地元スタートアップ5社がピッチ、気球での宇宙旅行を目指す岩谷技研が優勝〜B Dash Camp in 札幌から

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審査員を務めた KDDI 江幡智広氏(左)から表彰される、岩谷技研 代表取締役の岩谷圭介氏(右)
Image credit: Masaru Ikeda

本稿は、6月1〜3日に開催されている B Dash Camp 2022 Summer in Sapporo の取材の一部。

札幌市で開催中の B Dash Camp で Sapporo City Collaboration Pitch のセッションで、北海道に拠点を置く5つのスタートアップがピッチした。審査員による審査の結果、「気球を使った宇宙遊覧旅行の実現」を目指す岩谷技研が優勝を獲得した。

このピッチセッションの審査員を務めたのは次の方々だ。

  • 石倉壱彦氏(アカツキ執行役員、Akatsuki Ventures 代表取締役、WARC 取締役)
  • 江幡智広氏(KDDI 経営戦略本部副本部長 兼 地方創生推進部長)
  • 山崎良平氏(B Dash Ventures ディレクター)
  • 寺田真二氏(B Dash Ventures ディレクター)

【優勝】岩谷技研(北海道札幌市)

Image credit: B Dash Ventures

岩谷技研は「気球を使った宇宙遊覧旅行の実現」を目指すスタートアップだ。ロケットで宇宙へ行く場合、日本には有人の宇宙飛行を受け入れる会社がないため、渡航して現地での訓練を6ヶ月間にわたり受け、コミュニケーションのために英語とロシア語をマスターする必要などが生じる。費用も数百億円程度かかり、万人が行ける旅行になるまでにはほど遠い。

Image credit: Iwaya Giken

岩谷技研では、宇宙旅行に必要なガス気球、機密キャビンなどを自社施設や工場で研究・開発・製造している。これを使えば、高度25,000メートルの空間(NearSpace)に、安全・快適な旅行が180万円ほどで可能になるという。特別な訓練を必要とせず、コミュニケーションも母国語で済むため、外国語の習得は不要。自分の国から飛ぶことができ家族旅行も可能だ。

旅行代理店経由で販売する B2B2C モデルで、2023年に2人乗り、2026年に6人乗りの気球でサービスインを図る計画だ。これまでに、インキュベイトファンド、三井住友海上キャピタル、山口キャピタル、SMBC ベンチャーキャピタルなどから約6億円を調達している。この分野には、アメリカの Space PerspectiveWorldView、スペインの Zero 2 Infinity といった競合が存在する。

AirShare (北海道帯広市)

Image credit: B Dash Ventures

エアシェアは、旅行者と航空機オーナーとパイロットを Web 上でマッチングするサービスだ。旅行者は、完全オーダーメードの遊覧飛行や区間を直接結ぶ移動手段、オーナーにとっては遊休時の資産運用や節税対策、パイロットにとっては官公庁や航空会社に勤める以外でのプロとしての収入確保の手段が獲得できる。

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パイロットとオーナーはそれぞれ、自由に金額を設定・提示することができる。旅行者からのオファーがマッチングすると、パイロットとの間でチャットボックスが開設され、例えば「自分の家の上を飛んでほしい」といった詳細なオーダーも可能だ。10月現在、飛行機11機、ヘリコプタ16機、パイロット27人が登録している。国土交通省から、適法性と安全対策を認めた承認を受けている。

類似したサービスとしては、アメリカの AeroBlackBird(2020年2月、Surf Air により買収)、国内では「Tokyo Startup Gateway」第4期に採択されデモデイで最優秀賞を獲得した「OpenSky」などがある。

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ギルド肉 project by Fant(北海道帯広市)

