BGMは「探す」から「自動作曲」へ——楠太吾氏が描く、「SOUNDRAW」世界展開の野望

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

テレビは言うまでもなく、YouTube や Facebook など、ありとあらゆる動画には BGM がつけられていることが一般的です。クリエイターは写真や画像をストックフォトから選ぶように、音楽もストックミュージックから選ぶことになるのですが、ここでいくつか問題が生じます。まず、目で見て探す写真や画像と違い、楽曲は一つ一つ聞いてみないと中身が分かりませんから、一覧で並べて探すということができません。BGM の場合は、それをつける映像と曲のイメージや長さ、場合によっては、映像の盛り上がり変化と曲を同期させる必要もあります。

自分で作曲でもできない限り無理だと思えるような芸当を、AI が手助けしてくれるのが SOUNDRAW です。AI 自ら作曲するため、曲につきものの著作権の問題も生じません。映像に合った曲を、探すのではなく新しく作り出すというアプローチは興味深い発想の転換です。

また音楽というノンバーバルなテーマを扱っているため、日本の中と外の間に市場を断絶する境目が無く、海外ユーザの方が多いというのも、SOUNDRAW をユニークな存在にしています。SOUNDRAW ができた背景や今後の展開について、創業者の楠太吾氏に話を聞きました。

これまでシリアルアントレプレナーとして歩んでこられた経緯や、これまでで一番うれしかったこと、一番大変だったことについて教えてください。

楠:僕の経歴をまず説明しますと、大学院まで行って卒業して、はじめは(現在の事業とは)全然関係ないメーカーに勤めていました。自分の作りたいものを作ってみたいなと思い、 2016 年ぐらいから新しいことを始めました。初めにやったのが、ウェアラブル楽器ガジェットといコンセプトで作った「SoundMoovz」です。

楠氏が最初に手がけたプロダクト「SoundMoovz」

僕は元々ずっとダンスが好きで、ダンスや音楽関係のプロダクトが作りたいと考えていて、その思いを形にしました。SoundMoovz は、身体につけて踊ると、そのモーションが音楽に変わるという楽器ガジェットです。秋葉原にこもり、電子部品を買ってきてハンダ付けをしたり、プログラムを勉強して自分で書いてみたりして、頑張ってプロトタイプを作りました。

SoundMoovz をどうしてもモノにしたかったので、香港でおもちゃの商談会があるのを聞きつけ、パッケージもダミーのものをわざわざ作ったり、ダミーのバーコードとかも貼ったりして、このプロトタイプを商品に限りなく近いレベルまで頑張って仕上げました。これで準備万端というところまで仕上げたものを3セットぐらい作りました。

それで香港に持っていきましたら、僕が実際ロボットダンスが得意だったのでパフォーマンスしデモしまくったら、欧米のトイメーカーにめちゃくちゃ受けまして、それで世界中17ヵ国に 40万台出荷がこの時に達成できた感じです。

Walmart という、アメリカの非常にでかいリテールショップに SoundMoovz が並んでるのを見てすごく感動しました。秋葉原に籠って作っていたので、すごい不安と大変な思いでやっていたのが、この時に売れまくって、この感動はもう忘れない体験だなと思いました。

結果として、何億円も売り上げて、ホームラン打てたわけです。しかし、おもちゃの市場は商品の回転が非常に早く、 1 年くらいで完全に入れ替わるようなところです。長年使われるおもちゃを生み出すには、アンパンマンぐらいの地位を確立しないと難しい。SoundMoovz のブームは、すぐ終わっちゃいました。

コア技術であったりとか、ビジネスモデルはしっかり固めていく重要性を身をもって知って、2018 年ぐらいに AI 作曲の分野があることを知りました。この分野は黎明期で、他のプレーヤーも完成度が高くない状態だったので、今から取り組めば世界にも通用できるものが作れるんじゃないか思い、一か八か AI 作曲の開発に着手しました。これが 2018 年です。

ここから暗黒期に入ります。 AI がアウトプットするメロディーラインとかベースラインとかがめちゃくちゃなんです。赤ちゃんが適当に鍵盤を叩いたような。そこから開発をスタートさせて、知り合いの作曲家とかを巻き込み、ようやく2020年にそこそこクリエイターにお使いいただけるレベルまで上がったかなと手ごたえを掴むに至り、ビジネスモデルも固まってきてたので、満を持して分社化して 2020 年に会社が設立してシードファイナンスを調達して、今ようやく来てる流れになります。

紆余曲折ありながら、なんとか、ここまで走ってきたかなと。

SoundMoovz がすごく売れた期間が短かったとおっしゃいましたが、そこから SOUNDRAW という新たなプロダクトを生み出せたのはなぜでしょう?

