヤフー、ユニリーバを皮切りに、今年に入って大手企業や行政が副業人材を募る新たな潮流が生まれつつあります。単に外部人材を募集する企業・行政が増えているのではなく、その依頼内容に変化が見られるのが特徴です。

従来副業の依頼は、決められた業務を遂行する「実行フェーズ(Do)」がメインとなり、発注側はコスト削減を目的としてノンコア業務を単発で副業者に依頼。結果、副業者にも副業=自分の既存のスキルを再利用して収入を得る、お小遣い稼ぎのイメージが定着していました。

しかし、今年に入ってからの大企業・行政の副業募集では、まだ見ぬ課題に向きあったり、課題そのものを発掘する「企画フェーズ(How・What)」を副業者へ依頼したりするケースが増え、副業者という外部人材に、事業・組織のコア業務を委ねる動きが見受けられるようになりました。

チームワークにおける「周辺から中心」への移動ですね

井上:副業者への期待が「コスト削減」から「付加価値創造」へと変化するこの流れは、企業・行政が社内にない知見や、既成概念にとらわれない斬新なアイデアを積極的に取り入れることで、訪れるニューノーマル時代に向け速やかに対応したいという姿勢が現れています。

スタートアップ企業で企画フェーズを副業者やフリーランスに依頼するケースは既に一般的ともいえますが、大企業・行政のこうした動きにより流れは加速し、今後副業は採用に次ぐ新たな人材活用の手段として一般化していくと考えています。

またこの流れにより、個人の副業への意識もお小遣い稼ぎから「本業では得られないスキル・経験を積む新たな成長の場」「将来に向けたネットワーク構築や見識を広げる機会」など、キャリア形成を目的とした自身の資産の底上げツールとして活用しようという動きが生まれており、そうした意味で我々は、2020年を本当の意味での「副業元年」と捉えています。

一方、副業採用は特に一般企業における「業務委託」として定着している面もあります。副業プラットフォームを活用するメリットは

井上:やはりメリットはトップ企業で就業経験のある優秀な副業人材に、スピーディーにアクセスしマッチングを図れる点にあると考えています。知名度のある大企業であれば、当然自前で募集し多くの優秀な人材をスピーディーに集めることは可能です。

しかしながらそのケースに当てはまらない設立間もないスタートアップや、地方の中小企業の場合、自社で副業者にゼロからリーチするには時間・費用など多くのコストが生じます。副業者を活用する真の目的は、マッチング後の事業・組織へのスピード感あるイノベーション創造にあるため、その手前のマッチングに工数を掛けるのは本質的ではありません。

確かに即戦力が魅力ですからね

井上:また、クラウドリンクスとしては専門人材に「プロジェクトの課題解決案を一緒に考えてほしい」といった相談レベルでの依頼もできる点が挙げられます。背景や課題を伝え助力をお願いするスタンスでの依頼の可能なため、専門人材である応募者と「課題をどう一緒に解決していくか」の部分から、同じチームの一員としてコミットしてもらうことが可能です。

企業がハマる副業活用の課題

逆に副業のデメリットや懸念点を企業側はどうみていますか

井上:いくら優秀な副業者の方に参画頂けても、課題の抽象度が高いほど、受け入れ側の体制が整っていないとその力を存分に発揮頂くことは難しく、実際に受け入れ体制が整っていない企業も数多くあるのが現状です。受け入れポイントとしては以下3点となります。

  1. 自社の課題を見つめる・・・重要度が高く、緊急度の低い課題と、自社の目指す姿を洗い出す
  2. 自社の能力を可視化・・・社員の業界・能力・専門教育を分析し、副業人材に任せるべき領域を洗い出す
  3. 協働の意識、経営者、プロジェクト責任者両方のコミットメント・・・マネジメント及び現場が不確実性を乗り越えた付加価値創造に対して、言い訳なしでやりきろうとしているか

特に重要なのは3となり、不確実性に向き合い副業者と共に課題を解決していくというコミットメントが、経営者を中心とするマネジメントレイヤーと現場の責任者の両方になければ「どんな手段をつかっても、過去の慣例を破壊させてでも成功させる」というイノベーションには繋がらず、どれだけ優秀な方に来ていただいても成果が出ない状態となります。

神戸市さんで取り組みを開始されましたが、今後、企業や自治体が副業で新しい優秀な人材を取り入れていく上で留意すべきポイントは

井上:1つは、委託事業に慣れているからこそ、丸投げの姿勢になってしまうことです。丸投げの姿勢では、内部の人が外からの意見・アイデアを取り入れ成長することは見込めませんし、プロジェクトでも大きな変化・インパクトを起こしづらいです。丸投げするのではなく副業者と学び、一緒に成長する気持ちが重要です。

もう1つは予め決められた範疇の中でしか仕事をさせなくなってしまうことです。これは特に行政ですが、やはり仕組み的に先にある程度決めた予算と決めた計画の中でリスクなく進めることが正とされていることが多いです。

しかし、副業者を受入れる理由に「既成概念にとらわれない斬新なアイデア」を期待されているのであれば、プロジェクトを進める中で変化に柔軟に対応する姿勢がないと、結局「当初に決めた範囲」の中だけの仕事しか任せられず、これまでの委託・外注とそんなに変わらなくなってしまう可能性があります。

ありがとうございました

ーー副業を考える上で、課題のところにトップコミットメントがあったのは前回掲載したOffersと共通している。副業を内職の人として捉えた場合、やはりマイクロタスクに留まってしまうのだろう。確かにヤフーや神戸市もそれぞれトップレイヤーが副業の人材活用を自らスポークスマンとして伝えていた。そう考えると、こういった可能性の高い人材活用は、経営陣の思考次第ということになってくるのだろう。

次回は少し視点を変えて副業と人材の育成についてケーススタディをお伝えしようと思う。

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