シリコンバレーでTencent(騰訊)から資金調達を受けているのはどこか?

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中国のコンシューマー技術企業のTencent(騰訊)は中国のインターネットの多種多様な分野に進出している。それらには、ゲームやメッセージングアプリ、決済、eコマース、ソーシャルネットワーキング、クラウドストレージが含まれる。この企業は中国のオンラインのインフラを独占支配してはいるものの、海外では以前からあまり目立った存在ではない。

しかしこの2年、Tencent はシリコンバレーを本拠地とするインターネット企業への活発な投資を続けている。中国で生まれ育ったモバイルメッセンジャーWeChatを自国初の世界的なヒット商品にすべくアグレッシブなマーケティングをしつつ、カリフォルニアにある名の知れたスタートアップ企業の何社かに投資をしている。

ただ、Tencentの投資ポートフォリオを眺めても、投資先からそれらに共通したテーマがあるとは言いがたい。いずれにせよ、Tencentはパロアルトおよびニューヨークにも従業員を抱えており、国際的な展開を推進するため、アメリカに拠点をもつこれらのチームがリサーチや顔合わせを頻繁にしているのであろう。

下記に列挙したのは、Tencentが最も多額の出資をしている、米国を拠点としたコンシューマー系インターネット企業の一覧だ。ちなみにTencentはこれら6つの資金調達先のうち1社しかリードしていない。つまり、私たちはこれらの多くは慈善事業みたいな入札に終わるのではないか、という予想をしている。

Snapchat

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メディアの憶測が波紋を広げた数カ月後の昨年11月、TencentのSnapchatへの投資が確実となった。これは、中国企業による最も価値のある賭けだ。TechCrunchの報道によると、TencentはInstitutional Venture Partnersがリードする6000万ドルの資金調達ラウンドに参加した。リードが別だったということで、この中国企業がEvan Spiegel氏や従業員に対してことさら大きな資金を投入しようとしているのではないかという疑念は払拭された。

TencentとSnapchatの関係において財政的な繋がりが必ずしも深くないにも関わらず、この先、Spiegel氏やMarc Andreessen氏らがTencentにとって頼れる存在になるとするのであれば、両者には共通認識ができたと考えるべきだろう。Spiegel氏はいくかの機会において Tencent の社名を出し、更には、TechCrunch Disruptのイベントに登壇した時も、彼らをマネタイゼーションの将来設計における「ロールモデル」と称した。

「マネタイゼーションは重要なトピックで、私たちはビジネスをしているのでその事についていつも考えています。私たちのマネタイゼーションに対する考えは随分と変わりました。私達は、中国の大企業であるTencentをロールモデルの1つとして参考にしています。

彼らはアプリ内のトランザクションから収益の大半を得ているのです。何がそれほど魅力的かといいますと、かつて Tencent が真剣に売上を伸ばす必要があった頃、大きなブランド広告市場というものは存在しなかったのです。ですから彼らも単純に『このバケツの中にある何兆ドルもの大金のうち、5%を使って今から大企業になります』とは言えなかったのです。彼らは多くの人が望んで買いたいと思うものを作らなければなりませんでした。それは恐ろしい挑戦だと思います。

経営者会議に出席して、ディスプレイ広告から得られる何兆ドルという大金のうちの5%よりも、むしろ自分たちは人々が求めるものを作っていくことを決断することは。私が思うに、私たちにはそれができると信じてくれる長期投資家がいることはとても運が良いことだと思っています」(Evan Spiegel氏)。

昨年1月に「シリコンバレーの予言者」Marc Andreessen氏は、TencentからSnapchatが引き継いだものは彼らにとっての「ブル・ケース(相場に対しての好材料)」になると表現した

Snapchatの「ブル・ケース」は、1000億ドルの価値を持つTencentという中国企業がついた、ということです。Tencentが1000億ドルの価値があるとされる理由は、提供しているスマートフォン上でのメッセージサービスがそれだけに留まらず、ゲームやソーシャルネットワークと絵文字、そしてビデオチャットといった幅広いサービスに活用され、さらにそれぞれで課金をしているからです。

技術系企業としての成功は歴史上類をみないもので、香港株式市場でも実際に1000億ドルの価値をつけているのです。おそらくそれこそが(CEO Evan Spiegel氏の)狙いなのでしょう。Tencentのビジネスモデルをアメリカに移植するという前人未到の試みがたぶん彼の計画なのだと思います」(Marc Andreessen氏)。

