【ネット時代のものづくり対談】クラウドファンディングでハードウェアをつくる方法ーーABBALab小笠原氏×Cerevo岩佐氏

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モノが溢れる現代、大量生産・大量消費という大きな潮流だけでは満たされないニーズが出てくるようになった。この世には「雨どい専用のロボット掃除機」というものがあるらしい。面白グッズかと思いきや、意外と海外の大型邸宅ではニーズがあるのだという。

今、「適量生産・大量販売」という概念が生まれつつある。ウェブサービスのようにより低いハードルで試作品を制作し、クラウドファンディングなどの方法でマーケティングと資金調達を実施する。ものづくりの敷居が低くなったことで、逆に小さなニーズを大量に獲得しよう、という考え方だ。

この「適量生産・大量販売」をテーマに、ものづくり系スタートアップを支援するプログラムが「ABBALab」だ。

本企画では「ABBALab」設立者でNOMAD代表取締役の小笠原治氏と、ものづくりに携わるゲストのお二人に対談形式でその仕組みやノウハウを語って頂く。前回の孫泰蔵氏にひきつづき、今回のゲストは家電ベンチャーCerevoの代表取締役、岩佐琢磨氏。

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左:NOMAD代表取締役の小笠原治氏、右:Cerevo代表取締役の岩佐琢磨氏

プロトタイピングをクラウドファンディングに出す理由

小笠原:EneBRICKが実際に成立しましたね。

岩佐:ありがとうございます。徐々にですがクラウドファンディングを活用したハードウェア開発っていうものの流れが見えてきましたね。

例えば北米の例で言えば、2000万円から3000万円を調達できるそこそこのヒット商品を出して、10カ月ほどの開発期間中にCESなどの展示会に出品、そこで販売事業者を獲得してローンチ時には10カ国ぐらいで同時発売、というのが海外の定番フローになりつつありますね。

弊社次期製品のOTTOはそのパターンを狙っています。

小笠原:ABBALabでもクラウドファンディングを活用しているのは、資金調達というよりもプリセールスが目的なんですよね。販売って結構な労力で、そこに時間を使うよりも開発や考えることに使って欲しい。

クラウドファンディングであればみんなから支持を得たものだけが出荷されるので、市場調査も兼ねられるのがいいですよね。

ところでハードウェアベンチャーからみてこのクラウドファンディングを活用したABBALabのスキームってアリですかね?

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岩佐:スキーム自体は自然というか当然の内容が含まれてます。もう開始してるんですか?

小笠原:正式なABBALab募集のスタートは9月からですね。既にいくつか出資している会社はあります。

岩佐:ここにハマるものって「イロモノ」、つまりマニアックなものだと思うんです。誰でも一度は想像するけど実現はなかなかしない。まさしくEneBRICKのようなものです。そんなの作ってもそこまで出荷数は伸びないだろうし「誰だって思いつくはずだから」、「いつか誰かが商品化するだろうから」と誰もが考えるようなモノがいけそうです

その手のものって作るのが簡単。プロトタイピングは500万円で開発出来てしまう。Kickstarterのようなクラウドファンディングと相性がよくて、数百万円は可能だけれど10億円は集まらない。プロモーションなくても100台から1000台は出荷できる。

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クラウドファンディングで成立したEneBRICK

小笠原:なるほど

岩佐:私たちも「面白いけど売れるかどうかちょっと怪しいかも?」と思うものはCerevo DASH(CerevoとCAMPFIREが共同で運営するハードウェア向けクラウドファンディングサービス)に出してますね。逆にここに出さなくても売れると分かっているもの、すぐに模倣されて防御出来ないものはここに出しません。

小笠原:創業三十年の町工場が新商品開発に500万円必要なので、この仕組みを使うというのもいいかなと思っているんです。プロトタイプ作りたくても作れないし販路が分からない。プロトタイプがないと資金も集まらないじゃないですか。

そういう場合に株式で上場なんてしないけれど、売上のレベニューシェアをしましょうとか、権利を上手く調整して実施しましょうとか、適量生産にあったスキームにしたいんです。

岩佐:そういう意味ではクラウドファンディングに出す場合の台数の試算方法も知っておくといいですね。これって総開発費から損益分岐点を見つけて何台出荷すればそれをクリアできるか考えるんです。私たちはそこにある一定の係数をかけて最終的にクラウドファンディングで募集する台数を決定しています。

