日本のインターネット・マーケティング・サービス会社であるアライドアーキテクツ(東証:6081)が、シンガポールに進出したことは4月にお伝えした。このシンガポール法人 Allied Asia Pacific(以下、Allied Asia と略す)の役割は主に2つ。モニプラに代表される、既にアライドアーキテクツが日本国内で提供しているサービスを、アジアのみならず世界に展開すること。そして、独自にグローバルなサービスを開発することだ。
7月30日、Allied Asia が初めて独自に開発したサービスがローンチした。Facebook 広告のクラウドソーシング制作プラットフォーム「ReFUEL4(リフュールフォー)」がそれだ。ReFUEL4 を実現するため、Allied Asia は Facebook の公式APIパートナーの認定を受け、Facebook の sPMD(Strategic Preferred Marketing Developer)である Nanigans と提携した。Allied Asia は Nanigans を通じて、全世界の広告主に Facebook 広告のクラウドソーシングの制作サービスを提供する。
ReFUEL4 では明日(18日)から、中国のゲーム会社や東南アジアの通信会社が広告主として利用を開始し、サービスの稼働を本格化させる。クラウドソーシングの領域が多岐にわたる中で、Allied Asia は最初に手がけるサービスとして、なぜ Facebook 広告を選んだのか。Allied Asia の代表を務め、ReFUEL4 をプロジェクト統括する瀧口和宏氏に話を伺った。
鮮度が重視される、Facebook 広告のクリエイティブ

テレビのスポットCMでは、同じ広告を複数回にわたって見てもらえる機会を作ることで、視聴者の意識の中に商品やサービスの情報を刷り込む。日本の民放では近年、モバイルゲームやニュースキュレーションアプリのスポットCMが増えたが、視聴者の一定数に認知してもらうまでに企業は最低でも数億円の資金を投じている。効果は高いものの費用もそれなりにかかるので、同じ内容のCMを長期間にわたり流し続けるケースは稀だ。
一方、Facebook の広告は、テレビほど広範な消費者層にはリーチできないものの、細かいターゲティングをして、世界中の潜在顧客に比較的安価に訴求できるのは魅力的だ。Facebook 広告の出稿経験のある人ならご存知かもしれないが、対象ユーザを選んで効果的な広告出稿が管理できるダッシュボードが提供されている。
ただ、グローバルにマーケティング・キャンペーンを張っている企業の多くは、このダッシュボードを直接使うケースは少なく、彼らは世界に50社ある PMD(Preferred Marketing Developer)や、そこからさらに選ばれた 13社の sPMD (Strategic Preferred Marketing Developer) を介して広告を出稿しているケースが多い。言わば、Facebook における、広告出稿のツールと代理店の組み合わせのような存在だ。
Facebook 広告はコスト・パフォーマンスがよい反面、インプレッションが出てしまうとクリエイティブの消耗が速い。ユーザは「この広告を見たことがある」と反射的に判断すると、CTR(クリック率)が下がるので、広告主は次々と新しいデザインを作る必要があります。しかし、クリエイティブを作り出すペースが追いついていない。そこで、Facebook 広告に特化したクリエティブのためのクラウドソーシング・プラットフォームを作ることにしました。(瀧口氏)
年間1兆円規模とも言われる Facebook 広告だが、うち日本市場での売上は全体の約5%。そこでローンチ当初から、英語圏をターゲットにすることにした。ReFUEL4 には現在、アメリカ、インドネシア、タイ、シンガポールなどを中心に、2,500人のクラウドソース・クリエイターがいて、広告主からのオーダーに応じて、クリエイティブを提案している。広告の地域性も考慮して、例えば、インドネシアの消費者に訴求したい広告は、インドネシアの市場状況を理解している、インドネシアのクリエイターに制作を促すような配慮も実装されている。

広告主にはCTRを保証、クリエイターには競争心理を刺激し、FB広告市場を活性化
ReFUEL4 で面白いのは、広告のプラットフォームではなく、広告制作のプラットフォームであるにもかかわらず、クリック率(CTR)保証型のサービスである点だ。広告主はクリエイティブを発注し、クラウドソース・クリエイターから上がってきたクリエイティブを採用、しかし、その広告が Facebook ユーザから支持を集められなければ(クリックされなければ)、クリエイターは報酬を受け取ることができない。
広告主がクリエイティブの要件をサブミットすると、それに基づいて、クリエイターがデザインを作成して提案してきます。その広告が採用されて成果が出れば、広告売上の3%が広告主から制作費として支払われるしくみです。3%の制作費を Allied Asia とクリエイターで半分ずつレベニューシェアします。(瀧口氏)
ReFUEL4 のクリエイター向けのダッシュボードでは、クリエイター自身が制作したクリエイティブの CTR に加え、同じ広告主に対して、他のクリエイターが制作したクリエイティブの CTR も見られるようになっている。つまり、クリエイターは自ずと、どういうクリエイティブを制作すれば高いCTRを稼ぎ、自身の売上を高めることができるのが理解できる。
予算の大きなキャンペーンに、いいクリエイターを入れたい。そして、出した成果に応じて、クリエイターにレベニューを取ってもらう形に設計したかったんです。広告では制作予算は枠が決まっていることが多いが、効果が出れば、広告にかける予算は膨らむ。ReFUEL4 では制作費をパーセンテージで算出するため、クリエイターにも夢が広がると思います。(瀧口氏)

Facebook 広告を選んだ理由
クラウドソーシングのスタートアップを手がけるなら、その適用分野の選択肢は広い。バナー広告のデザインだけで見てみても、国内ではリクルートが提供する「C-team」や、これまでにシードラウンドで725,000ドルを調達しているイスラエル出身のスタートアップ Dispop などがある。ReFUEL4 は、なぜ Facebook 広告にターゲットを絞ったのだろうか。瀧口氏が答えてくれた。
CTR を保証しているので、それを高く維持できる技術を多く持っている所である必要がありました。それを考えると、Facebook か Google ということになりますね。Twitter でさえ、まだこれからでしょう。また、Facebook 広告は、広告のフォーマットが少ないことも特徴です。クラウドソーシングを展開する場合、比較的やりやすかった。
ReFUEL4 を使う広告主は、sPMD である Nanigans を介して Facebook への広告出稿する。Nanigans との提携関係をもとに、広告制作のアウトソーシングのオーダーがほぼ自動的に ReFUEL4 へ流れ込むので、案件獲得のための営業活動に費やすコストも必要最小限で済むことになる。
Allied Asia では現在、クリエイティブの画像認識ができる機能を開発中だ。これを使えば、将来的には、ReFUEL4 上で、CTR や取り扱うサービスの業種などの情報を組み合わせ、広告主やクリエイターに商品の露出の仕方、テキストと画像のバランス、色合いなどのレコメンドが提示できるようになる。
広告の効果が、クリエイティブ制作者の実入りにそのまま反映されるのは、実に面白い試みだ。今後、従来からある広告や制作業界にどのような影響を与えるのかも興味深い。ReFUEL4 の今後の躍進に注目しよう。
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