データ解釈の重要性とインダストリアルIoTの可能性——IoTスタートアップの創業者達が未来を語る

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サンフランシスコの一画にPCHと呼ばれるハードウェアスタートアップ向けのインキュベーター施設がある。4月23日、このPCHでクリエイティブエージェンシーである btrax 主催のIoTの未来に関して議論するトークイベント「The Future of IoT」が開催された。

ゲストスピーカーとして登壇したのは、Sprouting の Chris Bruce 氏、FarmX の Sanjay Rajpoot 氏、BKON の Richard Graves氏、そして Automatic の Thejo Kote 氏。モデレータは、btrax の Innovation Strategist である Tim Wagner 氏が務めた。

大事なのはデータより、その「解釈」

ディスカッションは、データに関するものから始まった。IoTとデータはよく引き合いに出される。デバイスを利用するにつれてデータが蓄積されていき、データ量が増えることでデバイス自身がデータパターンを認識していく。このサイクルを回すことで、より良いフィードバックを与える仕組みが一般的だ。

しかし、一般ユーザーは、データがどう扱われ、提供されるのかというテクノロジーの側面はあまり気にしない。彼らが一番知りたいのは、各IoTデバイスを利用することでもたらされるメリット、生活がどう良くなるかに尽きる。

モデレーターから、「データの利用価値を最も効率的、そしてシンプルにユーザーへ伝えるにはどうすればいいのか」という質問が投げかけられた。この質問に答えたのは、赤ちゃん向けのウェアラブルデバイス開発するSproutingを率いるBruce氏だ。モバイルアプリと連携させることで赤ちゃんの状況が随時把握できる製品だ。

ユーザーにデータを伝える上で大切なのはビジュアルです。例えば、Sproutingには9つのセンサーが搭載されており、1分間に2回データを収集できます。収集された豊富なデータをそのままユーザーに伝えることは簡単です。しかし、肝心なのはデータの解釈です。

例えば、現在の室温をそのまま伝えられても、それが赤ちゃんにとって適温なのかどうかはわからない。データをユーザーに垂れ流ししても仕方がないんです。そのため、アプリ画面が「緑」は適温、「赤」は要確認というデザインに行き着きました。このようにデータが持つ意味合いを直感的、かつシンプルにわかるようなビジュアルに作り込むことが重要です。

幅広い利用シーン、機能面、そしてユニーク性を押し出すハードウェアスタートアップは多い。しかしこの手のものを買ったとしても、使い勝手の悪いさから使わなくなることが頻繁に起きる。ユーザー体験の中で、「ユーザー」と「データ」をどう結び付けるかがしっかりと考え練れていないと、IoTが持つ本来の利用価値が見失われてしまう。

この点、Bruce氏の回答は、「伝え方」においてまだまだ不十分であるスタートアップが多いことを改めて気付かさせてくれるものであった。

次はトイレが来る?「IIoT」(インダストリアルIoT)の可能性

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ディスカッションの終盤には、このイベントのタイトルにもなっている IoT 市場の未来に関して議論がされた。各パネリストがそれぞれの未来予想を語るなか、Rajpoot 氏のそれはインダストリアルIoT(以下IIoT)の将来に触れるものだった。ちなみにIIoTとは、エネルギー産業や農業、流通業など、主に2B向けに開発されたデバイスの総称を示す。

これから2年先のIoT市場で大きなトピックになるのが、「農業」「ソーラー発電」そして「トイレ」です。例えばトイレ製造メーカーがIoT付きのトイレを販売すれば、ユーザーの毎日の体調管理ができたり、トイレを流す水の量を最適化できたりするでしょう。そして各トイレから消費した水の量に関するデータを蓄積すれば、各地域の水消費量を簡単に知ることができます。

このような具合に、IoTデバイスがあらゆる身近な製品に取り付けられることでデータ機器として活躍します。データが蓄積されることで、大きな産業にとって有益なものとなるでしょう。

Rajpoot 氏が言うように、個人的にも大手企業先導による IIoT デバイスの普及にはかなりの可能性があると思っている。スタートアップが企業側と組んでデバイスを売り込めば、一挙に一定量のデバイスを買い取ってもらうことができ、コンシューマー向けに売り出すよりメリットが大きい。また、IIoT 市場は2020年までには3190億ドルの規模にも上るというデータもあり、2B向け市場拡大のポテンシャルは高い。

IoTが生活に浸透してから動いても遅い

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北米ではすでに多種多様な IoT デバイスが出揃いつつある。アリーアダプター以外のマジョリティー層には未だ届いているとは思えないが、それも時間の問題だろう。普及が加速している背景には、コストの低下が挙げられる。実際、開発コストに関するデータを見ると、2000年以前は1,000ドルかかった GPS デバイスも、今では100ドル前後にまで下がっている。

最後になるが、ここで気に留めなくてはいけないのは、IoT が生活に浸透してから開発に取り組むのでは時が遅いということだ。日米間にはタイムラグがあり、北米のトレンドが数年後になって日本に来るというのはよく聞くが、それでは世界市場から見ても出遅れてしまう。常にアンテナを張り巡らし、誰よりも早くIoT市場の流れを見定める必要があるだろう。

今後、急激にIoTが広まっていく「IoT幕開け」が近づいていることを予感させるイベントだった。

情報開示:筆者は昨年インターンとしてbtraxで働いていました。

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