これってつまり、そのモデルが最終的に何台売れるかを想定して、そこから逆算してクラウドファンディングに出す台数を決定しているのがポイントなんです。こうすることで、損益分岐を割り込みにくい試算が可能になります。

小笠原:へえ。勉強になる。試算の他にもクラウドファンディングに出す場合のチェックリストとかあったら便利ですよね。

岩佐:CerevoDashで使っているチェックリストがあるので、それを参考にしてもいいかも。

小笠原:いいですね(笑。使わせてください。

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ハードウェアの適量生産にかかる費用とは

小笠原:このクラウドファンディングでの少量生産を達成したら、市場に出してもその10倍から30倍の生産量にしても売れると予想しているんです。さらにその場合の資金調達も手伝えるので、メジャーメーカーなどとの提携なども可能になると考えてるんですが、この適量生産時の予算感ってどうでしょうか?

岩佐:適量生産時に3000万円以下は厳しいかな。スキームにある適量生産への投資金額を500万円〜5000万円だと少し足りないかもしれないですね。

小笠原:じゃあ上げます!(笑。今はまだ仮に単純にプロトタイピングの金額を10倍にしているだけなんですよね。

岩佐:EneBRICKのように安価なものはいいんです。でもカメラとかになると仕入れ段階でひとつ数万円の設定ですよね。1000台であれば数千万円規模になります。

金型を作るのに400万円~500万円、チームに参加する人の報酬を例えば場所の費用だとか細かい経費も含めてひとり50万円で5人としますよね。6カ月でプロトタイピングから出荷まで終わらせるのはかなりのエース級チームですから、12カ月としましょう。完全に3000万円だとオーバーですよね。

小笠原:3000万円から1億円ぐらいが必要ということですね。

岩佐:単価が3000円のものであれば数百万円の予算で済みますが簡単なものになります。1年から1年半位のプロジェクトですね。

小笠原:ただ、5000万円以上の出資規模になれば、会社化して投資を受けた方がいいのではという考え方もあるんですよね。

岩佐:レベニューシェアで済むものなのか、会社化して出資を受けるものなのかという線引きは必要でしょうね。

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ハードウェア開発にはメンターの存在が不可欠

岩佐:あと、このスキームだと10チームあったとして全部に機構設計なり、電気設計なりの人が必要になってしまう。それよりも10チーム全部の機構設計や電気設計をみれるエキスパートに参加して欲しいですね。欲を言えばRF(電波)系もできる人がいてほしいなぁ。

小笠原:ほう。

岩佐:このタイプのプロジェクト・ファンディング、適量生産モデルというのは世界的にみてもホットな話題なんです。生産の仕組みや最新のテクノロジーを理解した上で、機構設計が出来る人材というのは圧倒的に不足しているんですね。

確かにプロトタイピングしましょう、といった時、機構設計を頼む先がいない。変な設計で先に進めて生産段階でこけるともう全部アウト。

小笠原:手戻りして目も当てられない状態ですね。

岩佐:例えばBluetoothを使った基板をアンテナから何から全て自前で設計するとしますよね。そうすると原価は下げられるしサイズも小さくできる。でも、各国の電波法に準じた認証取得をしないといけないとか、様々なハードルが存在する。

ところで、全ての国での認証が取れたBluetoothモジュールがあるんですね。これを買ってきてはめ込めばそれでもう出来上がる。でも、それって高いんでしょうとか、じゃあどのモジュールがいいんだとか、付ける基板の強度をどうするとかそういう話に及んだ時にこれら全てを考慮した複合的な判断が出来なければいけないんです。

プロジェクトでの生産数が1000個なのであれば、原価を2ドル上げてでもモジュールを採用した方がいいとか、いや、やっぱりこれは作った方がいいとか。そういう設計に関する判断が出来る人が必要なんです。

小笠原:岩佐さん、メンターで参加してください(笑。

岩佐:もちろん(笑。

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なぜハードウェアベンチャーは増えないのか?

