誰もが、誰かに教えられる何かを持っている。それは、ちょっとした特技だったり、長年やってきた趣味、はたまた、会社時代に培ってきたITスキルだったりするかもしれない。自分にとって当たり前だと思っていることも、実は他の人にとっては新しい気づきや発見といった学びを提供でき、自分の特技が誰かに喜んでもらえるものになるのだ。つまり、学びとは教える側教えられる側双方にとって意味のあるものでもあるのだ。
学びを通じた、発見や自己実現を図っていきたいと考えているのが、プライベートのグループレッスンサービスを展開するストリートアカデミーだ。IntheStreet代表取締役社長の藤本崇氏に、ストリートアカデミーに対する考え方について話を伺った。
グループレッスンのストリートアカデミー
ストリートアカデミーは、グループによるプライベートレッスンサービスだ。「教える」人と「学ぶ」人をつなぎ、スキルの共有や同じ趣味を持つ仲間を見つけることができる。自分が誰かに教えられるスキルがあれば誰でも講座を開設することができ、現在レッスンを教える先生の数は400人を越えている。「マッチングはウェブで、学びはリアルで」をもとに、Facebookログインを軸とした実名制のマッチングサービスだ。
教える人のモチベーションの向上や、学びたい講座を選びやすいように、過去のレッスン内容や講座ページを見える化し、参加した受講生のレビューなどを見ることができる。
2012年に8月からスタートしたストリートアカデミーは、現在は受講料の一部を手数料としていただくビジネスモデルだ。2013年6月にはサイバーエージェント・ベンチャーズやGenuine Startups Fund I L.P.及び個人投資家を割当先とする第三者増資によって、総額4000万円の資金調達を行っている。
教え、学ぶことによる新しいチャレンジの仕組みを作りたい
藤本氏はアメリカ経験が長く、エンジニアや金融投資ファンドなどいくつものキャリアを経ている人物だ。アメリカでは40歳を超えた人が違う業界に転職したり、年配の方の大学進学も多いといった、人生におけるキャリアシフトの容易さがあるという。そうした中、アメリカと日本におけるキャリアスイッチの難しさがあると語る。
「日本では、転職や新しいことに対して抵抗があり、定年後でなければ一般的にはそれまでと違ったことをやるのは難しい。もっと個人がチェンジすることを許容することで、新しいことに挑戦する人が増えたらと考えていました」
キャリア問題と同時に、パートナーの料理教室の課題もあった。アメリカで健康志向のケーキ教室を主催しており、日本でもできないかと思案していたが、集客に苦労した経験があった。コンテンツは面白いが集客の導線がない。大人数ではなく、4、5人程度の集まりで自分が好きな事を教えるというニーズに答える場がないといった課題があった。
そこで教えたい人の導線を確保し、新しく学びたいと考えている人に機会を提供することで挑戦をする人が増えるのではと考え、教え、学ぶことのマッチングビジネスへと至った。
「無料のオンライン教育サービスが流行っていたが、無料で高度な授業が受けられるのではなく、ちょっとしたことが知れる喜びを提供したく、パートナーの経験から発想当初からオフラインで教える人を増やしたいと考えた。全国どこでも、自分の近くにある面白いことが学べるプラットフォームになれたら」
こうした思いから、実名制によるグループレッスンが開講・受講できるサービスとして誕生した。
ITのソーシャル化でも見えていない、地域人材の再発見
かつて、子どものピアノ教室などといった習い事は商店街の人や地域の人たちから教わるもので、少人数ながらも多様な学びとしての機能があった。こうした、小さな商圏を築くことの重要性こそ、今の時代には大事だと藤本氏は語る。
「学びももちろんだが、学びを通じて得られるつながりが大事。だからこそ、実名制のマッチングを大事にしている。プライベートで会うことは、情報を提供するだけではない。新しいものに挑戦すると得られる、つながりの価値を提示したい」
リアルに会える人との間には、情報だけではない様々なものが生まれる。遠くのすごい人よりも、近くにいる面白い人から学ぶほうが得るものは多い、と語る藤本氏。地域に眠る多くの人材資本を活かすためにも、誰もが教え、学ばる空間を提供することが一番だという。
「ちょっとしたことを学びたいという潜在層は多い。しかし、そうした場がこれまで多くはなかった。日本の識字率が昔から高かったのは、寺子屋のような民間の任意の人たちの力で保たれていたと言われています。基本的なこと、ちょっとしたことが学べる場所は、もっと民主化されたほうが社会にとって良いものが生まれるのでは」
