アプリコットとTLMが合体、新ファンド「mint」爆誕ーー独立系シード投資の有力候補に

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ニュースサマリ:創業期(シード期)のスタートアップ投資を手がけるアプリコット・ベンチャーズとTLMは5月26日、新ファンド 「mint(投資組合の名称はApricot Venture Fund 2投資事業有限責任組合)」 の設立を伝えている。GP(ジェネラルパートナー)には白川智樹氏と木暮圭佑氏、アプリコットベンチャーズおよびTLMが就任する。ファンドは30億円規模での設立を予定しており、現在、ミクシィ、ギフティー、マイナビ、個人投資家らがLP(リミテッドパートナー)として出資参加している。

既に6社への投資を完了しているが、具体的な社名等は非公開。投資対象は国内におけるプレシードのIT系スタートアップで、1社あたりの最大投資額は3億円。平均して1,000万円から3,000万円の出資ケースを想定している。

白川氏が代表取締役を務めるアプリコット・ベンチャーズは2018年1月設立。同年4月に7億円規模の「Apricot Venture Fund1号」を組成し、インキュベイトファンドや東急、マイナビらが出資していた。一方のTLMは2015年4月に1億円規模の1号ファンド「TLM1号」、2018年に7億円規模の2号ファンドを立ち上げている。主な出資者は個人経営者やミクシィ、サイバーエージェント、アドウェイズ、ユナイテッドら。法人としてのTLMは昨年7月に設立したばかり。

アプリコット・ベンチャーズの投資先は合計で24社、無人コンビニの「600」や飲食向けデジタルマーケティングの「favy」らに出資している。TLMはビジネスソーシャルの「YOUTRUST」や特化型ファッションC2C「モノカブ」、女性エンパワメントのSHEが主な投資先。出資だけでなく起業支援にも力を入れており、オフィス支援の「FLAP」や社会人向け起業支援プログラム「Springboard」など、両社がこれまで手がけてきたプログラムも継続される。

話題のポイント:TLMの木暮さんから「合体するんです」と話を伺った際、正直、アプリコットの白川さんが共同パートナーになるとは夢にも思いませんでした。でもお話を聞くにつれ、ああなるほどよく考えられたチームだと思った次第です。お二人の馴れ初めを説明させていただきます。

今、国内においてテック系スタートアップのシード支援を担うファンドは独立系だとEast Ventures(EV)とインキュベイトファンド(IF)の歴史が長く、それぞれから出身者が次世代のファンドを立ち上げています。EVからは佐俣アンリさんが設立したANRIや、今回mintを設立したTLMの木暮さんもEVで経験を積んだ人物です。また、IFからはSkyland Venturesやプライマルキャピタル、サムライインキュベートも初期の立ち上げにはIFが支援していますし、同じくmintを設立したアプリコット・ベンチャーズもIFが出資する形で立ち上がっています。なお、アプリコットの白川さんはサイバーエージェントのCVCであるサイバーエージェント・キャピタル(在籍当時はベンチャーズ)の出身で、こちらもシード投資の国内有力候補です。

mintとなった両社のこれまでの投資先

つまり、木暮さん・白川さん共に国内シード投資の本流をそれぞれ経験した人物、ということは押さえておいてよいポイントだと思います。シード期の投資ファンドは個性的なチームが多く、EVとIFではやはり文化は異なります。その流れはそれぞれに受け継がれていることが多く、特に創業期の伴走が長くなるシードでは、出資を受ける際の重要な要素のひとつになります。

Mintの合体を語る上で参考になるのがNOWです。NOWは独立系シード投資の中でも異質な存在で、家入一真さんと梶谷亮介さんが共同代表のファンドなのですが、方や現役の連続起業家であり経営者でありエンジェル投資家という家入さんと、みずほ証券や新生企業投資などで投資、IPO支援を手がけた梶谷さんがコンビを組んでいます。家入さんはBASEの共同創業者としても知られていますが、代表の鶴岡裕太さんをはじめ、ごまんといる起業家候補から原石を発見する天才です。一方の梶谷さんは増え続けるポートフォリオを管理し、ファンドをファンドとして運営する大番頭さんみたいな存在です。

話を聞くとmintも同じような関係性が見えてきます。木暮さんはモノカブの濱田航平さんやYOUTRUSTの岩崎由夏さんなど、起業家が輝き出す前の原石の段階で発掘する嗅覚をお持ちです。一方の白川さんは起業支援プログラムなどの整備にも見える通り、投資ファンドを組織として運営する経験が豊富にあります。お互いにない力を持っているということでよい補完関係が期待できそうです。

きっかけはとある投資家の会合で白川さんから木暮さんに共同運営の話題を持ちかけられたことから始まったそうです。先にも書いた通り、今、国内のテック・シード投資は源流からの分岐が多く、やや戦国時代に突入している感があります。既存ファンドから独立して新たに組織を立ち上げようにも、かなりの個性がなければ他が強すぎて資金が集まりません。さらに言えば、シングルGPと呼ばれる一本足打法では何もかもを代表一人で背負う必要があります。

出資先のスタートアップにはチームが大切だと伝えておきながら、自分たちが組織戦に持ち込めていないというのもネガティブです。2010年代の初期ならまだしも、今はスタートアップエコシステムもかなり成熟して厚みが出てきました。主力となる独立系VCはシードに限らず、ほぼ組織戦に入っています。

二人が特に重視したのはカルチャーの違いを乗り越えられるか、という点だったそうです。役割については明確な分担が見えていますし、投資についても、それぞれの色合いは異なります(補足ですが、今後も木暮さん・白川さんはそれぞれ独自の視点で投資するそうです)。一方、肌が合うかどうかは別の問題です。これについては相当に考えたらしく、数カ月かけて話し合ったというお話でした。

ここ数年、スタートアップ系のファンドには共同GPとして主要なキャピタリスト・人材が移籍するケースが増えています。インキュベイトファンドに元マッキンゼーのポール・マクナニーさんが5人目のGPとして参加したのは記憶に新しいですが、それ以前にもCAVマフィア、ジェネシア・ベンチャーズに鈴木隆宏さんが共同GPとして参加、それに続く形でANRIに伊藤忠テクノロジーベンチャーズの主力打者、 河野純一郎さん が移籍したり、ちょっと遡ってiSGSに国内としては初の女性GPとして 佐藤真希子さん が参加して社名まで変えた例があります。

今後もこういった合併・移籍は増えていくかもしれません。

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