Beyond MaaSを見据えた「理想的な移動社会」への挑戦ーービジネス効率化の旗手たち/MasS Tech Japan代表取締役CEO 日高 洋祐氏 #ms4su

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本稿は日本マイクロソフトが運営するスタートアップインキュベーションプログラム「Microsoft for Startups」による寄稿転載。同プログラムでは参加を希望するスタートアップを随時募集している

前回からの続き。本稿では、エンタープライズSaaSやインダストリークラウドに注目したサービスを展開するスタートアップにインタビューし、どのような生産性向上の取り組みがあるのか、その課題も含めてお伝えしています

MaaS (Mobility as a Service) 領域において事業展開を進める、MasS Tech Japan代表取締役CEO日高 洋祐氏にお話を伺いました(太字の質問は全て筆者)。(取材・編集:増渕大志

MaaS Tech Japanが解決していること:「移動する」「移動させる」「移動の先の目的」の3つの概念を統合したMaaSデータプラットフォームおよびサービスを通じて価値あるMaaSの社会実装を目指している

この連載では「ビジネス効率化の旗手たち」として、効率化を図っているクラウドサービスを取材しています。手掛けられているMaaS業界をターゲットとしたサービスについて、具体的に教えてください

日高:「移動する」「移動させる」「移動の先の目的」の3つの概念を統合したデータプラットフォームおよびサービスを開発しています。MaaSおよびMaaSの先、Beyond MaaS領域のソリューション群となります。現段階では公表できていませんが、今秋から複数のMaaS実証実験プロジェクトを予定しています。また、2020年に向けてより大きなプロジェクトを実施できるよう計画しています。

3つの概念である移動する、移動させる、移動の先の目的について詳しく知りたい。Uberのコンセプトもこれに入るのでしょうか

日高:UberやLyftなどのライドシェアサービスは、移動したい人と移動する人を位置情報を持つスマホで繋げ、自動車での移動に効率性を持たせたものです。ただ、移動手段は車だけでなく電車やバス、その他交通機関など多岐に渡ります。

3つのコンセプトは、移動に複数の選択肢をもたせ、さらにそれを効率化させ包括的に「移動」のアップデートを目指していくことを意味しています。そのため弊社では、一般ユーザー向けのMaaSに加え、交通事業者向けや商業施設向けのMaaSソリューションも展開することで根本的な移動効率性解決に取り組んでいます。

なるほど。交通で交通の解決を目指しているのがUberならば、事業者向けMaaS事業はあらゆる移動手段を組みあわせ、それをビッグデータ化させ分析し、根本的解決を目指していくということですね

日高:そうですね。我々が分析するのは、車の動きだけではありません。根本的な交通改善をしていくには、車のデータに加え、家やビルなど一つ一つのプロパティーを含めた俯瞰的な視点でデータ化を進めなければなりません。例えば、この地区の渋滞はこのマンション・工場の人が自家用車を多用していて交通網を悪化させている。だから、そのソリューションとしてオンデマンドバスを走らせたらどうだろう、そういったデザイン設計が求められています。

ただ、事業者側からすれば渋滞解消のために費用を使う理由はないので、これらをどう社会的課題として地域一丸となって取り組むかなどまだまだ課題は残っています。

MaaSによって解決される課題には具体的にどのようなものがありますか

日高:日本においては、高齢者の方の運転事故のほか、人口減少や、それに伴う運転士などの若手労働力の担い手不足の問題があります。

そのために必要な要素は

日高:まずは、MaaSによってその地域や産業課題を解決していくことが求められますが、サービス自体を作ることよりも、これまでにない連携スキームを構築し、地域や業界の合意形成をもって新しい産業構造を作るということが真のチャレンジだと思います。

交通サービスの悪化など地域の衰退・消滅に至る未来を変え、これまでと同等かそれ以上の、持続可能な生活・社会を実現することがMaaSに携わるプレイヤーには求められます。

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その観点でいえば、MaaS先進国フィンランドは国家単位で交通問題に取り組んでいるイメージです

日高:フィンランドでは、自家用車の所有比率を下げるために、公共交通乗り放題+カーシェア・タクシーを定額制で提供するMaaSが提唱されました。その前にはオンデマンド交通での解決が試みられましたが、単一のソリューションでは限界があり、前述のような形に辿り着いています。日本においても、鉄道だけ、バスだけ、自動車だけのソリューションでも価値を生み出せるかとは思いますが、それらを統合して、課題解決にあたることの価値も大きいと思います。

