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Image credit: Grab
東南アジアで Grab がまだ Uber と争っていたころ、私たちはライドヘイリングが日常的なサービスとなっていくのを目にしていた。当時は、乗りたいと思ったら携帯電話を取り出して複数のアプリを立ち上げ、運賃を比較して安いものを選んでいた。
その直接的な価格競争では企業は輸送にかかる真実の原価を補填するためにキャッシュをつぎ込むようになり、大きなダメージを受けることになった(その後 Uber は損切りのために現地のビジネスから撤退した)。
だがそれ以上に、顧客のロイヤルティを刺激することがなかったのだ。
Go-Jek がこの地域に進出してきて、Grab は別の戦略を試している。同社を選ぶ価値を高めるために、ロイヤルティプログラムを強化しているのだ。
Grab は今 Amazon Prime のようなサブスクリプションプランを提供し、インドネシアのライバル企業の機先を制している。
サブスクリプションが理に適っている理由を以下に挙げる。
1.顧客を囲い込む
シンガポールで試行された Grab のサブスクリプションプランは以下のようなものだ。
- オールアクセスパス(ベーシックとプレミアム):GrabFood と Grab への乗車の値引きが得られる
- ショート通勤通学パス(ベーシックとエクストラ):一定回数の乗車に10シンガポールドルが値引きされる
- GrabFood パス:食品の値引きと無料配達が得られる
ポイントスキームである GrabRewards との違いを以下に示す。
Simon-Kucher & Partners のマーケティングコンサルタントでロイヤルティプログラムを専門とする Adrian Wylenzek 氏は、サブスクリプションおよび自動更新機能によって、Grab は顧客を長期間囲い込みリピーターを形成することができると述べている。
ありきたりな旅程を頻繁に乗車する顧客にとっては、登録したほうが明らかに節約になる。
予約の時点で Go-Jek やその他のライバルがもっと安価な運賃を提供していても問題ではない。「顧客はおそらく比較をしません。すでに支払っているバウチャーを活用しようと思うからです。そしてそれこそが正に Grab が求めていることです。」と Wylenzek 氏は語る。
逆に言えば、大きく節約できる可能性を持つ者だけが登録しようと思うという点を同氏は指摘する。
いずれにせよ、サブスクリプションは非常に重要なタイミングで出てきた。Grab は11月に Go-Jek がシンガポールへと進出してきた数日後にサブスクリプションをロールアウトし、ユーザに同社のアプリを使い続けるインセンティブを与えたのだ。またこのロールアウトは、同社が報酬プログラムの価値を下げユーザの一部を落胆させた数ヶ月後のことだった。
2.サブスクリプションでビジネスはもっと予測可能に
サブスクリプションは顧客を1ヶ月間囲い込むだけではない、資金も前もって囲い込むのだ。
プランが請求する前払いの利益の他にも、乗客からの収益も Grab にとって予測しやすいものとなる。Wylenzek 氏は「バウチャーが売れていることが分かれば、人々がそのバウチャーを使うだろうということも分かります。」と言う。
3.リソースのより良い配分が可能に
Private-Hire Car Driver’s Vocational License(PDVL:個人タクシー運転手の職業免許証)の実施に続く厳格な試験、並びにインセンティブの減少により、シンガポールのドライバーは減少している。
ベテラン金融アナリストの Valerie Law 氏は以下のように言う。
その結果、Uber を買収した後の Grab は主要なライドヘイリングアプリであるため、もっとも大きな影響を受けることになりました。ドライバー減少の他にも、高騰に対するクレームも同社を大きな公的圧力にさらすことになりました。
そのため Grab にとっては上得意にサービスを提供することは当然であると、SmartKarma で文章を公表している Law 氏はコメントする。
同社の内部アルゴリズムは究極的にはサブスクリプションのプランによって顧客をランク分けしているのかもしれないと同氏は考えている。
ですので、もしピーク時にすぐに乗ることができないのはなぜだろうと思ったことがあるとしたら、それはプランのためかもしれません。
Grab はすでに GrabRewards でこれを実施しており、最高ランクやプラチナユーザの予約は優先されている。
しかしながら、Grab の広報は Tech in Asia に次のように述べている。
サブスクリプションのステータスはユーザの乗車の割り当てに影響しません。
4.Grab は法人ユーザでマーケットシェアを多く獲得することができる
乗車と食料品配達に広がる Grab のサブスクリプションプログラムは法人に対して大きな潜在力を秘めていると Law 氏は考えている。Go-Jek の他にも、シンガポール市場のこの部門で長い間足場を築いてきたタクシー会社 ComfortDelGro にも打撃を与えることになるかもしれない。
ComfortDelGro はライドヘイリングアプリが高騰している時間でも比較的安定した運賃であるため、「一般的なタクシー乗客の競争で負けることは考えにくい」と Law 氏は言う。だが法人クライアントでは Grab に負ける可能性がある。
同氏はこう説明する。
ComfortDelGro の CabCharge カードはピーク時間の予約の優先や、従業員にビジネス目的で使いやすくしているといったことの他には、ユニークな特権をあまり多く提供しているわけではありません。
Grab は積極的に法人とのタイアップを進めており、フラッグキャリアである Singapore Airlines、銀行の UOB、そして不動産業者の CapitaLand などの企業と提携している。
「ショットガン」アプローチ
1つ Wylenzek 氏が心配していることは、Grab のロイヤルティスキームの幅広さが顧客を圧倒しているのではないかということだ。
