投資家と起業家の関係は興味深い。特にシード期の投資家と起業家は共同で経営にあたり、資金だけでない特別な関係を結ぶことが多い。そこにはどのようなやり取りや葛藤があるのだろうか。
このインタビュー・シリーズでは、投資家と起業家のお二人に対談形式で「二人だから語れる」内情に迫る。
前回に引き続き、日本の独立系ベンチャーキャピタルでアーリーな企業を支援する、インキュベイトファンドのパートナーとその支援先にスポットを当てる。対談するのはインキュベイト・ファンド共同代表パートナーの和田圭祐氏とビヨンド代表取締役の一谷幸一氏だ。(※一谷氏は今週末から開催されるインキュベイトファンド主催イベントにも登壇予定)
ビヨンドの創業は2008年。フィーチャーフォン向けデコメ絵文字共有サービス「エモジバ」からスタートした同社は、数回の資金調達を経て事業をスマートフォン向けに特化。2012年にはグロービス・キャピタル・パートナーズを引受先とするシリーズAラウンドとなる第三者割当増資を実施。
数々の試行錯誤を経て現在、スマートフォンアプリ向けアドネットワークのBEADなど新たな挑戦を続けている。和田氏は一谷氏と同時期をサイバーエージェントで過ごした仲間で、同社の初期投資家でもある。
彼らが出会った2006年、二人はまだ24歳。話はそこから始まる。
和田:出会ったのってサイバーエージェント(以下CA)でまだ新卒の頃だよね。
一谷:そうですね。まだ二年目の頃かな。私はアメーバビジョンっていう動画のCGMサービスを担当していて、和田さんはCAの中国投資担当。
和田:中国でやっぱり動画サービスに投資するかどうか考えていて、アメーバビジョンのチームに話を聞きにいったのが最初だね。
一谷:その後私、三年目で国内の投資事業部に異動したんですが、そこでは被ってたんでしたっけ?
和田:いや、私が2007年の3月で退職してそこで入れ違いだから被ってない。CA内でも活躍していた若手だったから色々教えてもらったりしてたけど、結局一緒に仕事はしなかったね。
SD:投資するきっかけって何かあったんですか?
一谷:和田さんが退職した翌年ぐらいの2008年に私も起業することになって、それでベンチャーキャピタルのみなさんにお会いしてたんです。その時に再会しまして。
和田:創業の頃から相談に乗ってくれと言われていて、私も投資するつもりはあったんです。けど、「CAの脱走兵」同士なんで、ちょっとやりにくい空気もあったよね。
一谷:結局、実際に投資してもらうのはその半年後ぐらいなんですけどね。
和田:アドネットワーク事業をやるか、エモジバっていうデコメのCGMをやるかで悩んでた。
20代の起業家と投資家
SD:CAでの同僚が投資家と起業家に分かれて再会したわけですね。
一谷:実は二人とも同じ年で同じ誕生日なんです。あと確かSmartNewsの浜本さん(ゴクロ代表取締役の浜本階生氏)も同じ12月28日が誕生日なんだよね(笑。
和田:そうそう年末の忙しい日(笑。
何やっても立上げられるんだろうなというのは思ってました。けど、アドネットワークとしては後発だからどこまで勝てるのかね、という話はしてましたよ。折角アメーバビジョンとかユニークなサービスをやっていたのだから、そういう知見を活かしたサービスをやればいいのにって。
一谷:はい、もうその通りだなって思ってました(笑。そもそもアドネットワークなんてやったことなかったですし。
SD:お互い投資家と起業家とはいえ、20代の若手じゃないですか。血気盛んでお互い「何言ってんだ」って思ったりしなかったですか?
一谷:それは…なかったですね(笑。
和田:ただアドネットワークやるって聞いたときは「ちょっとアドネットワーク舐めてるかな」とは思いましたけど(笑。
一谷:はは。確かに当時はモバイルに勢いがあって、それだけで踏み込んでしまったかも。そもそもPCベースしかやってなかったし、当時のアメーバ系サービスはそこまでモバイルに力入れてなかったですからね。
和田:結局、最初のタイミングは見送ったんだよね。当時はまだ一人でファンド(セレネベンチャーパートナーズ)運営してた頃だったし、お互い大分胡散臭いというか駆け出しの頃だったよね。
一谷:笑。ところでどうして自分に投資しようと思ったんです?
