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Bloomberg のコラムニスト Tim Culpan 氏は、Grab が現在も進行中の巨額のシリーズ H ラウンドについて最近豪語したことを冷ややかな目で見たが、これはある程度的を得ている。
同氏の批判の趣旨は次の通りだ。ソフトバンクにより部分的にヒートアップしてきた Grab と Go-Jek の資金獲得戦争は、どちらが先手を打つかの中毒的な競争になってしまった。さらに悪いことには、この競争は両社が財政的に持続不可能になるかもしれないことをごまかす煙幕だというのだ。
しかし、Culpan 氏の見解はすさんだ考えだと思われる。より重大なことに、彼の見解は大きな全体像を捉え損ねている。

Grab の投資家である1,000億米ドル規模の SoftBank Vision Fund は、それ自体最大規模のスタートアップだ。
Vision Fund は従来の VC 企業が出せる額をはるかに上回る資金を提供することによって、従来の VC 企業を震撼させている。同社は一般通念を避け、直接のライバル企業に投資することもしばしばだ。
同社はカテゴリーリーダーを支援し、各業界を独占するようにそれらの企業に惜しみない資力を与えている。同社には、出資先企業間での提携や統合だけに専念する30人のスタッフからなるチームがある。
もしソフトバンクの設立者孫正義氏が成功すれば、彼は数十億規模を誇る多くのグローバル複合企業に対し、これまでに試みられたことのない速さで大きな変化を与えたことになるだろう。
人生は一度きりなんですから、大きく考えたいのです。小さな賭けをするつもりはありませんね。
Vision Fund は孫氏の投資を受ける側の企業や出資金を強化してきた。もしもある企業が Vision Fund からの資金を受け取らないなら、その資金はライバル企業に渡ってしまう。そのため、お呼びがかかると、それは企業にとっては断ることのできない話なのだ。
孫氏はかつて Grab の共同設立者 Anthony Tan 氏にこう告げたことがあった。
私のお金を受け取ってくれるのなら、私にとっても君にとっても良いことです。もし受け取らないのであれば、君にとってそれほど良いことではないでしょう。
ソフトバンクのオファーを断るには代償を払わなければならない。伝えられるところによると、Uber のインドのライバル Ola は、孫氏からの11億米ドルの予備交渉を退けた。これは、Ola 設立者 Bhavish Aggarwal 氏が、自社の支配権を保持したかったからだとされている。同氏の決断についてはまだ決定ではないが、すでにつけは回っている。
Uber はソフトバンクからの資金を受け取った。一方 Aggarwal 氏は、その後ずっと少額の資金をかき集めざるをえなくなった。1つの巨大投資家に自社を売り込むよりも、多数の小さな支援者たちにピッチする方が、ずっと労力がかかる。
Vision Fund の招いた結果
これだけ多額の資金や株式が絡む中、Grab と Go-Jek が補助金競争をしていることを非難できる者がいるだろうか?
Grab にとって、ソフトバンクの「限りない」支援は競争上有利な点であり、Go-Jek が一生懸命追いつかないといけないものだ。しかし、孫氏ほど大胆な(あるいはクレイジーな)人が他にいない中、Go-Jek はどうやって Grab に匹敵する資金を調達することができるだろうか。そして、Grab が潤沢な資金を誇示してはならない理由などあるだろうか。

Photo credit: Go-Jek
確かに、ソフトバンクの戦略はリスキーだ。それはスタートアップの性質上当然である。VIsion Fund が出資金の供給のために負債を使ってしまうと、収益を侵食してしまうことになる。同社は毎年投資された資本の7%の配当を投資家らに支払う必要があるのだ。
ソフトバンクの投資先企業にとって、まだ実績のないビジネスモデルを急速に拡大することには負の側面もある。道を誤ると、無駄な出費、プロジェクトの中断、大量の解雇という結果を招いてしまう。社内文化や社内のプロセスが企業規模の拡大に追いつかないと、業務執行に妥協が生まれる。もし企業価値に見合うだけのことができなければ、設立者も初期の従業員も報われない。
こうした問題が VC の出資を受けたスタートアップを悩ませているが、ソフトバンクが関わるとそのスケールが数倍大きくなってしまう。
とはいえ、良い側面にも目を向けよう。
ソフトバンクから Uber への80億米ドルの投資金は、Uber が IPO し130億米ドルを調達することができれば、うまく回収することができる。
Grab と Go-Jek はすでに企業を買収しており、今後より多くの企業を買収する予定で、両社がもたらす投資利益は、より多くの起業家や投資家に競争への参加を促している。
新たな一連のスタートアップ設立者らが、これら2社から生まれることになるだろう。そして、彼らは細分化された地域にスーパーアプリのエコシステムを張りめぐらせる2社のマネジメント、デザイン、技術的教訓を活用することができる。

Photo credit: Grab/Ascendas
スーパーアプリのアプローチは、リスク軽減の一形態にもなりうる。ライドヘイリングのビジネスモデルはまだ実績がないが、フードデリバリー、決済、ファイナンス、オンライントラベル業界には利益を上げているベンチャー企業が多くある。もちろん、こうしたビジネスが統合されたときに、1つ1つのビジネスの総計以上のものになれるかどうかはまだわからない。
結局のところ、Grab と Go-Jek の将来に希望がもてそうにないことは想像に難くない。有益な東南アジアのスーパーアプリが強引に現れ、新しいデジタルエコノミーのインフラとして機能するという結果になりかねない。
数多くのオジェック(インドネシアのバイク式タクシー)やワルン(インドネシアのキオスク)のオーナーが利益を得る立場にある。どちらのスーパーアプリも、現在小規模起業家たちに提供している付加的な利益のメリットを謳っている。ただ、こうした企業の本当の経済的価値がずっとよく分かるのは、両社の資金調達と補助金戦争の波が引いてからだ。
スタートアップ業界は、厄介で、奇妙で、直観に反するところがある。
とはいえ、スタートアップ業界に自ら浸ることなく、外から眺めているだけでは分からないものである。
【via Tech in Asia】 @techinasia
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