これからSnapchatはTencentのQQのような安定感のあるサービスを準備する必要がある。また、付け加えると1000億ドルの大部分は、絵文字ではなく、魔法系PCゲームがもたらしている。

Tencentからの贈り物はSnapchat信者を興奮させることになるだろうし、同時に彼らを嫌う人たちを苛立たせることだろう。

Tencentは現在世界でもっともワイルドな“Messaging 1.0”アプリを提供している。ーーつまりWeChatの古いバージョンであるWeixinのことだ。一方でSnapchatは10代をはじめとする若者世代を掌握し、モバイルメッセージの未来を手にする日も近いかもしれない。

もしこの先1,2年でTencentとSnapchatの関係がより深まり、そしてSnapchatが壮大なる野望に気づくことができれば、そこには大きな結果が待ってるかもしれない。

Weebly

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Weeblyは、小規模な事業者や個人向けにシンプルなドラッグ&ドロップインターフェースで魅力的なウェブサイトが作成できるサービスを提供している。これはSquarespaceやWixといった競合が利益を見込んだのとコンセプトと同じだ。Wix は昨秋ニューヨーク株式市場へのIPOで、1億2700万ドルの株式公開を果たした。

昨年4月、TencentはWeeblyに3500万ドルに上った資金調達に参加し、、企業価値を4億5500万ドルまで引き上げた。Tencent(あるいはAlibabaやその他の中国企業)から投資を受けることで、中国への進出、拡大が簡単になることは容易に想像がつくが、Weeblyに対するTencentのサポートがとりわけ意味があるのは、両企業ともeコマースに関連しているからである。

確かにWeeblyは誰でも自由に使うことができるが、小さな自営業の事業主たちは自らユーザーを獲得しなければならない。一方で、Tencentはeコマース分野について一歩先に進んだ存在となっている。ブランドを持った事業者や自営業者に向けたWeChatのマネジメント・サービスのローンチがその最も分かりやすい例だ。

中国におけるeコマースは未だに AlibabaのTaobaoが独占しているが、コマース事業者がそこで目立つことは難しいであろう。もしモバイルという制約を受けたくない事業者が、TaobaoからWeChatへ移行しようとするならTencentは、Weebly によいソリューションを見出せるかもしれない。

Cyanogen Inc

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ここで1つ面白いものを紹介しよう。CyanogenModはオープンソースのAndroid ROM で、ハッカーのガレージプロジェクトから派生したが、徐々にその人気を集め、株式会社化するに至ったものだ。ほとんどのROMがそうであるように、Androidオタクは目を輝かせるだろうが、普通の人たちは一瞥もくれないようなものだ。ケータイの切替スイッチやプッシュ通知、性能を気にする人にとっては、CyanogenModはお奨めかもしれない。

Android ROM製作者の趣味が高じ、ビジネス化してほどなくして、TencentとAndreessen Horowitzはシアトルに拠点を置くチームへの、2700万ドルの投資ラウンドに参加した(訳注:引用元では、2300万ドルと記述されている)。Cyanogenはオタクコミュニティーから暖かく歓迎されたが、そのビジネスモデルには懐疑的にならざるを得ない。

競合だらけの中、目立とうと頑張る携帯メーカーにROMのライセンスを与えるのだろうか?

それともGoogleやデバイスメーカーが提供できないような付加価値機能を作って課金するのだろうか?

Cyanogen Incは、既にOppoとOnePlusという一歩進んだワールドワイドな中国携帯メーカーとパートナー契約を結んでいる。OnePlusがTech in Asia に対し、Cyanogenとの間で提携を結ぶに当たり金の流れがあったのか、またその場合はいくらで合意したのかといった質問に答えてくれなかったため、その詳細は謎に包まれている。

さておきCyanogenがどのように利益を上げているかに関わらず、より多くの携帯にROMがインストールされ続ける限り、Tencentはファームウェアパートナーとして、自社のモバイルアプリ群の販売を促進するためのきっかけにしようとしているのかもしれない。それがWeChatでも、モバイルゲームでも、Snapchatでも。

Fab

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昨年夏、Tencentは、デザイン志向で人気のeコマース企業であるFabに対する、1億5000万ドルの投資ラウンドをリードした。それは米国企業に対する最高投資額であった。

