ハードウェア製作の現場を進化させるプラットフォーム「HWTrek」のCEO Lucas Wangにインタビュー

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画像提供:グローバル・ブレイン

Dragon Innovation、Highway 1、Lemnos Labs などに始まり、アメリカのハードウェア・インキュベータ/アクセラレータの数は180を超えるのだそうだ。イノベーションの王国とも言えるアメリカのハードウェア・スタートアップ・コミュニティは、世界の生産工場である中国・深圳とつながり、そうして生まれた数々の先進的なプロダクトは、Kickstarter や Indiegogo などで日の目を見ることになる。

THE BRIDGE でも、週末などに集中して取り上げているクラウドファンディング・プロジェクトを見ていると、ガジェットや IoT の分野では、このところ、中国・韓国・台湾のスタートアップが頭角を表しつつある。モノづくりは日本のお家芸と言われて久しいが、世界的に見て、日本のハードウェアや IoT の存在が必ずしも目立っているわけではない。

その背景にはいくつかの理由が考えられるが、さまざまな専門技術(例えば、無線、バッテリ、小型化、防水、メカ)やプロジェクト・マネジメント、量産化の知見を持ったエキスパートが一堂に会するハブの存在は大きいだろう。日本では、秋葉原の DMM.Make AKIBA や慶応大学日吉キャンパスにオープンした EDGE が、そのようなハブの代表格に相当するが、他方、台湾の HWTrek は、ハードウェア製作に必要なプロセスと人のマッチングをオンラインで実現することで、アジアのスケーラブルなプラットフォームになろうとしている。

HWTrek は先月、日本のグローバル・ブレインを含む複数の投資家から400万ドルを調達したと発表した。この投資に中心的な役割を果たしたグローバル・ブレインでベンチャーパートナーを務める深山和彦(みやま・かずひこ)氏は、グローバル・ブレインの投資先であるウエアラブルデバイスの 16 Labs(日本)や スマートロックの August(アメリカ)などのスタートアップ、日本の部品メーカーなどを HWTrek 上で引き合わせることで、ハードウェア・スタートアップのコミュニティを醸成していきたいと語る。

ソフトウェアに強いアメリカ、設計・部品調達・プロジェクトマネージメントに強い台湾、そして、生産拠点としての中国。そこに多くの部品メーカーや、高い技術力を持つ日本が絡むことで、ハードウェア・スタートアップ・コミュニティの成長は加速度的に進むと思うのです。

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画像提供:グローバル・ブレイン

HWTrek の最も面白いところは、その自己増殖可能なスケーラビリティではないだろうか。通常、ハードウェア・アクセラレータにおいては、自分が必要とする技術や人は、自分で見つけるか誰かに紹介してもらうものであり、ハンズオンという文字どおり、アクセラレータが提供するオペレーションも、基本的には人に依存したアナログなものである。しかし、その原点をクラウドファンディング・サイトに発する HWTrek は、ハードウェア・スタートアップを支援するためのプラットフォームを、うまいやり方でオンライン上に実現している。

ハードウェア・スタートアップと、技術エキスパートをつなぐマッチング・プラットフォーム

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アイデアを抱えるプロジェクト・オーナーと、それを資金的に支援するバッカーをつなぐのがクラウドファンディング・サイトだが、HWTrek はハードウェアに特化して、プロジェクト・オーナーとハードウェア製作に必要なノウハウを持ったエキスパートをつなぐマッチング・プラットフォームだ。

本稿を執筆した7月21日段階の登録クリエイターは3,083名(上図)。1,000件を超えるプロジェクトが登録されており、うち200件近いプロジェクトが HWTrek 上でエキスパートとのマッチングを実行している。登録されているプロジェクトすべてがマッチング対象となっていないのは、HWTrek にはマッチング・プラットフォームとしての機能に加え、一般的なシステム開発のプロジェクト管理に用いられるガントチャートのような機能が備わっており、エキスパートに依存せず、プロジェクト・オーナーが自己完結でハードウェア製作する場合にも重宝するからだ。

