大企業→スタートアップのプロジェクトに参画する「side project with MUGENLABO」始動から9ヶ月、〝クロスボーダー人材〟が語った成果と気づき

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

KDDI ∞ Labo(以下、MUGENLABO)と、スタートアップへの越境プログラム「レンタル移籍」や「side project」を手がけるローンディールが手を組み、2023年から開始した「side project with MUGENLABO(以下、サイドプロジェクト)」。これは、人手不足に悩むスタートアップとスタートアップでの業務経験を希望する大企業社員をマッチングする人財支援プログラムです。これまでに100人を超える若手・中堅の大企業人材が、スタートアップに参画してきました。

MUGENLABOとローンディールは6月3日、「スタートアップの事業を加速させるクロスボーダー人材の活用術とは?」と題したイベントを開催しました。プログラムの運営担当者とスタートアップに参画した大企業のメンバーが登壇し、サイドプロジェクトの立ち上げの経緯から実際のプログラムの模様までを話題に、トークセッションが繰り広げられました。

クロスボーダー人材の活用とその意義

サイドプロジェクトでは、大企業人材が3カ月間、週の稼働時間の20%を使ってスタートアップに参画します。大企業は社員に対して成長機会を与えられるほか、オープンイノベーションを推進するきっかけにすることができます。一方、スタートアップはプロジェクト単位で経験や知識をもつ人材を活用し、リソースが追いつかず着手できなかった業務に取り組むことができます。

2023年にサイドプロジェクトの開始を発表した後、9月スタートの第1期、12月スタートの第2期、そして2024年5月スタートの第3期とプログラムを実施しました。MUGENLABOの清水氏によると、期を重ねるごとにプログラムへの参加者は増えているそうです。

KDDI オープンイノベーション推進本部 清水一仁氏(モデレーター)

日々新しいスタートアップの方々と話をするなかで人手不足の悩みを聞くことが非常に多く、97社の大企業がパートナーにいるMUGENLABOで何か支援できないかと考え、ローンディールさんとサイドプロジェクトを立ち上げました。私自身、第1期のメンバーとしてプログラムに参加したのですが、スタートアップ側の目線に立って大企業と向き合うことができ、非常に学びの多い機会となりました。(清水氏)

サイドプロジェクトに参加する大企業社員は、スタートアップで業務にあたるためのマインドセットなどを身につける事前研修を受けます。プログラムへの参加を希望するスタートアップとマッチングされ、面談を経て、プロジェクトへ参加します。

スタートアップは、クロスボーダー人材を活用することで人材不足を解消し、事業成長に生かすことができます。クロスボーダー人材とは、〝大企業で働きながら、一部の時間を使ってスタートアップに参画する人材〟と定義しています。大企業のなかで副業解禁が進むほか、プロボノのかたちでベンチャー企業を手伝うなど、クロスボーダー人材はかなり増えている印象です。(原田氏)

ローンディール 代表取締役社長 原田未来氏(モデレーター)

スタートアップは、アーリーからレイターのステージでそれぞれ人材や採用について課題を抱えています。まだ組織がかたちになる前の段階では、採用基準や人材要件が不明確だったり、正社員として抱えることで固定費が増加するといったリスクがあります。また事業が成長してくると今度は必要なポジションが急増する一方で、人材を育成する余力もなく採用でも条件面で大手企業を含む他社に競り負けるといった事態が生まれます。

そうした課題を解決するのが、クロスボーダー人材の活用です。大企業で研修を受けており基礎的なビジネススキルが高いこと、加えてそれぞれの人材が過去の経験のなかで培ったノウハウをプロジェクト単位で役立てることで、スタートアップになかった知見をもたらしてくれます。

どういうレギュレーションを整えているか、どうドキュメントを残しているかといった事業や組織を運営するノウハウは、歴史のある大企業であれば100年以上にわたって蓄積されているかもしれません。また、大企業とコミュニケーションをとるために意思決定の構造がどうなっているか、具体的にどの部署のどの人にアプローチすればいいかといった知見も、大企業側の事情を理解しているクロスボーダー人材から教わることができます。こうした例は、スタートアップにとって大きなメリットになりますよね。(原田氏)

プログラム参加者の声

第1期のメンバーとして参加した東京ガスの橋本祥吾氏は、野菜の宅配サービスを運営するスタートアップ坂ノ途中に参画しました。定期宅配を利用するロイヤルカスタマー向けに、サービスを継続してもらうための施策を手がけました。

もともと橋本氏はWebマーケティングの担当者として、東京ガスの家庭用サービスを利用する会員向けのサイトで、ポイントプログラムをはじめユーザーと定期的な接点をもつための施策を手がけた経験がありました。坂ノ途中でのプロジェクトでは、その経験や知識を応用することができたと話します。

坂ノ途中の担当者から、「人手不足で手つかずだった業務を任せた結果、自ら推し進めてくれたことは本当に感謝しています」と言ってもらいました。とても嬉しかったですね。(橋本氏)

左から:東京ガス Digital Marketer 橋本祥吾氏(パネリスト)、サントリー食品インターナショナル マーケティング 増田佑太氏(パネリスト)

サントリー食品インターナショナルの増田佑太氏は、ローンディールの運営するレンタル移籍を通じてフルタイムで1年間、木の実「カポック」を素材に用いたファッションブランドを手がけるKAPOK JAPANに参画しました。

設立2年目で社長と正社員がひとりという組織に加わり、業務委託として関わる各領域のスペシャリストのメンバーと連携して業務に従事しました。所属する企業では営業畑を歩んでいましたが、KAPOK JAPANでは原料の調達から商品づくり、マーケティング、ECや店頭での販売に至るまで、全方位で取り組みました。

参画したときには圧倒的な人手不足で、手を動かす人がいない状況でした。そこで自分は、社長と業務委託の方々の間に入るハブの役割を担い、指示を出しながら手を動かして事業を前に進めていきました。フルタイムで参加してそうした役割を全うできたのは、自分が貢献できた点だと感じています。(増田氏)

イベントの最後には、会場の参加者から「またスタートアップに行って仕事をしたいか」と質問がありました。増田氏は「大企業のなかで過ごして視野が狭まっていたところ、スタートアップに参画することで広げられた」と述べ、橋本氏は「いろいろなジャンルの会社があることを知る、いい機会だった」と話し、二人とも「またスタートアップで働きたい」と回答しました。

「side project with MUGENLABO」は、現在進行中の第3期以降も継続的にプログラムを実施する予定です。直近では、2024年9月〜11月の第4期、2025年1月〜3月に第5期が予定されています。プロジェクトの事務局では、大企業人材の力を借りて自社の事業を成長させたいスタートアップの応募を引き続き募集しています

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