ビル・ゲイツ氏がChatGPTで期待する「3つの領域」ーー1980年GUI発明以来の衝撃

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ChatGPTのAPI公開でパンドラの箱を開けてしまったように、ここ1カ月目まぐるしく動いているテックシーンですが、ようやく気になっていた記事を読むことができました。ビル・ゲイツ氏の記述です。

ビックテックの中で圧倒的な存在でありながら、Microsoftはモバイルインターネットの分野においてここ10年、Google(検索)、Apple(iPhone)、Facebook(Meta、ソーシャル)、Amazon(EC・クラウド)各社にスマホ・シフト時代のお株を奪われ続けた印象がありました。

それが、です。

まるで新しい時代に入った瞬間、実はオセロの四隅を全て押さえていたかの如く、局面を一気にひっくり返してきたのです。OpenAIの誕生とその支援の経緯についてはドラマがあったようですが、端的にイーロン・マスク氏が約束していた10億ドル寄付をそのままMicrosoftが支援したことで、今回のゲームチェンジが起こったことは間違いありません。傘下にあるGithubとの連携はすでに神がかり的便利さと言われているだけに、自社の365シリーズやグループのLInkedInなどへのテスト段階にある実装が本格的に公開されれば、その影響範囲は果てしなく広く、かつ(良いか悪いかは一旦置いといて)反響は大きなものになると思います。

そして一気にビックテックの震源となったMicrosoftの共同創業者といえばビル・ゲイツ氏です。書き出しの冒頭、2022年の半ばにOpenAIのチームに対して課題を与えたエピソードを披露しています。

「私は彼らの仕事にとても興奮し、彼らにAPバイオの試験に挑戦するという課題を与えました。これは特別な訓練をしていない問題にも答えられるかどうか確かめたかったからです。(APバイオの試験は、単に科学的事実を繰り返すだけでなく、生物学について批判的に考えることが求められます)。もし、それができれば、真のブレークスルーになると考えていました。私は2年、3年はこの課題で忙しくなると思っていました。しかし、彼らはわずか数カ月でそれを完成させたのです」。

この手記にはOpenAIのGPTモデルが世界にどのような影響を与えるかについて記述してあるのですが、ゲイツ氏曰く、OpenAIによるGPTモデル(と、チャットに最適化したChatGPT)は、1980年、Microsoft Windowsによって幕開けしたGUI以来のインパクトだと最大級の賛辞を送っています。

文中で特にゲイツ氏がAIに期待しているのが不公平の解消です。例えば数学は不公平を解消するための最大のチャンスであるものの、教育の格差によってこれまで不公平が生まれていました。AIやGPTの登場はここを是正するというのです。気候変動も同様です。彼の著書『How to avoid a climate disaster(邦題:地球の未来のため僕が決断したこと)』にもある通り、最も苦しんでいる人たち(世界の最貧困層)が、この問題の影響を最も受ける(先進国のツケを払う)からです。

その上で、彼が「多くの可能性を秘めている」と考える三つの領域を挙げていたので紹介します。

生産性向上:言わずもがなですが、彼はもうひとつ踏み込んでパーソナルエージェントの存在を示していました。すでにMicrosoft製品にはGPTをベースにした「Copilot(副操縦士)」のコンセプトが示されています。Bing-GPTでは既に稼働に入っていますが、こういったAIが個人のアシスタントとしてメールの返信や予定の調整などをサポートする考えを記しています。彼曰く、営業(メールや電話)文書処理(経理、保険金請求の争奪戦など)などで人が行う仕事の多くは「意思決定は必要だが、継続的に学習する能力は必要ではない」ものであり、「コンピューティングパワーが安価になればなるほど、GPTのアイデアや表現力は、様々な仕事を手伝ってくれるホワイトカラーのような存在になっていく」としていました。

ヘルスケア:国内でもよく言われていることですが、医療の現場で例えば、保険請求や書類作成、診察時のメモ書きなど、医療従事者が行う特定の作業を代行することで、時間を有効に使うことができるようになる、というのです。また彼は「AIによる改善は、5歳未満児の死亡の大半が起こる貧困国にとって、特に重要なものとなる」としていました。自然言語による人間のような対話が近くまできているので、例えば人間的な医療の届きにくい遠隔地、地域医療については近い将来革新が起こりそうです。

教育:国内ではatama plusが既にAI先生による効果を証明しているので、とても理解しやすいイノベーション領域になると思います。ゲイツ氏もひとつのアイデアとして「AIが教師や管理者を支援する方法は、生徒の理解度を評価したり、キャリアプランのアドバイスをしたりと、多岐にわたる」としている通り、基礎学力のティーチングですね、ここをまず、AIの力で学習効率を上げることが可能になるのだと思います。ちなみにatama plusも既に動き出しています。

ゲイツ氏の文章もDeepLを使えばかなり精度の高い日本語訳として読めます。この流れを理解する上でも、基本的な考え方のひとつとして読んでおいて損がない文章だと思います。

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