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画像提供:グローバル・ブレイン

HWTrek の共同創業者で CEO の Lucas Wang(王仁中)氏は、次のように説明してくれた。

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Lucas Wang(王仁中)氏

ハードウェアの製作を支援してくれるエキスパートをみつけるための情報なので、プロジェクトオーナーは、クラウドファンディングのプロジェクトなどよりも、詳細な技術情報を開示しています。

一方で、エキスパートがそれらの情報をもとにアイデアをコピーしたり、盗んだりしたりしないように、エキスパートが HWTrek に参加するには、一定の基準に基づいた審査を通過する必要があります。デューデリジェンスして適切なバックグラウンドの有無を見極め、エキスパートには知的所有権の尊重を遵守する旨に同意してもらっています。

プロジェクトオーナーは、誰が自分のプロジェクト・ページを訪問したか履歴を追えるようになっているので、不正は未然に防がれます。プロジェクトオーナーが招待したエキスパートにしか閲覧できないプロジェクト・ページを作成する機能もあります。

エキスパートの顔ぶれを見てみると(下図)、ハードウェアに造詣の深い世界各国の投資家をはじめ、ハードウェア・スタートアップとのオープン・イノベーション的連携を模索する大手メーカーの技術者、深圳の EMS(Electronics Manufacturing Service、電子機器受託生産会社)の代表者などが並んでいる。

例えば、エキスパートの立場からプロジェクトの成功を手伝うことで、EMS 事業者が OEM(Original Equipment Manufacturing)や ODM(Original Design Manufacturing)で製造を受託できれば、売上につながります。投資家は、ハードウェア・スタートアップへの投資機会を探すこともできます。自身のレピュテーションのため、という人もいますね。(Lucas Wang 氏)

先に紹介したガントチャートの機能を使って、プロジェクトオーナーも、エキスパートも、どのタイミングでどの特定分野の技術やエキスパートが必要になるかを先読みできるので、ジャスト・イン・タイムで、EMS 事業者は生産受託の営業活動を、投資家は投資のオファーを提案できることになる。

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プロトタイピングから大量販売まで

プロトタイピング、量産体制の確立を経て、うまくプロダクトができあがったとしても、ハードウェア・スタートアップの仕事はそれで終わりではない。マーケティングをして、最終的にプロダクトを商品にして、消費者やユーザにまで届けなければならない。クラウドファンディング・サイトにも商品を販売する機能が備わっているのは確かだが、バッカーはアーリーアダプターであることが多く、一般消費者に商品を届けるという観点では課題も多い。

先月の HWTrek の資金調達先には、中国のEコマース最大手 JD.com(京東商城)が含まれていたのを忘れてはならないだろう。HWTrek で生まれたアイデアはエキスパートの力を借りて形を成し、最終的には JD.com を通じて一般消費者の手に届くしくみだ。もっとも、HWTrek が商品の販売チャネルを確立したいのは中国だけではないはずで、世界各国のEコマース企業やオフラインの小売チェーンなどにアプローチを始めているようだ。

JD.com で販売される IoT プロダクト(HWTrek で開発されたものではありません)。
JD.com で販売される IoT プロダクト(HWTrek で開発されたものではありません)。

北京と台北でハードウェア製作の現場をめぐるツアーを開催

ハードウェア製作の現場の様子を自分の目で確かめてもらおうと、HWTrek では8月17日〜21日にかけて、台北と北京で EMS 事業者やパートナー企業を巡るアジアツアーを開催する。ツアーの訪問先には、普段は非公開の EMS も含まれるそうだ。申込の締切は7月31日で、参加にあたっては、HWTrek 上でプロジェクトを立ち上げていることが前提と条件となる。選ばれたプロジェクト15件のオーナーに対しては、HWTrek から1,000ドルまでの旅費支援金が支給される。(JD.com とのイベントも、北京のスタートアップ・ハブの一つ中関村で開催されるようだ。)

昨年の4月に実施されたツアーの模様がダイジェストとして公開されているので、以下を参考に興味のある人は申し込んでみるとよいだろう。

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