日本にイノベーションをもたらしたいなら、Airbnbのホスト達の声に耳を傾けてみよう【ゲスト寄稿】

mark-bivens_portrait本稿は、フランス・パリを拠点に世界各地のスタートアップへの投資を行っているベンチャー・キャピタリスト Mark Bivens によるものだ。フランスのスタートアップ・ブログ Rude Baguette への寄稿を、同ブログおよび著者 Mark Bivens からの許諾を得て、翻訳転載した。(過去の寄稿

The Bridge has reproduced this from its original post on Rude Baguette under the approval from the blog and the story’s author Mark Bivens.


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日本の安倍首相は先週(原文掲載日:5月12日)サンフランシスコ・ベイエリアを訪問し、日本版シリコンバレーを育成する必要性について語った。彼の説明には合点が行く。私のいるヨーロッパの多くの政府も、スタートアップ・エコシステムを活性化させ、イノベーションを起こそうとイニシアティブを立ち上げてきた(フランスの LaFrenchTech、ロンドンの TechCity、フィンランドの Startup Sauna、アイルランドの Enterprise Ireland、デンマークの Launchpad Denmark、ポルトガルの Startup Lisboa など)。

〝フラットの世界〟において、シリコンバレーは、もはやイノベーションを起こす上でのカギではない。インパクトのあるスタートアップは今や、世界中のどこでだって始められる。私は以前から各国政府がシリコンバレーをコピーしようとするのはやめようと言ってきた。なぜなら、シリコンバレーが意味するものとは、その国ならでは強みが出せるイノベーション・エコシステムを独自に作り出そうとする意気込みだからだ。

日本は、自己永続可能なイノベーション・エコシステムを作れるか?

雑誌「Monocle」の面白い最近の号に、質の高い職人技術への感謝、よいデザインの追求、奥深い料理方法、あらゆるものに流儀を尊重する点について、日本とイタリアの比較が紹介されていた。鹿児島でさえ、ナポリの雰囲気を醸しているというのだ(もっとも、鹿児島では、通りで売っているウニが珍味であるのと対照的に、ナポリではスクーターがスリをして走り去ってしまうのだが…)。

しかし、素直に受け入れられない比較もあった。日本は、文明に対する感覚が衰退しており、シリコンバレー的なエコシステムを作るには、惰性と文化リスクの回避を克服する必要があるというのだ。

Airbnb から始めてみようじゃないか?

日本のマスコミには、安倍首相のビジョンは好意的に受け止められているようで、ただ実現するにあたっては具体性が欠けるとだけ言及されていた。手始めに都合がよいのは、日本のすぐ裏庭にあるリソース——日本 の Airbnb のホスト達からだと思う。

Airbnb が日本市場に風穴を開け切れていない背景には、特に難しい理由は存在しない。Airbnb で、東京には2,500件の物件が掲出されているが、これはパリの40,000件とは大きくかけはなれた数字だ(ちなみに、Airbnb の優秀なチームがいつの日か、これを解決してくれるだろう)。私は頻繁に東京を訪問し、これまでに12件近い Airbnb に宿泊した。私の個人的な経験では、これらの Airbnb のホスト達には日本のイノベータが多い。そして、彼らは勤勉で、起業家精神に富み、さまざまな価値観を受け入れ、グローバルな精神を持ち、複数の文化を知っていることが多い。漫画イラストレーター、テック起業家、ファッション写真家、よく旅をする外交官の子息が自宅を海外からの旅行者に開放してきたわけだ。

毎日仕事をするサラリーマンで、副業として友人と共同で投資物件を Airbnb で貸している人にも会った。彼らは皆、海外で育ったか仕事をした経験があり、グローバルな視点を持って日本に戻ってきた人たちだ。東京の自由が丘でホストを営むチャーミングな女性は、「フランス人が世界で一番難しい人たちだ」と語っている。明らかに世界を体験してきた証拠だ。

このような人たちは、一定期間の海外生活から日本へ戻ってきた「帰国組」だ。彼らにとって、帰国した後、日本社会に再び順応するプロセスは簡単なものではない。私のようなバカな外人には言いやすいことだが、彼らを尊重する、あるいは、少なくとも、早々に彼らを非難せず、多くのインスピレーションを得るために彼らの意見に耳を傾ける社会は、シリコンバレーのダイナミズムを日本にもたらそうという、安倍首相のビジョンを推し進めるのではないだろうか。

このような Airbnb のホスト達全員を、イノベーションのセミナーに招いてみたらどうだろう。人々を興奮させるようなアイデアが生まれるに違いない。実際のところ、Airbnb もそのような集まりを開いていて、年に一度開催される Airbnb Open ではホストを招き、将来に向けたプロダクト改善につながるアイデアを得ようとしている。

誤解のないよう言っておくが、私はイタリアが好きで、親友にはイタリア人もいる。ただ、日本が太平洋に面したイタリアになるとは思えないだけだ。

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