日本国内の主要通信キャリアによるスタートアップ支援体制が見えてきた。
先陣を切るKDDIは2011年6月にインキュベーションプログラム「KDDI ∞ Labo」をキックオフ、2012年2月には50億円規模のファンド「KOIF」を立上げた。ドコモはこれに少し遅れて10月に100億円規模となる「ドコモ・イノベーションファンド」と共にインキュベーションプログラム「ドコモ・イノベーションビレッジ」を発表。2013年の2月7日に正式なリリースを実施した。
ソフトバンクは若干趣向が変わっていて、ドコモの公式リリース同日に子会社のソフトバンクキャピタルが2億5000万ドルのスタートアップ向けファンドを発表。ただこちらは主に海外向けで、プログラムのようなものは見あたらなかった。
さて私は先日、ドコモがリリースしたイノベーションビレッジについて、NTTドコモR&D戦略投資担当(同時にドコモ・イノベーションベンチャーズの取締役副社長でもある)の秋元信行氏に話を聞くことができた。秋元氏はこのプログラムを推進する中心的存在で、以前にも書いたとおり、Evernoteへの投資などで知られるドコモキャピタルでCEOを務めた人物だ。
意外と懐の深かった「スタートアップ」審査基準
同様の起業支援プログラムが増えている中、大きな差別化はやはり相手が「ドコモ」だという点だろう。秋元氏に小さなスタートアップが正面玄関から飛び込みでサービスの売り込みをした場合の対応を聞いてみたのだが、やはり厳しい。会いたくてもリソースが限られているからだ。
さらにプリインストールなどの審査には社内の選考プロセスがあり、数カ月かかるケースもあるという。これではインストールされるタイミングでスタートアップが残っていないなんていうこともあり得る。
そういう意味で、スタートアップにとってこのプログラムはドコモへ繋がる新しい窓口と考えてもよいだろう。応募条件には「原則として」設立3年以内、従業員数10名以下とあるが、この点はかなり柔軟に考えている様子だった。
既にサービスをスタートアップさせている場合、開発助成金として提供されるConvertible Notesの200万円は不要と思うかもしれないが、受け入れは条件に入っている。
CBでの提供になったことについて秋元氏に尋ねたが、普通株ではシェアを必要以上に取ってしまい「子会社育成プログラム」になりかねない。またプログラム終了後に残念な結果に終わる場合も、株になる前の段階であれば「柔軟な対処」が可能ということでこの判断に至ったのだそうだ。
Evernoteにみる大企業との提携パターン
ところで、もう一つ私は秋元氏にEvernoteとの出会いについて面白い話を聞いた。前述の通り、同氏が以前指揮をとっていたドコモ・キャピタルはEvernoteに投資をしている。秋元氏もやはりまだEvernoteが数人の頃にコミュニケーションをしていた一人だった。
後にEvernoteはドコモとのアライアンスにこぎつけるわけだが、ここにはかなり高いハードルがあったのだという。実際に投資してアレンジしたのは秋元氏からバトンを受けとったチームだったのだそうだが、「思い入れの強い人間が、投資側、投資される側の双方にいないと難しい」(秋元氏)協業だったという。
ドコモの新機種発表会の壇上にEvernoteのフィル・リーピン氏が上がったのを記憶している人も多いかもしれない。大企業とスタートアップのアライアンスは(あれだけスケールしたサービスでも)厳しいのだと改めて考えさせられた。
そういう流れも考えると、海外展開を積極的に視野に入れている場合、彼らのノウハウは魅力的かもしれない。前述のドコモキャピタル含め、このプログラムでは500Startupsと提携している。秋元氏も「日本で起業してグローバルに出て行く際、それなりのインベスターに入って貰ったり、本社の移転ノウハウなど、そういうお手伝いをしたい」と日本発、世界を指向するスタートアップに期待を寄せていた。
スマートフォン、アプリがこれだけ伸びている現在、通信キャリアをパートナーにできればその後のステップに大きなアドバンテージが生まれる。初めて起業するというルーキーはもちろん、数年この現場で揉まれたスタートアップがドコモをパートナーに堂々と歩く姿をぜひみてみたい。(ちなみに第一期の締め切りは3月11日だそうだ)
Members
BRIDGEの会員制度「Members」に登録いただくと無料で会員限定の記事が毎月10本までお読みいただけます。また、有料の「Members Plus」の方は記事が全て読めるほか、BRIDGE HOT 100などのコンテンツや会員限定のオンラインイベントにご参加いただけます。無料で登録する