クラウドソーシングのオープン化はビジネス躍進の起爆剤になるかーーランサーズ秋好氏に聞く

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ランサーズ代表取締役の秋好陽介氏

クラウドソーシングは新しい働き方となり、そのプラットフォームは堅牢なビジネスとなりうるのかーー前回前々回と3回に分けて書いてきた考察も本稿が最後となる。取材してきたのはもうひとつの国内プラットフォーム「ランサーズ」だ。代表取締役の秋好陽介氏にインタビューした内容を元に、改めてクラウドソーシングの課題、ランサーズの攻め方を整理してみる。

クラウドワークス社同様、秋好氏にもこれまで何度か取材で話を聞いており、基本的な課題は前回挙げたものとそう変わりはない。下記に再掲するとこのようなものになる。

  • 課題1:発注者側の理解ーー個人発注時の法務、業務、支払などのルール、認識の擦り合わせ
  • 課題2:受注者側の理解ーーお小遣い稼ぎではないプロの自覚、事業運営能力のばらつき
  • 課題3:事業体の成長ーー発注者、受注者と共に成長するため、事業体としては時間がかかる可能性が高い

また、これも同様だが課題の1と2については早晩解決できる問題でないことはやはりランサーズも一緒だ。ただ、ランサーズはクラウドワークスと違い、プラットフォームとして積極的に受発注の「間」に関与する動きをみせていた。つまり、工程管理、ディレクションだ。

そしてこのディレクション部分こそ、ランサーズとクラウドワークスを大きく分けることになる要素のひとつでもある。

前回記事でクラウドワークス代表取締役の吉田浩一郎氏にも聞いた通り、課題3については圧倒的な受注案件数をいかに伸ばすか、という論点があるのだが、その際にこのディレクションが課題に上がることが多い。この点は両社のビジネスの違いにも影響があるので少し遡って説明したい。

通常、クラウドソーシングで難しいとされるのは企画や工程管理、その分野に精通した「仕切り」であり、ここが未熟な場合に受発注でトラブルに発展するケースを散見した。(つい最近も発注側がディレクションしきれず、最終的に採用していないサイトデザインを勝手に流用するというお粗末な事件があったばかりだ)

2013年12月のインタビュー時、秋好氏はこの課題に対して「工程管理ができるプロジェクトマネージャー(の育成)」について言及しており、この件はその後、同月に公開された「ランサーズマイチーム」という機能に集約されることになる。

<参考記事> クラウドソーシング初の仕組み、ランサーズがチームで仕事を受けられる新機能 「ランサーズマイチーム」をリリース

さらに年明けの1月には法人向けクラウドソーシング「Lancers for business」を開始、ディレクションできる人材をランサー(受注側の人材)ではなく、ランサーズとして受託、よりその関与の度合いを強めた。ここまでは理にかなった動きといえよう。

しかし、この方式にはひとつ課題がある。スケールの問題だ。完全な垂直統合型のクラウドソーシングとして成功している事例にMUGENUPがあるが、やはりこの方法は「キャラクター制作」というカテゴリ特化をしたことで得られた成果であり、ロゴ製作から原稿作成まで「なんでもあり」のプラットフォーマーには、定義すべきワークフローが多すぎて成熟させることが難しい。

そこでランサーズが取った戦略が「ディレクションを他社に任せる」というものだった。つまり、システムの他社への解放だ。

openplatform

<参考記事> ランサーズ、会員データベースを他社に開放–成約金額も初公開(CNET Japan/8月12日記事)

約36万人という豊富なリソースに対して十分な案件を流し込むディレクション箇所を人ではなく企業単位にした、と考えればいいだろう。ここまでの経緯からしても、ランサーズはディレクションというボトルネックを他社に委ねることで解決し、この横展開で案件のボリュームを増やそうと考えているのがよくわかる。秋好氏はこれによって2014年内に月間1億円ほどの受注を目指すとしている。

少し前置きが長くなったが、こういう考えで動いていると思われる秋好氏を前提に、吉田氏同様、今後の事業体の成長戦略についていくつかの質問を投げかけてみた。(太字の質問は全て筆者、回答は全て秋好氏)

ーー今日はこれまでの取材と違って、事業体としての成長を焦点にいろいろお聞きしたいと思っています。まず、クラウドワークス社、吉田さんにもお聞きしましたが、やはりこのざっくりとした表を眺めてみるとElance-oDeskの数字が突出してます。これから先数字は伸びるだろうけどこの事業は倍々ゲームにはならない、この差をどうみますか?

