AIドクターは世界医療をどう変える?ーー医療制度「お金の流れ」からみるグローバル戦略【前半】

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ピックアップ:Babylon Health confirms $550M raise at $2B+ valuation to expand its AI-based health services

ニュースサマリー:人工知能を利用したAIドクターを提供する「Babylon Health」がシリーズCで5億5000万ドルの資金調達を完了した。このラウンドはPIF(サウジアラビア公共投資基金)やドイツの再保険など保険企業も参加している。

今回の調達はアメリカ・アジアへの事業拡大および研究開発を行うためのものだ。同社は手頃な価格の医療をアクセス容易にし、地球上のすべての人々に届けることを目指している。これを実現するため世界中どこにいても、携帯電話の利便性と人工知能の組み合わせによって医療を受け、必要なときには医師とも話すことができる一連のテクノロジーを開発している。

同社は「GP at hand」というAIドクターを提供している。医療診断チャットボットアプリでの診察、テレビ電話で在宅の専属医師の面談が可能で、リアル受診が必要かどうかを判断してくれる。

医療診断チャットボットアプリは症状を入力すると、AIが提示する項目から当てはまるものを選択する形式で「問診」が行われる。英国国営の国民保険サービスのNHS(National Health Service)と協業しており、「初期診断」としての信頼を築きつつあり、医師の負担を軽減し、混雑の緩和を実現している。

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話題のポイント:日本では馴染みがないBabylon Health。同社がシリーズCにして、世界を見据えた勝負に出てきました。本稿では、なぜヘルスケアは地域特性が強いにも関わらず、アジア・米国の市場に参入することが世界を見据えることに繋がるのか、そして世界を勝ち取るための2つの戦略を「お金の流れ」の視点から考察していきます。

ヘルスケア領域は世界各国の医療制度に大きく影響されるため地域特性が強いと言われます。財源とサービスの提供という観点から「国営システム」「社会保険システム」「民間保険システム」の3つのタイプに大別できます。

「国営システム」の代表国はイギリスです。税を財源としてほぼ無料で医療サービスを提供します。

イギリスでは緊急時を除いて、各個人が指定したGP(General Practitioner)と呼ばれるかかりつけ医に診察してもらう必要があります。GPが専門医の診察が必要だと判断した場合のみ専門性のある大きな病院に紹介してもらうことができるのです。

GPはNHSから登録人数に応じて1人あたり平均80ドルを受け取ります(高齢者と慢性疾患を持つ患者は200〜300ドル、若者や健康的な患者は30ドル)。

同社が運営する「GP at Hand」はGPの代替となります。「GP at Hand」を選ぶと初期診察、処方箋の発行、医師への受診の必要性を判断してくれます。そのため、GPと同様にNHSから登録者に応じた金額が支払われます。

NHSから見ると患者一人あたりのコストはGPもBabylonも変わりません。GPが抱える患者数が多く、予約が数週間後になることを防ぐ手段として両者の併用をしているのでしょう。

初期診察の実現を目指したAIドクターを提供する会社が少なくない中、同社はこのお金の流れにうまく入り込むことで成長しました。

「社会保険システム」の代表国は中国、韓国、台湾、日本、ドイツ、フランスです。国民の多くが医療保険に加入して、保険料を財源としています。診察内容によって医療費の10 〜30%程度の自己負担額で医療を受けることができます。

医師は診察行為に対して報酬を受けるので、やればやるほど収入が増える「出来高払い」です。そのため国が如何に医療費削減を医療現場に求めても医療サービス業者が前のめりには動かない環境と言えるでしょう。

「民間保険システム」の代表国はアメリカです。アメリカでは公的医療制度は高齢者および障害者を対象としたものしか用意されていません。ほとんどの人が企業が保険料を負担して従業員に提供する民間保険に加入するのが一般的です。

今回調達した資金の使い道と明言したアジア・アメリカへの事業拡大は、イギリスで成功しているビジネスモデルの拡張ではなく、世界の保険システム3タイプ全てに適応するビジネスモデルを新たに構築すると宣言したと捉えることができるでしょう。後半はAIドクターが強みとする初期診療モデルでどのような拡大戦略を描くのか考察してみたいと思います(執筆:佐々木峻。後半へ続く)。

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