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日本では若手ハンターは増加傾向にあるが、ハンターのスキルを習得するには、狩猟会などに所属し狩猟を教えて食える人を身近で見つけ実地で学ぶしかない。若手のハンターが参入する一方で、ベテランハンターが引退しており、若手とベテランの間での情報や技術の伝達は不十分な状態だ。Fant はこの問題を解決すべく、ハンターのためのオンライン・オフラインコミュニティを運営している。

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一方、ハンターが狩猟しても、獲物をジビエとして流通させるには課題がある。処理がされていないと飲食店は受け取れないので、ハンターは仕留めた獲物を食肉処理施設に持ち込むしか販路がない。こうした施設は多くが零細経営で手数が足りず、飲食店への安定的なジビエ供給が難しい。その結果、国内に有用なジビエ資源があるにもかかわらず、飲食店はジビエ調達を輸入品に頼ることが多い。

そこで、Fant では、飲食店とハンターをつなぐ新サプライチェーンとして「ギルド肉 project」をローンチした。飲食店は事前にいつまでに、どのようなジビエを、いくらで欲しいかを入力すると、ハンターはその情報をもとに狩猟で獲物を仕留める。ハンターはそれを食肉処理施設に持ち込み、処理後にジビエとして飲食店に発送してもらう。Fant は、情報を仲介した手数料を受け取る。

スマビル by Flintz(北海道札幌市)

Image credit: B Dash Ventures

Flintz は、ビル管理を見える化して、生産性と価値を向上させるクラウドツール「スマビル」を開発・提供している。創業者で代表の高森拓也氏は、地方ビル管理会社の2代目アトツギだ。修繕・点検業者、管理人などからの報告の多くは紙で書式がバラバラ、ビル1棟につき、1ヶ月の書類作成に16時間、確認作業に8時間費やしていることから、これらの作業の効率化を思い付いたという。

Image credit: Masaru Ikeda

ビルの平均寿命は31.6年とされる中で、近年、老朽化が進む一方、その管理に携わる人材が不足している。ビル管理に関わるさまざまな業務をデジタル化・一元化し、可視化と効率化を可能にするのがスマビルだ。報告書などの書式はノーコードで作成でき、事前に読み込んだ図面にそのまま修繕内容を記入できるなど、アナログからデジタルへの転換を支援する機能が備わっている。

テストに参加した管理会社によれば、スマビルを使うことで、書類を検索する時間は従来の300分の1、書類を作成する時間は従来の半分にまで削減できたという。現在は業務の一元化と効率化に注力しているが、将来は、賃料の最適化、保険や融資の査定、協力会社の剪定などの機能も提供したい考え。全国に1万棟あるオフィスビルと対照的に、雑居ビルは10万棟と市場の大きさを強調した。

BUKARU by FORH BODY PERFORMANCE(北海道札幌市)

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延べ1,000名以上のコンディショニングをサポートするトレーナー森田敦氏が創業した「BUKARU(旧称:BUKATSU)」は、部活動と地域の指導者を繋ぐプラットフォームだ。部活動はこれまで教師に委ねられてきたが、中学教員の86.9%週60時間を超えて勤務するなど「働き方改革」が求められる中、文科省は2020年までに、運動部活動を地域人材による運営に移行するよう求めている。

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BUKARU は、部活動の指導者とのマッチング、スケジュール管理、報酬明細といった機能を提供する。学校は BUKARU 上掲示された指導者のプロフィールの中から、実績などを見て指導者にオファーを出す。指導者がオファーを受け取ると、面談日程が調整され、チャットでやり取りができるようになる。広大な北海道ならではの機能として、ICT による遠隔指導の機能も備えている。

マッチング報酬20万円と補助金を自治体から受け取ることでマネタイズ。また、指導者に対するプレミアムサービス、学生の保険サポート、スポーツショップからの広告掲載などを収入源に見込む。クラウドファンディングやふるさと納税など多彩な収入源も確保し、持続可能なモデルを目指す。3月のβローンチから120人の指導者が登録しており、7月に札幌連携中枢圏でのローンチを予定だ。

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