ワールドカップで審判支援「IoTボール」のスゴイ仕組み/世界のフットボールテック(1)

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Image credit:KINEXON

サッカーのプレーヤー人口は2.6億人で、さらにファン人口は33億人と世界人口の約4割を占める大きな市場だ。国の威厳を賭けた競争が繰り広げる中で、当然、テクノロジーの力を借りて、他者よりも少しでも有利なゲーム展開やトレーニングの効率化を狙おうとする動きが出てくる。

世界的に見てもサッカーが盛んなヨーロッパでは、例えば、UEFA(欧州サッカー連盟)はイノベーションハブを設けて、スタートアップとの協業やスタートアップの開発した技術の現場導入を促すような動きもある。現在ワールドカップが開催されているが、ゲームの進化や文化の醸成の裏にどんなスタートアップの技術が貢献しているのか。彼らのことを思いながら観戦すれば、楽しみも一段と増すに違いない。

ドイツのミュンヘンに拠点を置くKINEXONはIoTスタートアップだ。2012年に設立されて以降、Thomas H. Lee Partners がリードするシリーズAの資金調達ラウンドで1億3,000万ドルを集めており、ここにはBMW i VenturesとTelekom Innovation Poolも参加している。

同社が開発するのはスポーツ業界で特定の物をリアルタイムトラッキングする技術だ。センサーやエッジコンピューティング、超広帯域(UWB)を扱えるハードウェア技術とクラウド技術を組み合わせており、まさに今、彼らは開催されているFIFAワールドカップカタール2022に大きく関わっている。

同社は超広帯域無線周波数と慣性測定ユニット(IMU)を内蔵したコネクテッドボールをAdidasと共同で開発し、ワールドカップ公式球として採用されたデバイス内蔵ボールの採用は同社が初の事例でとなる。これはビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)を強化する役割を持つ。

Image credit:Adidas

ボールの中にはUWBとIMUの両方を利用できる軽量センサーが設置され、ボールの位置とプレイヤーがボールに触れた情報を1秒間に500回も発信し、スタジアム内に設置された同社のローカル ポジショニング システム(LPS)と組み合わせることで、リアルタイムでプレイヤーのキックポイントを正確に検出できるようになっている。Sport Innovation Societyの取材のなかでFIFAは、今大会から採用された同社技術を用いることで、審判に必要な時間を現在の平均70秒から、約15〜25秒に短縮すると述べている。

同社は2021年、プレイヤーとボールトラッキングに関するFIFA推奨プロバイダーに世界で初めて指定され、テストを繰り返してきた。その結果、ドリブル速度、パスとシュートの速度、パスの精度だけでなく、ターンオーバー、ボール ゲイン、スペースコントロール、ショットやパスなどのアクションの正確な瞬間、プレスなどのより高度な指標を検出することに成功している。

同社によると、今後リーグ戦やクラブ戦においても公式戦へ導入される可能性があるという。ワールドカップでの審判へのメリット提供にとどまらず、プレイヤーのパフォーマンス確認や戦術分析、リアルタイムで視覚化することでエンターテイメントの一部としての機能することが予測される。

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