アスエネの挑戦に学ぶ、日本発スタートアップ「アメリカ進出のカギ」

ASUENE USA カントリーマネージャー 谷垣征一郎氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

企業の脱炭素経営の実現に向けて、CO2排出量をはじめとする環境データの収集・一元管理から気候変動コンサルタントによる削減、ステークホルダー向けの情報開示に至るまで、一気通貫で支援するのが「ASUENE」を展開するアスエネです。

同社のサービスの累計導入社数は9,000社を超え、現在は東証プライム上場の大企業で導入が進むほか、さらなる連携を目的に2024年6月には三井住友銀行、SBIグループ、村田製作所、リコー、NIPPON EXPRESSホールディングス、KDDIの6社と資本業務提携を発表しました。

また、シリーズCラウンドの1stクローズとして三井住友銀行、SBIインベストメント、スパークス・アセット・マネジメント(未来創生3号ファンド)をリード投資家に、国内外の投資家・既存株主を引受先とした第三者割当増資による42億円の資金調達実施を発表しています。2ndクローズも合わせて総額50億円の調達を予定しており、資金調達の総額は累計101億円に達します。

今回の資金調達の目的のひとつに掲げているのが、「アジア・アメリカなどのグローバル展開の強化」です。アスエネは現在、シンガポールとアメリカに海外法人を構えるほか、フィリピンにグローバルの開発拠点を開設しています。各国の現地企業とパートナー契約や業務提携を結び、海外企業へのASUENEの提供、脱炭素経営の支援を加速させています。

今回、アメリカ法人のASUENE USAでカントリーマネージャーを務める谷垣征一郎氏に、アスエネの海外進出の経緯やアメリカでの事業展開の現況、そして日本のスタートアップが海外で成功するためのポイントについて話を伺いました。

海外進出のカギは「継続的な信頼構築」と「ローカル化」

アスエネがアメリカ進出を決断した背景には、脱炭素領域におけるマーケットの状況と、アスエネが持つ競争力への確信があったそうです。

アメリカにおける脱炭素の取り組みは、日本に比べると結構遅れているため、この領域であれば日本企業も進出できると考えていました。

アメリカは日本の3倍の人口ですし、経済規模も圧倒的です。また、人件費も高いことからソフトウェアの需要が非常に高いマーケットです。

アスエネの世界No.1のクライメートテック企業になる目標を達成するには、アメリカでもシェアを獲得しなければいけないと考えています。(谷垣氏)

アメリカ進出における課題として、谷垣氏は「アメリカは、スタートアップが出てきては消え、出てきては消えという世界。我々がまず苦労しているのは、会社やサービスの知名度がないために、なかなか話を聞いて貰えないこと、進展しないこと」だと指摘します。

この課題に対して、アスエネでは継続的な展示会への出展や、現地での活動を通じて信頼を築く努力をしているそうです。

また海外進出にあたって大切なのは、日本企業としてのアイデンティティを維持しつつ、ローカル化することだといいます。例えば、現地向けのWEBサイトからの情報発信の仕方や展示会の対応者を日本人スタッフだけにしないなど、徹底的なローカル化を進めることが重要だと指摘します。

アスエネの海外展開は段階的に行われています。まずシンガポールに現地法人を設立して東南アジアに進出したあと、日本での事業が堅調に成長していることを受けて、アメリカ市場への参入を決めました。そこには前職で総合商社に勤めていた際に、アメリカで駐在していたという谷垣氏自身の経験が活かされているそうです。

アメリカでの最初の顧客獲得は、日系企業の現地法人からのインバウンドの問い合わせがきっかけでした。日本で、すでにASUENEを導入している企業の現地法人を紹介してもらうことが、日本での実績を活かしつつ、アメリカでの顧客基盤を築く有効な方法となっています。

谷垣氏は、海外進出を考える日本のスタートアップに対して「アメリカにユーザーがいること」の重要性を強調します。たとえ日系企業の現地法人であっても、アメリカでの実績を作ることが、次のステップにつながるという考えからです。

ASUENEダッシュボードイメージ

アメリカ拠点のチーム構築で気をつけるべきポイント

アスエネのアメリカ法人には現在数人が所属し、谷垣氏以外は現地採用のメンバーです。チームの構築にあたっては、日本とアメリカの文化のちがいに難しさがあると谷垣氏は話します。特に営業活動については、日本のプロセス重視の文化とのギャップが大きく、その調整が必要だと感じているようです。

また、アスエネの取り組むクライメートテックの領域は、注目を集めている分野のため、人を採るのがそこまで難しい状況ではない一方、製造業などの伝統的な産業と比べて既存のネットワークをもつような人材が少ないという課題があります。そのため、その人のもつスキルやカルチャーフィットの具合など、優先順位をもって採用しているそうです。

谷垣氏は自身の経験から「日本と海外のカルチャーの違いを理解した上で、日本での業務経験のあるメンバーがマネジメントすることが大切」だと話します。これは日本のスタートアップが海外進出を考える際、意外に見落とすポイントかもしれません。

日本のスタートアップが海外で活躍するために

ASUENEのグローバルサイトに掲載される利用企業例

海外投資家によるレピュテーション獲得もひとつの鍵となります。アスエネは2022年にシンガポールの政府系投資会社「Temasek Holdings」傘下のPavillion Capitalなどから出資を受けており、これをきっかけにコラボレーションが生まれ、現地企業の紹介や業務提携につながりました。

今年6月に発表されたシリーズCラウンドの資金調達ではアメリカの投資家からも出資を受け、これが今後のアメリカでの事業展開にもよい影響を与えるのではないかと期待されます。

そして今回のアスエネのシリーズCラウンドには冒頭に記述した通り、日本を代表する大手各社が参加し、資本を含めた協業が進むことになっています。

こうした大手との連携も海外展開には重要なファクターとなります。谷垣氏は改めて、こうした大手と連携した形で「継続」した海外現地での活動の露出の重要性を力説します。

私の感覚でいくと本当に日本だけで(事業を)やっていて、たまに海外に出ますというのはそこまで効果的ではないと思っています。

何か継続的なエクスポージャーがあることが大事で、イベントやウェビナーを(大手企業などと)一緒にやらせてもらうというのも非常に有益だと思います。(谷垣氏)

現地文化への適応、戦略的なパートナーシップの構築、そして継続的な露出の重要性など、アスエネのアメリカ進出の現況からさまざまなポイントが浮かび上がってきました。これらの知見は、日本のスタートアップが海外展開を考えるうえで、貴重なヒントになるのではないでしょうか。

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