報酬ポイントとサブスクリプションの他にも、ユーザが獲得し集めることでさらなる報酬をアンロックするスタンプも Grab は導入している。彼はこのように考えている。
複雑になるとユーザは良いスキームを選ぶことが困難になります。
様々なスキームを同時にテストするという Grab の「ショットガン」アプローチは、「重なり効果がある」ために、もっとも上手くいっているものだけを切り分けることが困難になると同氏は感じている。さらに、顧客は複数のスキームがあることに慣れてしまい、もし Grab がその一部を取り止めてしまったら失望してしまうこともあり得る。
同氏は Grab に対し、実施するスキームの種類を注意深く考慮するよう提案している。最初に GrabClub がローンチされたとき、料金の上限を12シンガポールドルとするフラットフェア(一律料金)パスがメニューに含まれていた。このパスによる値引きは40%から50%にまで上ったと Wylenzek 氏は言う。
非常にコストがかかったのかもしれません。Grab が2日後にはフラットフェアパスを売り切れとしたことも無理はありません。
汎用的なものはないという戦略を維持しながら、Grab のスキームは補足的なものであり様々なタイプのユーザをターゲットとしていると同社は述べている。例えば、サブスクリプションプログラムは頻繁に利用する乗客向けのものだが、GrabRewards は同社のサービスを利用するすべてのユーザ向けのものだ。スタンプは「弊社のシステムに最も親しんでいる、あまり頻繁には利用しないお客様向けに、過剰な負担とはならない魅力を追加」するために、ゴールドとプラチナのユーザに導入したと同社は Tech in Asia に語った。
時折これらのスキームは同時にテストを行い、もっとも最適なものを見つける必要があると Grab は付け加えた。
よくあるチラシや何十年も実地テストを積み重ねてきたクレジットカードのポイントプログラムとは違い、ライドヘイリング業界は比較的新しく、「そのため弊社は絶えずテストを行い繰り返していかねばならないのです」と同社は述べている。
Grab は同社がまだロイヤルティスキームのテスト段階にあることを顧客は理解してくれると信じているため、そういったスキームを取り止めることで顧客を失望させることは「テールリスク」、つまり起こりそうもないことだとしている。
Grab はサブスクリプションと GrabRewards の両方が業績を促進していると主張しており、メンバーとしてのステータスが6ヶ月間続く GrabRewards の償還は2018年前半に比べて後半が242%上昇したとしている。
アナリストはサービスがお互いをよく補完し合っていると考えている。現在は Grab ユーザはすべてのサブスクリプションの乗車でポイントを稼ぐことができる。
同社はフラットフェアパスのようなものをプラチナメンバー限定で提供することもあるかもしれないと Wylenzek 氏は示唆している。
フラットフェアパスには大きな価値があり、人々はそれを利用するためにプラチナメンバーになろうと思うでしょう。
インドネシアの外で追い上げる Go-Jek

新たに参入してきた Go-Jek は Grab からシンガポールだけではなくその他の東南アジアで市場を奪うために、価格に大きな補助金を出すとまだ広く期待されている。補助金にはまだ果たすべき役割があるだろう。特に企業がユーザベースを拡大し始めた時期であればなおさらであるが、それはつまり補助金を出すべき取引の数が比較的少ないということだ。
Grab も GrabFood のような新たなサービスを試してもらうべく同じような宣伝広告を続けている。
だが Go-Jek との価格競争全体によって、Grab はより多くの資本を支出することを迫られるかもしれない。考えてみよう。Grab は数百万人の乗客に対して毎日補助金を出さなければならなくなるかもしれないのだ。
最良の戦略はそれを避けて市場を囲い込むことです。
Simon-Kucher のディレクター Thibault Ricbourg 氏は断言する。
Ricbourg 氏は同社が純粋な価格競争で抵抗しても、長期的にはライバルがシェアを獲得することができるだろうと考えている。そのときまでに両社は製品やサービス、ロイヤルティスキームといった点でお互いを出し抜く必要があると彼は指摘する。
Go-Jek は本拠地であるインドネシアでは明らかに先行しており、Grab よりも多くのサービスを提供している。
しかしながらインドネシア市場の外では Grab が先に動いており、ロイヤルティプログラムに関しては数歩先を行っているようだ。
現在のところ Go-Jek が持っているのは GrabRewards に相当する Go-Points だけであるが、これにはランクシステムもなくインドネシアでしか提供されていない。
シンガポールでは Go-Jek はまだ初期段階にある。Wylenzek 氏はこう述べている。
まずは良いロールアウトを本当に確実にしなければなりません。つまり、経営効率を向上させなければなりませんし、その基本に忠実でなければなりません。
シンガポールにおける Go-Jek アプリはまだあまり多くの機能を持っておらず、4シートやそれ以上のタクシー、複数の目的地、先行予約といったものもない。
しかしながら、遅かれ早かれ Go-Jek は自身のサブスクリプションプログラムを実施するだろう。結局のところ斬新なアイデアというわけではなく、アメリカのライドヘイリングの Uber と Lyft はすでに現地において正面からぶつかり合っている。
Wylenzek 氏は次のようにまとめた。
そうなれば、Go-Jek は自身のプログラムと Grab のものとの違いを出さなければなりません。Grab は豊富な資金を持っており、先行者利益があります。もし Go-Jek が市場に参入してきて同じものを提供するのであれば、それは良い戦略とは言えないでしょう。
Tech in Asia は Go-Jek にコメントを求めている。返事があれば本記事を更新する。
【via Tech in Asia】 @techinasia
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