WebSummit Rioが初開催、2.1万人が参加——自閉症の子どもの発達教育をDXする「Jade」がピッチ優勝

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Image credit: WebSummit

参加者規模で世界最大を誇るスタートアップカンファレンス WebSummit は昨年、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロに進出することを発表していたが、その第一回目となるイベントが2日〜5日に開催された。リオ・デ・ジャネイロ中心部のコンベンションセンター「Riocentro」には、91カ国から21,000人以上が集まり、970社以上のスタートアップが出展または登壇した。

なお、WebSummit は今回、新たにカタール・ドーハに進出することを明らかにした。初の WebSummit Qatar は来年3月に開催される予定で、来年は3月に WebSummit Qatar、4月に WebSummit Rio と2ヶ月続けて、WebSummit 地域イベントが開催されることになる(例年のスケジュールに沿えば、6月に Collision、11月に WebSummit が開催されると見られる)。

WebSummit(本家、リスボンで開催)、Collision(トロントで開催)、RISE(以前は香港で開催。マレーシアのクアラルンプールへの移転が発表されたが休止中で Web サイトには2025年3月に香港で開催とある)とあわせ、4ヶ所目のロケーションとなる(かつて発表された WebSummit Tokyo は、コロナ禍を経て City-Tech.Tokyo に置き換えられたと見る公算が大きい)。

WebSummit Rio には、アメリカで黒人人種差別に反対する運動「Black Lives Matter」共同創業者 Ayọ Tometi 氏、画像編集アプリ「PicsArt」共同創業者 Mikayel Vardanyan 氏、メール高速処理ツール「Superhuman」創業者兼 CEO Rahul Vohra 氏、ブロックチェーン「Tezos」共同創業者兼 CEO Kathleen Breitman 氏、リオ市長 Eduardo Paes 氏、Animoca Brands 共同創業者兼 エグゼクティブチェマン Yat Siu 氏ら総勢400人が登壇した。

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また、恒例となっているピッチコンペティション「PITCH」には地元ブラジルを中心にスタートアップ42社が登壇し、準決勝には3社が残った。準決勝の審査員を務めたのは次の方々。なお、オーディエンス投票の結果も25%の割合(すなわち、4人目の審査員として)で評価が加算された。司会は、WebSummit / RISE Co-Host の Casey Lau 氏が務めた。

  • Claire Diaz-Ortiz 氏(Venture Capital Scout, Kleiner Perkins)
  • Santiago Fossatti 氏(Partner, Kaszek)
  • Pierre Schurmann 氏(Founder & CEO, Nuvini)

【優勝】Jade Autism(ブラジル)

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Jade Autism の CEO Ronaldo Cohin 氏は、現在9歳になる息子 Lucas 氏が自閉症と診断し、本人の良い面を引き延ばすべく、データサイエンティストとしての特別な教育を受けさせ始めた。しかし、多くの場合、教師や親は、子どもが何を求めているか、認知発達のために必要なものを学んでいるかどうかを把握するのは難しい。そこで、神経心理学者、ゲームデザイナー、教育研究者などからなるチームを結成し開発したのがゲームベースのプラットフォーム「Jade」だ。

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Jade には1,500のゲームが用意されていて、プレイ中には子どもの認知を刺激する共に行動データを収集し、それを分析することで専門家のための予後や発達状況を確認するレポートが作成できる。このレポートを元に、子ども一人ひとりに合わせた指導ができる専門家を育成している。また、新機能により、学校では、幼い子どもの自閉症を予測することができるようという。現在、180カ国で16万人のユーザがいて、4つの学区と300の学校で採用されている。

ビジネスモデルは B2B と B2C の2種類で、家庭向けは月間サブスクで、学校向けは年間契約でデータ収集や教師向けプラットフォームが利用できる。世界には3億8,000万人の認知障害を持つ子どもがいて、イギリスのように、自閉症だけで年間320億ポンドを費やしている国もあるという。2020年には、ドバイで開催された「Gitex Future Stars」で優勝。これまでに、イギリス政府の「Global Entrepreneurship Program」、アブダビのアクセラレータ「Hub 71」に採択された。

Jobecam(ブラジル)

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Diversity & Inclusion(人材の多様性)は世界中の企業において課題となっているが、依然として、仕事の機会はすべての人に平等に与えられるものではない。スキルや経験以外の、性別・人種・出自・見た目などで判断されてしまうのだ。Jobecam はこうした問題を解決する、匿名のビデオ面接プラットフォームだ。主に本社オフィスにおける最終面接の前の、事前スクリーニングなどで使われることを想定して開発されている。

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面接官は、アバターベースで採用候補者のプロフィールを分析する。Joobecam の AI が候補者の声を変え、個人データもすべて隠し、履歴書も匿名化される。匿名でのライブビデオ面接も可能だ。同社の市場は主に北米と南米で、Greenhouse などの採用管理プラットフォームとの提携などを通じて、オーガニックにユーザを集めてきた。これまでに候補者30万人がデータベースに登録し、企業は1,000社が登録しているという。

Jobecam は2021年、Google Cloud Blog に投稿された「女性歴史月間特集企業」の記事で注目を集め、その後、ハーバードビジネススクール卒業生で構成されるブラジルのエンジェル投資家グループ「HBSAAB」から出資を受けた。単なる匿名面接ではなく、CEO の Cammila Yochabell 氏によれば、Jobecam は採用プロセスを約80%短縮し、採用における多様性を70%向上させるとしており、1年後には登録候補者数を100万人にまで増やすことを目標としている。

Wisecut(アメリカ)

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2020年現在、動画はインターネットトラフィック全体の82%をs占めるなど、コンテンツフォーマットとしてはメジャーかつ魅力的な存在になった。しかし、文字中心のコンテンツに比べ、動画は編集に時間がかかることが大きな課題だ。動画全体を把握し、それを適切に編集し視聴者に見やすいものに仕上げるために、編集者は録画した動画素材をフル尺で確認した上で編集点を決める作業を余儀なくされる。この作業を簡素化すべく、Wisecut は音声をベースに、全体の文脈を数分で理解できるアルゴリズムを開発した。

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Wisecut はジェネレーティブ AI を駆使し、素材の中から最高の瞬間を選び、ソーシャルメディアで視聴者を魅了するタイトルや説明を自動的に付与することができる。月間アクティブユーザは5万人を超え、前月比130%のペースで成長している。また、Wisecut はフリーミアムモデルで提供雨されているが、有料課金ユーザは前月比36%のペースで増加傾向にある。創業者である Ivo Machado 氏と Vicente Machado 氏の兄弟はビデオ編集やソフトウェアエンジニアリングで15年の経験があるそうだ。

Wisecut はこれまでに、Google for Startups、Meta、マイアミのアクセラレータ TheVentureCity、YouTube のプロダクトディレクター Trond Wuellner 氏から支援を受けている。さらに今週日曜日(4月30日)、Tim Draper 氏とパワーブレックファーストを共にした際に、彼が投資する意思を示したサインをナプキンに記してくれた、といって実物を披露した(上の写真。ちなみに Draper 氏も WebSummit Rio で登壇するため当地を訪問していた)。

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