A1A、自動車業界向け調達最適化SaaS「UPCYCLE」をローンチ——新たに4億円を調達、豊田通商とは資本業務提携も

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「UPCYCLE」
Image credit: A1A

製造業の調達コスト最適化を支援する A1A は5日、自動車業界向けの新サービス「UPCYCLE」を正式ローンチした。同時に直近のラウンドで4億円を調達したことも明らかにした。ラウンドステージは不明。このラウンドは豊田通商(東証:8015)がリードし、ALL STAR SAAS FUND、⻑瀬産業が参加した。

これは A1A にとって、2019年3月2019年10月に実施した調達に続くものだ。ALL STAR SAAS FUND はフォローオンでの参加(以前は、BEENEXT として)。今回の調達を受けて、A1A の累積調達額は約10億円に達した。

UPCYCLE は、見積書をアップロードするだけで見積明細情報をデータ化・加工し、比較・分析を可能にするシステムだ。これにより、調達・購買担当者は単純作業ではなく、データに基づくコストダウン検討に多くの時間を割くことができるようになる。

A1A は2018年の創業以来、製造業の購買部門向け SaaS の開発に取り組んできた。当初は「RFQ クラウド」というサービスを展開していたが、その後、ピボットを決断し、2年間の開発期間を経て UPCYCLE を生み出した。A1A 代表取締役社長の松原脩平氏は、RFQ クラウドから UPCYCLE へのピボットの背景について次のように説明してくれた。

RFQ クラウドは、サプライヤーに見積もりフォーマットの統一を求めるシステムでした。しかし、全てのサプライヤーの協力を得ることは難しく、データの100%取得が困難でした。また、業界ごとに優先順位や購買の仕方が大きく異なり、一つのシステムで全てのニーズを満たすことが極めて困難だったのです。

UPCYCLE では、サプライヤーに新たな負担を強いるのではなく、購買側が受け取った見積書をそのままシステムに取り込み、AI と人間によるチェックを組み合わせてデータ化する方式を採用しました。これによって、業界特有の慣行や複雑な取引構造にも柔軟に対応できるようになりました。

A1A 代表取締役の松原脩平氏

さらに、製造業全体ではなく、自動車業界に特化した理由について、松原氏は次のように述べた。

自動車産業は製造業の中でも特に大規模かつ複雑なサプライチェーンを持ち、コスト削減の影響が大きいため、最適な参入点だと判断しました。また、対象となる業界を絞ることで、マーケティングメッセージの明確化とプロダクト開発の焦点を絞ることができると考えたのです。

製造業において、サプライチェーンは経営上の最大の制約条件です。調達力の不足は、ものづくりや経営の選択肢を狭めることにつながります。特に自動車産業では、売上の60%程度が材料費であり、1,000億円の会社であれば600億円を買っているという世界です。調達コストの最適化は非常に大きなインパクトを持つのです。

実際、グローバルで事業展開を行う製造業は現在、多くの課題に直面している。材料価格高騰や為替の影響による調達価格の上昇、地政学リスクによるサプライチェーンの混乱(「買えないリスク」の増加)、SDGs への対応による業務量の増加、海外競合企業とのコスト競争の激化などだ。

これらの課題に対応するため、購買・調達業務の高度化が急務となっているが、多くの企業では旧態依然とした業務プロセスや情報の属人管理が残っており、組織的・戦略的な調達活動の実現には大きな障壁がある。松原氏はこの状況を「調達が置かれている状況は非常に複雑」と表現し、「考えなければならないことが増えている」と指摘した。

UPCYCLE は、これらの課題を解決するため、社内外から集まる調達関連情報(見積・仕様書・図面など)を活用可能な形で蓄積し、データに基づく意思決定を可能にする。ユーザーが見積書をシステム上にアップロードするだけで、見積書に記載された見積明細情報が活用できるようデータ化・加工され、UPCYCLE上での比較・分析によってデータに基づくコストダウン余地の発掘が可能になる。

今回の資金調達では、豊田通商がリード投資家として参画した。豊田通商との資本業務提携により、A1A はプロダクトの販売拡大や共同事業開発を加速させる。松原氏は提携の意義を次のように語った。

豊田通商さんと組むことで、コストの分析結果をもとに、ユーザ企業が実際にサプライヤーを変更したり、調達先を変更したりする実務支援まで行えるようになります。これは私たちだけでは難しかった部分です。

UPCYCLE は当初コストデータプラットフォームとしてスタートするが、次のステップとして、供給安定性に関する情報、サプライヤー評価、児童労働などの労働環境、自然災害や政治・経済リスクなどの情報も統合していく考えだ。来年に向けグローバル展開の機能も開発している。日本企業の約7割が海外生産している今、海外対応するだけでアカウント数が数倍に増える可能性があるという。

私たちのミッションは、取引に関わる全ての人が信頼と情熱を持ったものづくりができる世界を作ることです。サプライヤーを単なる下請けとして扱うのではなく、双方が利益を分け合える関係を構築することが重要だと考えています。UPCYCLE を通じて、より戦略的で公正な調達活動を支援し、日本の製造業の競争力向上に貢献したいと思います。

データに基づく戦略的な調達活動は、サプライチェーンの強靭化にも寄与する。近年の地政学リスクの高まりや、コロナ禍のサプライチェーンの混乱を踏まえると、この点の重要性は一層増していると言える。UPCYCLE の展開を通じて、A1A が日本の製造業の調達力強化と国際競争力向上にどれだけ貢献できるか、今後の動向が注目される。

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