楠:運も良かったですが、SoundMoovz のようなコンセプトの商品自体が結構今までなくて、かつ開発者である私自身がダンサーで、商談する時に自身でプレゼンして回れたのが結構大きくて、プレゼンする時も大きなスピーカーを持って、スマホ繋いで爆音でインパクトを与える形でデモンストレーションしながら商談したのですごく受けました。

SoundMoovz での経験を元に、新たに生み出したプロダクト「SOUNDRAW」

出会いもありまして、イギリス人のトイ業界に非常に強い方と東京で知り合って、「俺ならこれ持っていける」みたいなこと言われて、怪しいと思いながらも、話が具体的だったのでその人のアドバイスを受けながら商談会に臨めました。香港に世界中のトイ業界の人が集まり、その年に売るおもちゃをその人達で決めてたわけで、そこに入り込めたのが大きいですね。

SoundMoovz での経験は SOUNDRAW のリリースに繋がりましたか?

楠:私自身が世界中で売れる、世界中の人がビックリするようなものを作りたいという漠然とした想いがありまして、僕は英語得意じゃありませんが、それでも海外のエージェンシーと契約書含めて交渉してきた経験とか、踏み出せば行けるという手応えをかなり出すことができました。そこでの経験とか思いを SOUNDRAW に引き継ぎ、Day1 から海外ユーザに使っていただけるように作っています。

今、海外のユーザが全体の 37% ぐらいで日本の方が多いですが、伸び率は海外の方が圧倒的に高いです。かつ海外ではマーケティングを本格的にやってなくて、オーガニックだけでここまで伸びてきてる。口コミで広がってる状態で、かなり手応えを感じています。

今後はアメリカをマーケティング拠点としてグローバルにやっていくつもりです。今、ロサンゼルスでマーケッターの募集をかけていて、100 名以上の応募が来ました。そこから書類審査と面接を Zoomで行って、最後残った2人と現地に行って最終面談をして、正式にジョインして頂きました。

海外の YouTuber とも連携しますか?

楠:それは間違いなくやっていきます。広告運用とインフルエンサーマーケティングですね。海外の影響力の強いインフルエンサーを巻き込んでいくのは必須だなと思ってます。あとは現地のコミュニティですね。動画クリエイターやクリエイターコミュニティをどんどん作っり、SOUNDRAW に熱狂してもらう人、火種を作っていくことを現地でやっていく予定です。

SOUNDRAW の楽曲のバリエーションやパターンを増やしていく上で、課題やそれをどう克服しようとしているかを教えてください。

楠:楽曲のバリエーションを量産する体制は構築できてきておりまして、社内のシステムとか AI のエンジンも含めてですが、かなり整ってきてます。まだまだ効率できる領地はたくさんあるので日々改善しています。

あとは AI 使ってるので、学習データをどんどん増やしていくのが結構肝になるので、これは優先的に予算も使いながらやっていこうと考えてます。

現在の SOUNDRAW のサービスはインフルエンサー向けのサービスなのかなと思っています。法人の方への需要だったりもあるのでしょうか?

楠:そうですね。デモクラフィック的にはこんな感じ(上図)で分かれています。制作会社の規模別ですね。あとフリーランスで副業層がいて、最後 YouTuber とか趣味層の動画作るのでという感じです。一番下の趣味層は無料素材で良い人も多いのでここは入らないで、逆にかなりトップ層は映画とかドラマとか作っているのは作曲家に依頼しますのでここも入らない。この間の部分が我々のターゲットになります。趣味層から会社まで結構幅広いターゲットです。実際に今は我々のユーザーはこれを全部含んでいます。あとはテレビ局、ゲーム会社からも問い合わせ来てるので法人プランを今後用意してやっていこうかなと検討中です。

また、すでに共同開発は 2 社やってまして、発表前なので詳細は言えませんが、共同開発のプロジェクトを2 社進めています。あとは API 連携ですね。API 連携は今後どんどんやっていきたいなと思ってます。海外も含めた動画制作のプラットフォーマーなどですね。。ゲームやポッドキャストなど、著作権フリーな音楽が必要なサービスと連携していくのは十分あり得ると思ってるので、今、そうした検討を進めているところです。

ありがとうございました。

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