井口尊仁氏率いるDoki Doki、米国で先行リリースした〝出会わない系〟ソーシャルアプリ「baby(ベイビー)」を京都でお披露目

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(本稿における写真は、一部を除き Doki Doki の提供)

<11月14日23時更新>

  • 2016年年初のラウンドの調達先に、サイバーエージェント・ベンチャーズと梅田スタートアップファンドを追加

セカイカメラtabTelepathy——この男が手がけてきたアプリやデバイスは、毎度のように話題に事欠かない。昨年には新たなスタートアップ Doki Doki を設立、今年初めに Skyland Venturesサイバーエージェント・ベンチャーズ梅田スタートアップファンドから資金調達していたので、そろそろ何か事を起こすのではないかと思っていた。くだんの井口尊仁氏は、6月に開催された Samurai Island Expo ’16 (SIE ’16) で、何かしら音声で情報を共有するアプリの開発に着手していることを示唆していたが、その詳細については明らかになっていなかった。

Doki Doki は10月に声で繋がるソーシャルアプリ「baby(ベイビー)」をアメリカで先行リリース、昨日、京都の MTRL 京都(マテリアルきょうと)で日本初となるアプリの披露イベントを開催した。「baby」は iOS 9 以上で動作し、今のところ対応言語は英語のみ(ただし、入力音声は言語を問わない)。また、アメリカの iTunes AppStore でのみ公開されており、日本の iTunes AppStore からはダウンロードできない(アメリカの iTunes AppStore 用のアカウントがあればダウンロード可能)。

〝出会わない系ソーシャルアプリ〟の誕生

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baby は5秒間の声をシェアし、新しい友達とつながることができるソーシャルアプリ。ユーザには位置的に自分に近いところにいる他ユーザの声(「voice」と呼ぶ)がタイムラインとして流れてくるので(このタイムラインを「parade」と呼ぶ)、Tinder ライクに気に入ったときには右へフリック(この動作を「ping」と呼ぶ)、気に入らなかったときには左へフリック(この動作を「ban」と呼ぶ)。ユーザ双方が互いを ping すると友達となり、parade を介さないプライベートなボイスチャットが楽しめるようになる。parade では1回のロードで、自分に近い人から順に10件の voice が流れてくる仕様となっている。

近場にいるということで、いくつかの問題が解決できると考えました。まず、言葉の問題。ワールドワイドなサービスであっても、近くにいる人となら、共通の言語を話している可能性が高い。それに、行っている場所、参加しているイベントなどを考えると、共通の話題がある可能性も高い。(井口氏)

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世の中にありがちなソーシャルアプリは、すでにオフラインで出会っている人がオンラインでも出会えるようにするサービス(Facebook や LINE はこれに相当するだろう)か、会ったことのない人にオンラインでつながり、さらにオフラインでもつながろうとするサービス(いわゆる、出会い系全般)に大別されるだろう。しかし、baby はオンラインで新しい友人を作って価値観や話題を共有するものの、実際にオフラインで会うことを前提としない、いわば〝出会わない系〟のソーシャルアプリだ。baby 開発の背景には、何より井口氏自身の経験が大きく影響している。

サンフランシスコにいることが多かったけれど、とにかく孤独だった。誰かと喋れれば幸せ、という感じ。だからと言って、Facebook のフレンドとは、そう気軽に話せる間柄の人たちばかりではない。ニューフレンドを見つけるのって大変だし、できたらできたで、何かとコストがかかるし「Tinder」とか「happn」とかも、いかにもダイレクトなデイティングばかりが多くて…。

もう一つ問題があって、例えば、HangOut とか Whatsapp とか。リアルタイムの通話って、相手と時間を調整するのが大変。であれば、5秒間という時間を区切って、そのボイスを共有できればいいのではないかと考えた。

baby の位置付けは、テキストチャットと電話の中間みたいなもの。テキストって、エモーションは伝えられないでしょ? 喋ったときの満足感とか、そういうものが無い。だから、寂しさや辛さは解決できない。でも、声の通話は面倒なので、それを解決できないかなと。公開(parade 機能のこと)も、プライベート(プライベートのボイスチャット)もできるものを作ってみた。これで、タイミングは非同期ながら、感情を共有できるようになる。(井口氏)