和田:なんかやれそうだなって(笑。
一谷:一応、KPIは伸ばしてたんですよ!(笑。
「30歳になる前にいかないとダメだよね」
SD:一番最初に投資してくれたのはどこだったんですか?
一谷:インスプラウトとクロノスファンドです。二回目の増資ではインスプラウトもさらに引き受けてもらって、そのタイミングで和田さんに参加してもらいました。
和田:まだ当時って受託開発やってたよね。でも伸びてるサービスあるんだからってそっちにリソースを割り当てようって。一回目の増資時期ってさ、私も一谷さんも絵文字使ってる女子高生とかギャルの生態系ってあんまり理解してなかったけど、半年経過したらしっかり勉強して数字伸ばしてたよね。あれで大丈夫、振り抜けばなんとかなるって思った。
一谷:そっから月一回位ですよね。会ってたの。
和田:うん。しばらく放置してたけど(笑。好きにやりなよって思ってたし、まあ困ったらなんか言ってくるかなって。
一谷:当時って私以外にどれぐらい投資してたんですか?
和田:6社とか7社ぐらいかな。丁度ポケラボなどの立上がりの時期でそっちに時間を割いてた。
一谷:まだブックマークサービスの頃ですよね。なつかしい。
和田:投資したのがお互い26歳とか27歳の頃で、最初は好きにやったらいいじゃないって思ってたけど、一年後ぐらいだよね。ギア入れ出したの。
一谷:そうそう。まだ受託もちょいちょいやっててエモジバも粛々とやっていたんですが、それでも「ドカン」といくわけでもなく。当時って和田さんから「一谷さん、もうそろそろ30歳だよね。30歳になる前にいかないとダメだよね」っていう直接的なプレッシャーを与えられてました(笑。ひとつステップアップしろと。
和田:かれこれ3年程事業をやってたからね。「これ」といった成功もないまま30歳になっちゃうのはなんとなくマズい的なことを言ってた覚えがある(笑。
一谷:それで段々ギアが入っていってスマートフォンに事業の舵を切ることになったんですよね。あれって…
和田:2010年だから29歳の頃かな。インキュベイトファンド設立のタイミングだ。
一谷:こっちは社員数六人ぐらいの時ですね。新規事業はずっと社内で話はしてたんですが、丁度、その時エモジバみたいなサービスがAndroidになかったので、じゃあって出したら伸びた。
困難が始まるシリーズAラウンド「後」
和田:それきっかけでシリーズA増資に向かったんだよね。
一谷:当時ってなんか考えてました?
和田:いや、完全にノープラン(笑。もちろん細々したアイデアはありましたよ。ソーシャル系サービス、ゲームとかって当時爆発的に伸びる会社が出てきてたし、新しいサービスが立上がりやすい環境はあったんだよね。だから何やってもとりあえずはいくんじゃないかって。一谷さんの”起業家としての本能”を着火するスイッチだけ入れればいいやって思ってた。
まあ、フィーチャーフォンで溜めてたコンテンツやパワーがそのまま上手くハマった感はあったけどね。
一谷:でも本当に大変なのはそっからですよね…。
和田:勢いを背景にグロービスさんからのシリーズAが無事しまって、さあ、ってイメージしてた戦略が、、、若干はずしたよね。
SD:どんな戦略だったんですか?
一谷:シリーズA調達後にはとにかく「面」を獲りにいこう、という考え方だったんです。絵文字関連の周辺ツールとか2ちゃんのまとめアプリとか、小さなアプリを量産してメディアの面を作っていく。つまりAndroidマーケットのキーワードで上位になりそうなものをどんどん取っていくわけですね。最終的にはARPUが一番高いアプリに集約させていく。
和田:半年以上やってたよね。
一谷:はい、1カ月に50個とかアプリ作ってましたよ。
和田:分かりやすい戦略だったけどワークしなかった。プラットフォーム側の規約ひとつで左右される影響が大きすぎた。
ーーイメージしていた戦略が頓挫し、事業転換を迫られる二人と経営陣。波乱を乗り越えたきっかけを語った次回は明日公開予定です。
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