グローバルの市場で真っ正面から戦うのは正直しんどいと思っています。同じモデルでやるのは不利な条件しかないですから。ただ彼らとの勝負を諦めているというのではなく、まずは二番手戦略としてついていき、対峙の仕方についてはいろいろ考えてますよ。それに彼らもまだまだ伸びているし、正社員や派遣の労働プラットフォームを目指してるんだろうなと思ってます。

ーー巨大連合を抜く勝算はある?

規模にいかないとマズいのは理解しています。というより、余裕であれぐらいにはならないといけません。それよりも時間軸の問題で、5年で達成できるのか、派遣業界のように数十年かかるのか、それは頑張りますとしか言えないですね。

ーー今回、成長率まではデータを揃えることができませんでしたが、明らかにゆるやかなカーブになっていることは間違いありません。ランサーズとの違いは。

例えばeBayは日本ではあまりうまくいきませんでしたよね。それ以上に仕事ってローカライゼーションの重要性は高いのです。英語でワンプラットフォームです、というわけにいかないのが働き方。二番手戦略でいうと、いわゆるローカライズではなく、カルチャライズ(文化適合)がポイントだと考えてます。まだまだ効率性は上げられると考えてますよ。

ーー確かランサーズは数字を発表してましたね。

数字を公開したのはプラットフォームのみで今月(※取材時は8月)で2億円ぐらい。今期で30億円ぐらいですか。受託(※注:Lancers for businessのこと)の方は順調に成長していて500%ぐらいで伸びてますよ。

ーー質問を変えます。現在36万人以上が働くプラットフォームになってますが、今後より一層の安定感が求められることになります。例えば手数料。ある日突然上がったり下がったりしたのでは、会社員でいうところの所得税が急に変動するのと同じような状況になってしまいます。「新しい働き方」の基盤としてどのように安定という課題に取り組むのでしょうか。

まず(案件量を押さえるという点では)外注マーケットに流れてる顕在化されたアウトソーシングニーズをちゃんとスイッチすることが重要ですね。規模については1兆円とか2兆円とかいろんな定義があるのですが、クラウドソーシングに向かってる量はほんの僅かなんですよね。つまり市場の可能性はまだまだありますから、そこをちゃんとやることですね。

次に世の中の働き方を変えていくという視点では、例えばランサーズと雇用契約を結んでるけどオンラインで働くということが重要なので、そういったことはやっていきたいなと思っています。中長期的な話ですが広義での個人の働くプラットフォームを指向してますね。

ーー案件の話になったので、そのパイの取り方について質問させてください。これは吉田さんにもお聞きした私の妄想ですが、やはり企業から仕事を取る場合はある程度の繋がり、例えば資本提携や安定株主など、そういった戦略も考えられます。もちろん営業マンを雇って大量に取ってくるのもひとつです。

こういうのに劇的な方法はあるんでしょうかね(笑。もちろん人をかけると一定確立で案件数は見込めます。ただそれはただの受託事業です。二つ目のアライアンスのスキームもあるとは思います。

とはいえ、企業の投資サイドがいくらコミットしても、現場は使いやすいものや安心感のあるものに発注したいと思うはずです。結局はプロダクト、プラットフォームとしての仕組みづくりが大切だと思ってるし、そこが本質です。アライアンスや営業、というよりはプロダクトに尽きると思いますよ。

ーー売上が伸びたのは株主のコネですっていわれてもね。

(笑

ーー最後の質問です。案件の量は国内だけでもまだパイがありそうですが、手数料ビジネスの利益率の問題は残ります。

これは一般論としての話ですが、やはり手数料モデルはECであろうといつかはしんどくなってしまいます。だから複数のプロフィットセンター(利益構造)を持つことはどの会社さんも思考されていることです。で、何を考えてるかというと…、どこまで話をしていいんでしょうか(笑。

ーーお話できる範囲で(笑。

ではあくまで可能性の話ですが、例えば中長期でいうとデータ。通常、人材事業では職歴などの粒度の情報しか持ってませんが、クラウドソーシングではどの案件の時に何を発言したか、といったかなり細かい情報を蓄積することができます。また大企業がクラウドソーシングを活用する際のコンサルティングのようなモデルも考えられます。

Elanceは有料会員の仕組みにも注力されていますし、また働く方のコミュニティができればそこに対して提供する保険などのビジネスも考えられますよね。つまり、可能性は沢山あるのです。

ーー今日はお時間ありがとうございました。