WorldFirstを買収したAnt Financial(螞蟻金融)、世界進出に再意欲を見せる

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昨年、中国・杭州で開催された Money 20/20 での WorldFirst のブース
Image credigt: WorldFirst

Alibaba(阿里巴巴)系列企業で決済サービス Alipay(支付宝)を運営する Ant Financial(螞蟻金融)はロンドンを基盤とする決済・両替企業 WorldFirst を買収し、イギリス進出に向けて最初の大きな足がかりを得た。同社はこれにより、規制に阻まれていた海外展開計画を再燃させたと見られる。

Ant Financial は本誌 TechNode に声明でこう伝えた。

Alipay と WorldFirst が持つ能力や国際勢力圏は非常に相補的なものです。

またこの買収を通じて、国際オンライン決済や仮想アカウントに関する WorldFirst のプロダクトが Alipay の技術的ソリューションに追加されるという。

同社の見込みでは、イギリスの決済サービス企業を買収したことで、特に国際 e コマースの分野で顧客ベースが拡大する。

買収規模は明らかにされていないが、イギリスのニュース局 Sky News が12月に伝えたところでは総額7億米ドルに上ると見られる。

協約により WorldFirst は今後も独立性を保つことになる。同社 CEO の Jonathan Quin 氏は、買収契約を伝える通知文の中で、現在の顧客情報とアカウント情報は変更を受けないと述べている。

2004年に設立された WorldFirst は、海外貿易を行う中国企業との長い取引経験を持っており、外国企業として初めて中国のフィンテック分野で事業許可を獲得するべく手段を講じてきた。

WorldFirst の主要事業は、国際的なマーケットプレイスにおいて企業が現地通貨で支払いを受けたり、オンライン販売業者が国境を越えて決済を行えるようにするサービスである。Alibaba 傘下の e コマースプラットフォーム Lazada に国際決済サービスを提供しているほか、Amazon のサードパーティー・セラーの決済プロセッサも務めている。

送金分野の競争は激化中で、特にアジアに大手企業が参入しつつある。業界メディア PYMNTS によれば、WorldFirst は競争に飲まれて成長が鈍化していたところだった。Ant Financial との連携がこの領域で地歩を獲得する後押しとなるのは間違いない。

Alibaba は Ant Financial の海外シェア拡大を目指しながら、同じ中国のライバル企業 Tencent(騰訊)の決済サービス WeChatPay(微信支付)と激しく争っていたが、昨年アメリカで手痛い敗北を喫した。アメリカの送金会社 MoneyGram を12億米ドルで買収しようとしたところ、国家安全上の懸念が寄せられて手を引かざるを得なくなったのである。

Ant Financial は対米外国投資委員会(CFIUS)に対し、アメリカ国民の個人特定につながりうる機密情報の安全性が保障されるようにいくつかの提案を行ったが却下され、結果として買収交渉は頓挫した。

上海の金融市場調査会社 Kapronasia の役員 Zennon Kapron 氏が TechNode に語ったところでは、Ant Financial はこの買収失敗によってアメリカには規制上の課題が多いと思い知らされた。

アメリカ市場は巨大だが困難も多く、きわめて競争的である。それに比べるとヨーロッパ市場の方が参入しやすい。Ant Financial は比較的規制が緩いヨーロッパ市場に主力を傾けていくだろう、というのである。

ほかにも、ヨーロッパが未だにクレジットカードや小切手のような旧来の支払方法に安住していることもある。

Kapron 氏はまた、支払いサービスを巡る法的規制の問題に加えて、テクノロジー戦争が繰り広げられる中で各国が中国の動きに神経を尖らせていることも指摘している。それでもなお、同氏によると「Alibaba と Ant Financial が長年ため込んできた軍資金の額を考えると、今回の投資は驚きではない。強い拡大志向を持つ両社なら当然の行動だ」ということだ。

WorldFirst は Ant Financial によって買収される数か月前にアメリカ事業から撤退していた。中国で活動する個人投資家 James Hull 氏は TechNode に対し、アメリカでの事業を停止するという WorldFirst の決定は「CFIUS が買収の条件として要求したか、あるいは CFIUS の認可プロセスを完全に避けるためだったのではないか」と語っている。

上海のシンクタンク Den Digital Draken に所属するフィンテック・コンサルティングパートナー Johan Uddman 氏によると、WorldFirst の買収は Ant Financial にとって、マーケットシェアやプロダクト、あるいはインフラストラクチャーを確立済みの企業に買収、提携、出資を仕掛けていくという近年の戦略に沿ったものである。

Ant Financial が WorldFist の買収のような戦略的行動を積み重ねれば、ヨーロッパ市場に食い込むことができるでしょう。(Uddman 氏)

【via TechNode】 @technodechina

【原文】

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