「baby」のルーツは、サンフランシスコと京都から

baby に声を吹き込む小野紗和子氏

今春からは小野紗和子氏がマーケッターとして Doki Doki に参画。彼女が中心となって、U.C. Berkeley の学生らに baby を使ってもらってユーザヒアリングを繰り返し、それを baby の機能に反映させることで、ユーザからは高い満足度が得られるようになったと言う。

学生達は皆忙しい。でも忙しい中でも、コミュニティとか、パーティーとか、周りとコミュニケーションをとりたいと考えている。彼らの用途に、baby がピッタリハマった感じ。WeChat(微信)の Nearby 機能を使っている人たちもいたけど、そちらだとデイティング目的の人しか集まらないんだそう。(小野氏)

ところで、今回の baby のお披露目は、一般的なアプリやサービスのローンチイベントと違って、東京では開催されていない。さらに、日本人ユーザに向けた披露の機会ながら、日本の AppStore からはダウンロードできないという、メディアにもユーザにも優しくない姿勢。これは、いわゆる逆輸入型のような、井口氏の編み出した新種のマーケティング戦略なのかと思いきや、どうやらそういう意図ではなさそうだ。

(baby の)プロトタイピングを始めたのが昨年12月。そして、今年5月くらいから、そのプロトタイプをサンフランシスコに持って行ったら、とってもウケた。ウケたというか、自分も楽しかった。男性には、特に反応がよかった。これまでのアプリになくて baby にあるもの、それは心の友を見つけられる「新しい出会い」ですね。

日本でも使えるようになるのかって? もちろん、アメリカの AppStore からダウンロードしてもらえば、日本でも使える。ただ、日本だと、まだ周りにユーザが居ないので、parade に voice は多くは流れてこないだろう。まず、アメリカでユースケースを確立してきたいと思っている。そして、あちらで完成されたものを日本に持ってきたい。(井口氏)

baby のキャラクタ。アプリ上では、声のピッチやトーンにあわせて表情が変化する。

baby の開発を通じて、井口氏は、京都とサンフランシスコの間にスタートアップ・コミュニティの架け橋を築く思いもあるようだ。学生時代を京都で過ごしたというバックグラウンドもさることながら(井口氏は立命館大学の哲学科を卒業)、彼の好きなサンフランシスコと似た雰囲気がこの街にはあるのだという。

京都に本社を置くベンチャーキャピタルが、いくつか営業を開始している。それに、海外の人が日本に来る理由のカルチャーは、その多くが京都に集約されているように思う。アカデミアも集中している。キャピタル・カルチャー・アカデミア、これらが潤沢な場所で、何かできるような気がしている。

サンフランシスコの人が、京都で働きたい人も多く出て来るだろう。京都のスタートアップがサンフランシスコへ出て行くケースもあるだろう。京都はアートスクールが日本で一番多く、研究開発に適している大学も多い。そして、(私のような)変態が多い。(井口氏)

「スタートアップたるもの、自らプラットフォームになろう」

baby が面白いのは、コミュニケーション・アプリにありがちな、Facebook 連携や Twitter 連携を行わず、完全にユーザ同士のネットワーク効果にユーザ流入を頼っている点だ。この仕様についても単なる偶然ではなく、井口イズムが大きく関係していた。

コミュニケーションのプラットフォームを、日本人が自ら確立する必要があるんじゃないか、と思ったんです。日本のスタートアップって世界で何かをしようというのに、結局、シリコンバレーの大手サービスが作った API を叩くようなのが多いでしょう? Facebook とか、LINE とか、誰かのサービスに乗っかっていくことに極めて無防備。

シリコンバレーの API を叩くだけでなく、自分たちがプラットフォームになれるんじゃないかって。それは極めて大事なこと。(井口氏)

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かつては、iTunes AppStore の締め出しにあい、iOS 向けのネイティブアプリ事業からの撤退を余儀なくされたスタートアップもあった。このときのニュースは、アプリストアというサードパーティのプラットフォームに依存している以上、自らの意思に反して事業断念を余儀なくされるリスクが少なからず存在することを教えてくれた。

立ち返って考えてみると、便利になった時代であるからこそ、API を叩いているばかりではなく、自らプラットフォーマーになるのはスタートアップ、特に、世界へ打って出たいスタートアップにとっては重要なことかもしれない。

オンラインでの出会いを前提としない、究極のコンテキストである声というメディアを通じて、世界を馳せるコミュニケーション・プラットフォームに成長できるかどうか。日本でも baby が利用できるようになる日が、今から楽しみである。

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