「消費者の当たり前、企業の非常識」がビジネスチャンスを生むーー会員配車サービス「Alto」の”3方よし”モデルとは

by Takashi Fuke Takashi Fuke on 2019.2.16

ピックアップ記事: Dallas On-Demand Rides Startup, Alto, Launches in Dallas, Raises $14.5M

ニュースサマリー: 2019年1月、米国テキサス州ダラスで創業された会員向け配車サービス「Alto」がシリーズAラウンドで1,400万ドルを調達。

顧客は月額会費12.95ドルを支払うことで配車サービスが利用可能となる。従来の配車サービスと比較して毎回30〜50%安いレートで配車することができるという。Alto専属のドライバー及び専用車が用意されている。接客から車内掃除のトレーニングプログラムを受けているプロが常に手配される。

専用車はAltoオリジナル仕様になっており、外装にロゴが塗装されているだけでなく、内装には専用の照明・音楽機材が搭載されている。「パーソナライズ体験」に重きを置いており、顧客はアプリを通じてお気に入りの車内の雰囲気を設定できる。加えて、ドライバーからの声かけをやめてもらうホテルで見かけるような「邪魔しないでください(Do not disturb)」マークの表示もワンタップで行える。

現在のサービス提供地域はダラス近郊のみ。アプリで配車オーダーをすると10分以内に到着するオペレーション構築に努めているという。

話題のポイント:Altoの資金調達から見えるのは「Too good to be true(出来すぎた話)」を打ち壊すビジネスモデル構築の動きです。筆者は“消費者にとっての当たり前、企業の非常識”を変えるコンセプトと呼んでいます。

今回の事例では配車サービスのジレンマを解決する動きがうかがい知れます。

『Recode』の記事によると、ニューヨーク市における主要配車サービスの平均最低時給は法定最低賃金15ドルを下回る13ドルだそうです(2018年12月に賃金是正する法律が審議通過)。その一方、『CURBED』の記事によるとニューヨーク州では2010〜2017年の間で平均賃金上昇率の2倍の速度で平均家賃が増加しているといいます。

つまり配車サービスを生業とせざるを得ない人たちは、非常に苦しい生活を強いられていることが予想できます。

UberやLyftの登場を筆頭に、オンデマンドサービスを使い生活資金を稼いでいくワークスタイル、ギグワーカー社会が浸透してきました。こうしたサービスは人口密度の高い都市から発展していく都市密着型ビジネスです。人々が都市に移住するトレンドと相まってサービス需要も増加、運営企業は大きく成長を遂げていきます。

しかし、人口流入が続く限り家賃に代表にされる生活コストが徐々に引き上げられていくのも事実です。都市部に住まない限り収入源を失ってしまうが、生活コストがかさむジレンマにサービス提供者であるドライバーが悩まされています。

  • 企業は事業スケールの観点から料金を低く抑える
  • 消費者は現状のサービス料金が当たり前だと思ってしまう
  • 結果としてドライバー側に大きなしわ寄せがやってくる

という構造、つまりWin-Win-Lose(企業 vs 利用者 vs サービス提供者)が成立してしまっているのです。

そこでAltoは会員制にすることで定期収入源を確保するモデルを採用しました。ドライバー側へ賃金担保をするだけでなく、顧客体験の向上にも繋げているのです。戦略的にWin-Win-Winの三方よしのビジネスモデルと言えるでしょう

たしかに配車サービスは大手が独占する市場ではありますが、高い体験性や市場構造に問題意識を持つミレニアルズを中心に顧客獲得が進むのではと想像します。

私たちが普段当たり前に使っているサービスにベネフィットをつけて提供した上で、実は消費者及び企業にとって「Too good」な状況を会員制度を活用して提供する。利用者に綺麗な形で受け入れてもらう導線を引いて解決する点は秀逸と感じます。

Image Credit: Mike Mozart

参考記事:ミレニアル世代向けCostcoーー「時間の先買い」「リピート顧客」「価格アルゴリズム」 有料会員制コマースから生まれた3つの戦略軸

ここで注目すべきはCostcoに倣った「時間を先買い」するビジネスモデルの考え方です。オンデマンド企業は毎回のサービス発生時に手数料を取ることで収益化を図っていますが、会員制にすることで収益を先に確保することができます。

事前にお金を預かっているため、あとは上手く管理してオペレーションに集中することができます。Costcoの場合は会員費を先に徴収して、そのお金を元手に大量の商品を買い付けて安価に生鮮食料品を販売する仕組みを作りました。仮に商品の売上ベースで収益化を果たしていた場合、現在のように巨大なスーパーとしてのサービスは成り立たなかったはずです。

立ち上げ当初はプール金が少なく、運営自体は赤字に終わってしまうかもしれませんが、顧客が集まれば安定して事業を継続することが可能となります。Altoもまさに同様の戦略で拡大を狙っているはずです。

さて、消費者にとっての当たり前なサービスを考えてみると様々な業種で同様の課題が見つかるかもしれません。例えば配達があります。今ではAmazonが規模の力で配達業者を説得し、低コストでの配達を可能とさせていますが、Alto同様にビジネスモデルを変えるべき対象と言わざるをえません。

参考記事:Amazon Primeのような「お急ぎ便」を自社ECに付加するShopRunner、物流市場の不都合に商機見出す

この市場に登場しているのが年会費制の優先配達サービスを展開する「ShopRunner」です。2018年11月に4,000万ドルの資金調達に成功しています。顧客は年会費79ドルを支払うことで、ShopRunnerの提携EC店舗で2日以内の優先配達サービスを受けられます。

既存小売事業者がAmazonに頼らざるを得ない状況が続いていますが、商品販売データをわし掴みにされ、かつ配達市場で賃金及び重労働に関しての大きな社会問題を引き起こしています。Amazonの利用者にとっては非常に都合の良いサービス提供が続きますが、こうしたねじ曲がった仕組みからいずれは出店離れが発生することも予想されます。ShopRunnerはまさにこうした消費者にとっての当たり前を変えようとしているのです。

このように私たちが当たり前に享受できているサービスに目をつけ、会員サービスとして高い顧客体験と一緒にパッケージとして提供すると大きな共感を得られるかもしれません。オンデマンドサービスが飽和状態を迎えている世界において、次に注目されるのは会員サービスであると感じています。

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