小笠原:私もどちらかというとソフト寄りの人間なので、これからのものづくりってそういう「インターネット世代」の考え方で入ってくる人って増えると思うんです。岩佐さんもソフト寄りですよね。5年で今のCerevoって出来たわけじゃないですか。岩佐さんのような方が大量に出てこないのって何が一番の問題なんですかね。

岩佐:確かに米TechCrunchの企業データベース「CrunchBase」で調べてみたことがあるんですが、ハードウェアとソフトウェアのサービスでは企業数に20倍の開きがあった。もちろん、ハードウェアの方が圧倒的に少ないわけです。

理由はひとつで圧倒的にドキュメントが不足している。19歳の若者が「よし、アプリでも作って一発当ててやろう」と考えたとします。コーディングから細かいUIパーツのTipsまで本はごまんとあります。検索すればどこかの誰かがブログで書いていたりするし、しかもそれらは限りなく正解に近いものが書かれているんです。

小笠原:それがない、と。

岩佐:ポイントポイントの本はあるんですよ。機構設計入門とか。でも大切なのはその先。工場はどこにあって誰に電話したらいいのか。でもEMSの担当者は私みたいなハードウェア製造経験がある人が問い合わせしてくると思っている。

決していじめようとしているんじゃなく、全くのド素人から電話がかかってくることを想定していない。私とかはそういう情報をブログに書いたりしてるけど、圧倒的にそこが不足している。だからメンターしてくれる人の所が鍵になりますよね。教えてもらえる状況を作った方がいい。

小笠原:特に家電メーカーOBには力を借りたいですよね。

岩佐:確かに。機構設計、部品調達、中国のEMSとの取引などなど、そういうことができる「元プロ」が沢山いるわけです。

小笠原:どうやって岩佐さんは調べたんですか。

岩佐:ひたすらネットウォッチして探しました(笑。元家電メーカー勤務だったことも活用して、そういうOBの方にヒアリングしたり。中国のEMSと仲良くなって紹介してもらったり。さらにそういう方々とお話するために本を買って読んでましたね。

メカってどこの範囲のことなのか、パッケージにはメイドイン・チャイナを書かなければいけない、そういうことから工場をどうやって選ぶところまで書かれているMAKERSのような厚さの本があればいいですよね。

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どういう失敗を経験するのか

小笠原:失敗ってやっぱりあったと思うんですが。

岩佐:自分の究極のこだわりから比較して「70点」みたいなものが出てくることはあります。大手メーカーだったら商品が出る前にトライアル&エラーを続けるわけですが、私たちはそんなキャッシュはありませんから商品は出さないといけません。お客さんの声にしっかり向き合ってそれを改善し、次のモデルチェンジの段階でバージョンアップする。

トラブルももちろんありましたけど、一つずつ地雷を踏んでそれをメモして改善して、というのを5年間続けてきたのが今の結果です。だってどこにも書いてないですから。

小笠原:なので、そこを乗り越えられる燃料は用意しなければいけないということですね。

岩佐:アプリとかウェブサービス系はみんながやるので、入り口は楽だけどその先に戦いが待ってる。ハードウェアは目の前がマグマだけど、そこを乗り越えれば限られた人しかいない。しかもこの道を乗り越えた人がメンターになってくれる。

小笠原:製品を出荷してその先にはもっと大変なことって何が想像できますかね?

岩佐:適量生産モデルってそもそもニッチで唯一のユニークな商品なんです。だから販売するまでが80%で、その先は20%と思ったらいいです。ただ天変地異もあって、業界や規格が突然変わったりするのでそこは注意しないといけませんが。

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ハードウェアの世界でニッチを侮ってはいけない

岩佐:ニッチってなんだか儲からないイメージありますが、インターネットサービスとかに比べて表現難しいですが「深さ」が違うと思うんです。例えばファナック社ってご存知ですか?これは工場の中で使う機械類を製造販売している会社なんですが、TOPICS Core30に入るような超優良企業です。大変ニッチな分野ですが、一社で世界市場の9割を獲ってしまう。

世界で1モデルあたり数千台しか売れない。けれどその規模でIPOまで持っていける。そういう規模感があるのがハードウェアの世界なんです。

小笠原:カテゴリやテーマは無限に見つけられますよね。

岩佐:アプリだったら「iPhone」とか「Android」という可能性の中で閉じてしまう。でも、そこにモジュールを組み合わせて血液の濃度を調べたり風速を測定したり、たったひとつの「ハードウェア」を組み合わせるだけで可能性は無限に広がるんです。やっぱりニッチですけどね(笑。

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