中国のインターネット全体における存在感、そしてWeChat上の事業者の急激な伸びをみると、ニューヨークに本拠地を置くこのスタートアップの中国参入を促すには、Tencentは大変よい位置にいる。ただ、Alibabaの方がより良い組み合わせであった可能性は高かったかもしれないが。

いずれにしてもTencentが投資に対する見返りを手にする可能性については見通しが悪くなっている。

ちょうど今月、Fabがグローバル要員の1/3を解雇したという情報が流れたからだ。このことを歓迎する大半の現役社員がニューヨークオフィスの人だったという。このような変化は、この一年の間に生じた沢山の製品とピボットによるもので、新規市場への参入を検討している企業にとっても好ましいことではない。

Fabは今日に至るまでの間、3億3000万ドル以上の資金調達を受けており、もし、船が沈み始めているとしても、船が海底にたどり着くまで、ある程度時間は残されている。業界のウォッチャーが、Fabの中国での成功をみるにはもうしばらく待つことになるかもしれない。

Whisper

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人々が最も奥深く、暗い心の闇に潜む秘密を、すぐそばにいるユーザと共有できる匿名のソーシャルアプリ「Whisper」に対して、Tencentは3600万ドルの調達ラウンドに参加した。

Snapchatに対する投資同様、モバイルの若くて先進的な流行をとらえるために投資に踏み切ったと思われる。

何がかっこいいのか?子供たちは私たちが理解できない何かをしているのだろう?消えるメッセージと匿名での共有である。

もちろん、Whisperの用途に価値がどれほどあるのか、そしてユーザからどれだけの利益を上げられる可能性があるのか、といった疑問もある。しかしながら、投資の目的はマネタイゼーションを実現させるためにあって、それを確証するものではない。今後もシリコンバレーのインサイダーが今後の協力関係に関する詳細をリークしないかどうか、今後も注意深く見守っていくつもりだ。

Plain Vanilla

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Plain Vanillaは正確にはアイスランドのレイキャビクに本拠地を置いているのだが、今回のリスト基準を満たしたのでこちらに加えた。Tencentはこのモバイルゲーム開発会社への250万ドル、シリーズAラウンドに2013年4月参加、それから同年12月にはシリーズBで2200万ドルを出資した。

Tencentはゲーム業界の顔なじみであり、QQGamesのポータルで帝国の大部分を築き上げた。更に、League of Legendsの生みの親であるRiot Gamesを4億ドルで買収し、3.3億米ドルを投じて(レガシーPCシリーズUnreal Tournamentおよびそのモバイル版にあたるInfinity Bladeなどで知られる)Epic社の40%の株を取得するなど世界的なゲーム業界に波乱を巻き起こした。

しかし、モバイル時代のゲーム業界におけるスタンダードはKing.comであり、同社はCandy Crush Saga というシンプルで軽快なモバイルゲームによって何百何千億ドルもかき集めることに成功した。一方でLeague of Legendsのようなゲームは世界中のオタクたちの心にTencentという名前を刻み込むことに成功するだろう。

ではFarmvilleでパワーアップするために50ドルをつぎ込む一般の主婦をどうみればいいのだろうか。答えはPlain Vanillaにあるかもしれない。同社のクイズゲームQuizUpはパブでおこなわれるようなクイズを武器に、世界的なヒットを生み出した。もしRiotやEpicとの提携によって生み出されたTencentのゲーム群が最高峰だとするのなら、Plain Vanillaへの投資はゲーム中毒の主婦層を取り込むことを約束するサインになるのかもしれない。

その他のシード案件投資

これらの出資に加え、Tencentは期待されるスタートアップへのシードラウンド投資に積極的に参加している。それらの大半は影響力のあるアクセラレーター、Y-Combinaterを卒業した人たちだ。昨秋、ゲームプレイレコーディングのスタートアップであるKamcordに100万米ドル、写真ストレージアプリ(後にDropboxに吸収合併された)Loomに150万ドルを投じた。

Tencentの恩恵にあずかる他の企業にはヘルスケアクラウドファンディングプラットフォームであるWatsi、人検索APIのArk、それ以降姿をみなくなった写真アプリのWaddleが挙げられる。シリコンバレーから一歩離れると、韓国のモバイルメッセージスタートアップのKakaoが、企業株の13%と引き換えにTencentから6300万ドルの投資を受けている。とはいえ、最近のDaumとの合併で確実に元は取れているはずだ。

【via Tech in Asia】 @TechinAsia

原文

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