確かに移動を組み合わせることでサービス利便性向上に繋がる

日高:民間事業者で競争原理が働きやすい状況だからこそ、連携が未開拓であるケースが多く、その部分に貢献できればと考えています。現在は、交通系のデータがインターネットおよびクラウドに集約されつつあり、デジタル化も進んでいます。そこにスマートフォンという利用者との接点創出がなされ、シェアリングエコノミーや端末決済手段などMaaSに必要なパーツがそろってきたことで、それが可能になりつつある状態だと考えます。

MaaSに特化したスタートアップを国内であまり耳にしないが市場規模は

日高:MaaS市場自体はグローバルでは100兆円産業ともいわれますが、すべての既存サービスが新しいものに置き換わるわけではなく、また他産業に与える影響を鑑みると市場規模の算出は大変難しくあまり意味のあるものでないかもしれません。

例として、小さな地域でも一台のオンデマンドバスを運行すると諸々含めて年間で数千万かかっていることもあります。MaaSは単一ソリューションでなく、移動にかかわる全ての交通手段を統合し、選択し、最適なソリューションとして提供する概念です。その効果は無駄や可視化が出来ていないケースほど大きいものと考えます。最終的には新しい理想的な移動社会を目指してR&Dを進めています。

MaaS事業を通して目指す、「新しい理想的な移動社会」について具体的なビジョン等あれば

日高:新しい理想的な移動社会、これに関しては特定のイメージを持っているわけではありません。1つ言えるのは、私たちがモビリティテック企業として、そのテクノロジーと知識をきちんと社会へ届けていくことがその世界観を作り出す近道であると思っています。

せっかくスマホで位置情報が分かって、それがビッグデータとなるにも関わらず現状そこまで分析して有効活用されている印象は少ないです。生活が便利になるテクノロジーがあるのなら、それを社会変遷に合わせてしっかり届ける、これが私たちが目指す「理想的な」移動社会に最も近づける道だと思います。

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開発から実証実験フェーズに入る今、特に苦労している観点

日高:地域や業態ごとに異なる交通事業者の考え方や関係性、データ・システムの違いに苦労していますが、それらを効率的に統合する仕組みを考える必要もありますので、日本国内においては正しい苦労と努力が出来ていると思います。

また、今後クロスインダストリーで別の産業とデータ連携するときのノウハウを今から蓄積していると思えば、成長性も担保できる苦労であると考えています。直近では、いよいよ実証実験フェーズへ突入しており、経済産業省・国土交通省が進めるスマートモビリティチャレンジの一つ、上士幌町(かみしほろちょう)における自動運転×MaaSの実証実験に参加することが決まっています。SBドライブ社が自動運転を、MaaS Tech JapanがMaaS部分を担当します。

海外市場では自動運転の実験も多く、国内との差をどのように認識されていますか

日高:海外と日本における「実証実験」の意味合いには違いがあると思っています。例えば、中国のスマートシティーと呼ばれる雄安新区などでは、AI・自動運転・交通コントロール・MaaSなどあらゆる分野のテクノロジーを融合させ実証実験をしています。その反面、日本ではFintechはA地区、自動運転はB地区、MaaSはC地区のように分野別で区切られてしまうことが多い。

今回私たちが参加する北海道での自動運転の実証実験も、実は「無人で走る」こと自体にはあまり意味がなく、その事実がどう街を変化させるのか、そもそも無人である必要があるのか等アウトプットを分析することが重要となってきます。海外のように親和性の高い技術をあわせて取り組むために参画を決めました。

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BeyondMaaSについて。MaaSが社会的に確立しサービスとして成り立った先に見据える世界観や特に着目する分野は何かありますか

日高:エネルギーマネジメントと不動産、物流、医療分野に着目しています。移動とは都市の機能が物理的に離れているからこそ生まれる行為であり、それ自体が目的ではありません。そうすると、目的側、つまり生活の基盤に近い業界などから効率化の恩恵を受ける可能性があり、その〇〇側の要請をモビリティ側がどれだけ受け入れられるかの勝負になります。そのためにも分野横断的なデータ利活用のプラットフォームの存在と、その上にアプリケーションが作りやすいオープンな開発・協業体制が重要となります。

なるほど。今後、MaaSが浸透するタイムラインやそのターニングポイントとなる出来事をどう捉えていますか

日高:海外では、MaaSというよりオープンデータやスマートシティーの観点で、モビリティーと他業界の融合は当たり前のように行われています。その中でもターニングポイントとしては、現在ダボス会議でも議論されている国境を越えたデータの利活用(Data Free Flow)がどのように行われるかであろうかと思います。

日本ではDFFにwith Trustを加えたモデルということで、国家的な統合管理とも民間事業者に過度に依存したデータ連携とも異なるスキームの構築が目指されています。MaaSもその一角を担う要素であるので、どのように協調領域が構築され、どのような産業やサービスができるのかについては日本としても考える部分で、その成功事例を一つでも多く生み出したいです。

ありがとうございました!

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