SchooがKDDIと資本業務提携ーーチーム崩壊の危機から約2年、向かう先は「5G時代の仮想大学」

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Schoo代表取締役の森健志郎氏

ニュースサマリ:オンライン学習を展開するSchooは9月18日、「KDDI Regional Innovataion Fund(KRIF)」を引受先とする第三者割当増資の実施を公表した。KRIFは今年5月に公表されたKDDIとグローバル・ブレインが共同で運営するファンドで、地方創生・地域活性化を目的とする。Schooはこのファンドの最初の出資案件となる。なお、KDDIとグローバル・ブレインはこれまでにKDDI Open Innovationファンド(KOIF)などでスタートアップ投資を続けており、KRIFもその戦略の延長にあるもの。出資の詳細は非公開だが、関係者の話によると出資額は数億円ほどになる。

また、これに伴い、SchooはKDDIと業務提携契約も締結する。少子高齢化が進む日本社会において、地方における人口減と経済および情報格差の広がりは社会課題として長らく問題視されてきた。両社は5Gに代表される次世代通信テクノロジーと、Schooがこれまで手がけてきたオンライン学習のノウハウを持ち寄り、地域の大学と連携しながら遠隔地における教育プラットフォームの構築を進める。

話題のポイント:長い長いトンネルを抜け、Schooが4年振りの増資です。現在、ユーザー数(会員登録)は40万人、事業の主力となった法人向けの研修サービスを導入しているのが600社と足元はしっかりしてきているようで、同社代表取締役の森健志郎さんにお聞きしたところ、現在70名(社員は40名)ほどの体制ながら黒字化もできているというお話でした。

ただ、実は同社についてはここ1、2年、あまりよい話を聞いていませんでした。特に経営陣については創業者の森さん以外全て入れ替わるなど、組織に大きな課題を抱えていたようです。

「なんでもやりたい」トップと組織瓦解

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サービスイン当時のSchoo(画面は2013年7月のもの)

Schooのサービスインは2012年1月。海外では「Coursera」や「edX」「Udacity」「Codecademy」などいわゆる「MOOCs(Massive open online course)」というオンライン学習が次々と立ち上がっている時期でした。同社もユーザーを順調に集めて翌年に増資、さらに2013年、2015年といずれも数億円の増資を取り付けるなど、理想的な積み上げをしていきます。現在主力となった法人向けの研修事業が立ち上がったのもこの頃です。

一方、筆者が取材で異変を感じたのが2017年4月のこのニュース。

<参考記事>

既存事業は伸びてるとはいえ、誰もが知るメジャーサービスとまでは言えない段階です。当時からバズワードだった「人工知能」や「IoT」を主力事業以外に手がけるスタートアップというのは大抵が黄色信号で、実際、森さんも今回の取材で自身の「なんでもやりたい」悪い面が出ていたと振り返ります。

「ちょうど1〜2年前ぐらいでしょうか。新旧メンバーの融和がうまくいかなかったり、経営方針が伝わっていなかったり。これは私に問題があったのですが、こういったチームに問題を抱えているにも関わらず、積極的な横展開をやりすぎて意思疎通が不十分になったということがありました。結果、優秀なメンバーが離職するなどの出来事もポツポツ発生して、メンバーが全然定着しなかったんです。いわゆる組織崩壊っていう状態でした」。

トップの意識が散漫になった結果、この子会社含め2つの事業から撤退。Schooをこれまで一緒に作ってきた経営体制も瓦解することになります。

組織立て直しは小さな成功の積み重ね

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ボードメンバーは2名体制に

転機がやってきたのが今から約1年半前、現在、取締役COOとして事業執行の責任を担う古瀬康介さんが参加した出来事でした。古瀬さんは元々リクルートでSUUMOの事業戦略を担当し、その後、リクルート住まいカンパニーでは役員に就任するなど、事業企画から経営まで幅広い経験を持った方です。森さんのリクルート時代の先輩にあたる方で、Schooについても時折意見交換をしていたそうです。

森さんもこの頃には自分の悪い癖を反省し、また、去っていった仲間の厳しい言葉を反芻して古瀬さんと一緒に組織の立て直しに取り掛かります。

「大学の提携や長期の仕込みなどの案件から一旦離れ、私は既存事業に戻りました。当時も法人向けサービスはまだまだこれからの状態だったのでまずは止血をしつつ、売上を伸ばし、組織の立て直しをやる。さらに私は元々、いろいろやりたくなるタイプなので、古瀬にはその話をしっかり受けてもらいつつ、既存事業を考えて全体を整理してもらったんです。あと、財政的にも残キャッシュを考えて、エクイティではなく法人向けのビジネスをしっかりやるべきだ、といったような判断もサポートしてくれました」。

振り返りで印象に残ったのは小さな積み上げのエピソードです。財政の見直しや不採算事業の撤退のような大きい経営判断もありつつ、それ以上に営業を担当していた人が成長に転じたとか、人事組織を作って現場の声ともっとしっかり向き合うとか、そういった積み上げが徐々に社内にモメンタムを生み出し、マイナスの雰囲気をプラスに転じさせていった、ということなのだそうです。

新しい時代の教育、KDDIとSchooは何を変えるのか

2年の時を経て「地に足がついた」印象になったSchoo。今回、KDDIとの取り組みにある「地域との遠隔地学習プラットフォーム」もまだ詳細はこれからですが、やや想像力を働かせて彼らがやりたいこと、実現しようとしているビジョンを紐解くと「仮想大学」が近いものになるかもしれません。先行事例としてはカドカワのN高等学校があります。

キーはKDDIのここ数年のスタートアップ出資です。特に注目したいのがInternet of Thingsの申し子「ソラコム」とXR(複合現実)分野のSynamonの存在になります。

<参考記事>

Synamonの記事にも書いたのですが、ここで言う5Gの醍醐味は大容量映像の配信だけではなく「空間そのものの移送」というダイナミックな考え方です。例えば教室があったとして、そこで先生が話す内容を映像として配信するだけでなく、その空間にいる学生や授業の様子などの「雰囲気まで」含めて体験できる、という具合です。

MOOCsというモデルが発達した理由は、ひとえに遠隔地でも平等の教育が受けられるという「コンテンツ」にありました。一方で、これらを受講したことがある人であればわかると思いますが、実際に学校に通った時に体験する空気感のようなものはありません。あくまで参考書がリッチになった、という程度です。

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現在のSchooウェブサイト

もし、空間移送が5Gによって実現できれば、例えば、同じく仮想大学で学ぶ「同級生」のような存在ももっと身近になるかもしれません。森さんともアイデアレベルでお話しましたが、例えば各地に散らばる有名な教授の講義を選んでカリキュラムを作り、自分だけの大学を作って友達とシェアする。

ここでは妄想でしかないのでこの辺りにしますが、こういった世界観はアイデアレベルではなく技術的にも近づいてきているので、もしかしたら近い将来に画期的な体験を手にすることになる可能性は決して低くはないと思っています。

以前のSchooでは、やや実行力に疑問符がついたかもしれない提携ですが、今回、森さんの振り返りを聞きながら、KDDIがどういった点に評価をしたのか理解できたような気がしました。引き続き具体的な動きがあればお伝えしたいと思います。

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