近年、地域コミュニティ作りや地域資源の再発見をきっかけに、市民大学の盛り上がりがでてきてる。まさに、こうした市民大学などをステークホルダーとして連携し、地域活性化と学びをリンクした動きをしていきたいという。ITのソーシャル化でさえもいまだ顕在化されていない、地域や地元の良さを発見するサービスになりうるのでは、と藤本氏は語る。
誰もが気軽に教える社会に
学びを通じた、地域のつながりを作っていきたいと語る藤本氏。いつでも気軽に学べるために、教育コンテンツに見られる入会金モデルは導入しなかったという。
「入会金モデルは、学びを躊躇する一つの要因。体験レッスンの先に入会を暗に示されていると気軽に参加しずらい。そのため、教える先生にはまずは単発レッスンを推奨している。その後、予定している継続コースや連続講座機能をもとに学びたい人が学べる環境を作っていきたい」
すでに、自身でレッスン教室をやっている人の予約プラットフォームとしての使い方も多い。それまで手作業でやって予約管理などに比べると、予約の簡易さやレビューによる信頼性構築、メディアとしての発信手段など、新規顧客獲得の導線にもつながり、レッスン開講者を支援する形となっている。新規レッスン開講者も、既存のレッスン開講者を参考にするなど、教える側にとっても参考になるものも多いという。
「もっと上手く教えたいというニーズもでてきたので、教え方のワークショップなどをストリートアカデミーの公式のレッスンとしても開講していく。やってみようと思うところから、もっと上達したいという段階的なステップを支援していく」
教える側への機能を充実化することで、学ぶ側にとっても安心安全さをアピールできる。入会金もないため、まずは気軽にレッスンを受けてみる気持ちにもなりやすい。先生を育てることで学ぶ人へのサポート体制ができ、学びの良さに気づいた人が今度は教える側に回る仕組みを作りたいという。
「教えることがもっと気軽になってほしい。流行や、当たり前なくらいになるのが目標。誰もが誰かに教えるものを持っているはず。それを形にしていきたい」
出会いや発見による自己実現を図っていきたい

学習マッチングサービスとして、プライベートコーチレッスンのCyta.jpが挙げられる。先日、クックパッドへの買収を発表するなど大きな動きを見せているが、藤本氏はどう考えているか。
「実名制のオフラインマッチングとしては共通部分も多く、参考にしているところも多い。違うのは、Cyta.jpは個人レッスンが中心のため、扱うジャンルもストリートアカデミーと変わってくる」
プライベートレッスンと言っても、個人レッスンとグループレッスンでは好む人も変わってくる。そのため、サービスとしてのニーズには違いがあり、明確な競合ではないと語る。また、サービスの形よりも、思想としてはつながりや自己実現を形にするものとして展開していきたいと語る。
また、個人レッスンよりもグループレッスンのほうがビジネスモデルやコンバージョンとしてもハードルが高いと藤本氏は語る。しかし、そこをあえて突き進むことに意味はあると考えているという。
コワーキングスペースによるコミュニティ作りとレッスンの全国展開
今後は、ママコミュニティなどの地域コミュニティを軸に展開していきたいと藤本氏は語る。さらに、多様な人たちとのつながりを作りやすいという意味において、コワーキングスペースとの相性は良いという。
「会議室などの貸し借りの手間のリスクもなく、場所それぞれのコンテキストがある。コミュニティも生まれやすく、グループレッスンの場として最適。コワーキングスペースで働いている人も、教えたいという意識を持つ人たちでもあるので、良質な集客のコンテンツと場の魅力がある」
現在は、関東近辺を中心としたレッスンを中心に展開している。その理由は、教える人とストリートアカデミー運営側との密なコミュニケーションが取れる範囲でのみの展開だったが、今後は全国展開を視野に入れた活動をしていくという。
「教える人たちとのアプローチや関係構築、レッスンのノウハウなどが溜まってきた。このノウハウをもとに、自分たちがいなくても成功するようになれば、全国にレッスンを広げていける」
さらに、単発のレッスンだけではなく、より本格的なレッスンを受けたい人たち向けの継続レッスンや連続講座のようなステップアップが図れるものも作っていきたいという。
教える側のレベルを向上させ、学ぶ側の意識も高まりそこから新しく教える人たちが生まれていく。コミュニティを軸に、そこから新しいコミュニティを育てていくことを期待していると藤本氏は語る。
誰もが教えることが楽しい社会を通じて、学びをもっと当たり前のものにしていこうとするストリートアカデミーの活動は、まさにこれからと言える。
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