スタートアップのCFO的役割を果たすーー大企業の窓口/大和企業投資のスタートアップファンド

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大和企業投資取締役の平野清久氏

本稿はスタートアップに門戸を開く大企業側の窓口とその実情を探るシリーズ。三回目は2016年1月1日付で新たに「大和スタートアップファンド」を立ち上げた大和企業投資を取り上げる。

その名の通り大和証券グループ傘下のファンドで規模は10億円。投資対象は設立(主要事業開始)から2年以内の企業。投資金は1000万円ほどを想定しており、100社ほどの支援を予定している。

同ファンドを牽引する大和企業投資取締役の平野清久氏の話では、単体でスタートアップに投資するというよりも、シード期に強いアクセラレーターやファンドなどと協働して投資するスタイルをイメージしているようだった。

特徴としてはやはり証券会社グループに所属しているだけあって、出口戦略を見据えた資本政策、財務面等のサポートが強い印象だ。平野氏曰く「スタートアップのCFO的役割を果たす」というように、ややもすれば脇が甘くなりがちなスタートアップの資本政策助言を実施してくれるという。

「グループとしてスタートアップ特化の投資ファンド設立は初の試み。昨今、早いタイミングから上場を見据えて大型調達する場合も増えてきた。創業期の方には堅苦しいと思われるかもしれないが、上場審査に入る際に出てくる『ちょっとそれは気をつけた方がいいのでは』という部分をアドバイスできるのでは」(平野氏)。

創業を目指す起業家であれば資本政策というものが「不可逆」であると聞いたことがあるだろう。種類株や個人投資家、株式比率など、株式による資金調達が初めての場合はそのあまりの複雑さに辟易としてしまうかもしれない。微妙に知識のいる場面に証券会社ならではの判断を委ねられる伴走者がいるのは確かに心強い。IPO(株式公開)を目指すのであれば尚更だ。

新興市場を見つめて30年、繰り返すビジネスシーン

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画像:日本取引所グループ/株価指数ヒストリカルグラフより

インタビューに先立って平野氏に、1999年発足時からの東証マザーズ株価指数チャートを手渡すと目を細めてこう返してくれた。

「ジャスダックのそれのもっと長いやつ、私持ってますよ(笑」。

今回話を聞いた平野氏はこの道30年のベテラン。1986年に大和証券に入社し、調査担当として、黎明期のジャスダックやお馴染み東証マザーズといった新興企業向け市場の紆余曲折を眺めてきた人物。

2004年からは大和証券の投資銀行部門にてベンチャー企業のIPOや上場企業のM&A活動を支援した。ちょうどウェブ2.0ブームが巻き起こる時期だ。その後、大和クオンタム・キャピタル社長を経て、2013年からグループ内にてベンチャー投資に復帰。

かつて日本で「ベンチャー」と言われた新興企業投資は米国・シリコンバレーの風を受け、2010年頃から「スタートアップ支援」にラベルを変えた。

30年の時を経て平野氏に、今とかつての新興企業ビジネスに違いがあるのかと尋ねてみた。

「インターネットがダイヤルアップから始まり、常時接続になって携帯電話が出てくる。iモードが始まり、3G、4Gと進化する。でもいつの時代も最初の頃のビジネスはそれを普及させる販売だったり、ハードの部品だったりする訳です。そして普及がピークアウトを迎えると、今度はそれをインフラとして普及するものが出てくる。今だったらFacebookがそうですよね。みんなが持ってるという前提でのビジネスです。またそれが終わると統合するようなサービスが生まれたりするんです」(平野氏)。

平野氏との話で感じるのは「スパイラル」だ。光通信にソフトバンク、グリーにディー・エヌ・エー。インターネット普及期に起こった出来事はモバイルの時代でもやはり起こる。改めて経験則や「カン」がなぜ働くのかを考えさせられた。

こんな会社が大きくなる、それが新興企業市場

平野氏は上場するのであれば経常利益で100億円は目指すべしと語る。

「時価総額で1000億円。小型株の卒業っていうのがあるのですが、やはり上場するのであればそこを目指しましょうよと。経済基盤が大きい日本では、どのような業種でも経常100億円というのは狙えるんです。レジャー、中古車販売、カラオケにキノコも。だから5億円、10億円(の経常利益)で満足はしないように」(平野氏)。

デカいマーケットを取るべきだ、というのはスタートアップ界隈であれば当たり前の話に聞こえる。一方で、平野氏が生きてきたネット創世記というはまだ、ECも広告もモバイルも何もない時代だ。スマホひとつで何でもかんでもできてしまう「今」とは訳が違う。

しかし、私の「何もない時代にECを始めればデカい市場は取れて当然じゃないか」という質問は一蹴されることになる。

「それは結果論ですよ。大きくならなかった会社は当時も一杯ありました。サイバーエージェントだって最初に販売しているものはバナーだったし、GMOインターネットだって当時はインターキューというダイヤルQ2のプロバイダだったんです。ディー・エヌ・エーは上場時にモバゲーの事業計画すらなかった。『こんな会社が』大きくなる。それがこの世界なのです」(平野氏)。

ネットサービスが溢れる現在、サービスはニッチを極めてどんどん小粒になってくる印象がある。大きな市場はネット大手が取ってしまい、もうそこには攻められないような気がしている。

でも、その大手と言われるようになった彼らも「当時としては」ありとあらゆるサービスが既にあり、そこにニッチな可能性を見つけて攻めていっただけなのだ。可能性はいつでも平等にある。そう感じる言葉だった。

「成功した人は誰よりも自分の事業の成功を信じている人」。

最後に起業家の本質をそう語る平野氏。30年来のベテランが、これから起業を志すルーキーにどういうアドバイスを送るのか楽しみでもある。

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