NYの公衆無料WiFiスポット「LinkNYC」、600万人が累計8.6TBのデータを使用と発表——定職やブロードバンドを持たない市民に情報保障提供

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Image Credit: LinkNYC

ニューヨーク市に数千台ある古びた公衆電話を取り換える方法として、55インチの HD ディスプレイ、ギガビットの高速インターネット、情報アプリを備えた Android タブレットがある9.5フィートの高さのキオスクを設置するより素晴らしい方法があるだろうか。ニューヨーク市長(当時)Michael Bloomberg 氏が2014年に Reinvent Payphones イニシアチブというコンテストをローンチし、私企業、住民、非営利団体に対して、広告費用で賄われたサービスを一般に提供する、きれいで公衆がアクセスできるハブのデザインの提出を呼びかけた。

CityBridge の LinkNYC は、圧電式圧力プレート、電動自転車・自動車の充電ステーション、その他有力な提案をおさえて勝ち、市の協議会はただちに実行に取りかかった。Qualcomm や CIVIQ Smartscapes とともにキオスクを管理する Intersection は、2億米ドルを投じて400マイルの新たな通信ケーブルを設置し、150フィート半径内にいる通行者たちに無料 Wi-Fi アクセスを提供する1万か所の Link を設置する予定だと述べた。最初のキオスクが1月に Wi-Fi を提供し始めたが、プロジェクトはまだまだ先が長い。現在1,780の Link がアクティブだが、これは、今年7月までに4,500のキオスクをという当初の目標には届いていない。とはいえ、直接911番やニューヨークの311サービス(行政サービス窓口)につながるボタン、USB 充電器、バックアップバッテリー、50州すべてとワシントン D.C.に無料で電話できる VoIP サービスなど約束された多くの機能がついに最終設計段階に入った。

そしていくつかのキオスクは本当にスタートした。Intersection によれば、LinkNYC ネットワークには今や600万人のユニークユーザがおり、これらのユーザは総計8.597テラバイトのデータを使ったという。このデータ量は、13億曲の楽曲、あるいは2,920億件の WhatsApp メッセージに相当する。そして、同プロジェクトにより毎月60万件の通話がなされており、これは昨年9月の50万件より増加している。

Link に設置された、インターネットにつながったタブレット端末を使う人々は、備え付けられた社会サービス連絡先一覧や311アプリで月に9,000件の検索を実行しており、Intersection によると最もよく検索される語句は「仕事」、「住宅衛生」、「公的給付金」である。地図アプリでは毎月そのほぼ4倍、つまり3万6,000件の検索が行われており、頻繁に検索される語句は「Midnight Run」(ホームレス支援団体)、「食品/服の配達」、「Best Buy」(家電量販店名)、「映画館」だ。

これらの指標は、ある層のニューヨーカーにとって LinkNYC のハブは単なる便利ツールではなくライフラインだという事実の証になる。

ニューヨーク市の政策研究局の行った2015年の研究によれば、ニューヨーク市住民の25%が自宅用ブロードバンドインターネットを持っておらず、そのうち32%は雇用されていない住民だ。そして、同市の消費者庁が公表した2015年の調査によれば、収入のない住民の44.5%が携帯あるいは携帯サービスプランを持っていなかった。そうすると、LinkNYCのハブで最もかけられる電話番号がニューヨーク州の EBT(困窮者用食料切符)のヘルプラインであることもそれほど驚きではないかもしれない。このヘルプラインでは、補完的栄養補助プログラム(SNAP)やその他の社会サポートを利用できる。

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4年前、市長の Bill De Blasio 氏は、民主化したインターネットに向けての戦いにおける進歩の印として、Link について強調した。

Link は世界で最も速く大きい市営 Wi-Fi ネットワークです。そして、Link はあらゆる行政区のあらゆるニューヨーカーのための、より平等で、オープンで、インターネットの使える都市への重要な一歩です。

LinkNYC は博愛的な取り組みではないということは述べておく価値がある。投資家らは Intersection に対し、2017年に1億5,000万米ドルの資金援助を行った。さらには、初めの2年間収益が期待には届かなかったにも関わらず、ニューヨーク市は4,340万米ドルの収入を集めた。これは、CityBridge が保証した4,250万米ドルの最低額をわずかに超えた額である。Link でのディスプレイ広告、スポンサーシップ、パートナーシップは今後12年かけて5億から10憶米ドルの収益を生み出すと期待されている。(CityBridge とニューヨーク市は広告収入を2等分することにしている。改正された契約では、CityBridge は最低額を超える収入の取り分の市への支払いを、契約最終年まで遅らせることになっている。最終年には支払金は10%の利子つきで支払われることになる。)

対して、Intersection の役割は傘下のキオスクを通して芸術、文化、政治参加を促進することだ。Link のスクリーンがリアルタイムのバス到着や周りの地図を表示していないときは、諸団体、出版会社、政府機関とのコラボによる、定期的な、あるいは季節限定の、あるいは特定の時期だけのコンテンツを表示するようプログラムされている。それには AP 通信の記事やコミック、気象情報、緊急管理局からリアルタイムのアラート、また「NYC Fun Facts」や「This Day in New York」と呼び名のついた人々、場所、ものに関する地域密着型の数百の情報記事も含まれる。

Intersection はこれまでに40人のニューヨークのアーティスト、2,000件の地域イベント、750件の NYC Fact、そして結婚の申し込みを7件表示したという。

市民参加的な側面では、Intersection は昨年4月にニューヨーク市議会とチームを組み、ニューヨーク市参加型予算というプロジェクトを始めた。これは、11歳の子どもでも、市が隣接地域に投じる100万米ドルの公的予算をどう使うべきかについてタブレットで投票することを可能にするものだ。(3月第5週に2年目のローンチがあった。)また、2018年11月の総選挙の前に多くのニューヨーカーが前もって投票者登録するようにと意識改革キャンペーンをローンチした。そして、LinkLocal プログラムにより、コミュニティボードの会議案内や地元の道路閉鎖などの情報を流している。このプログラムでは、小企業はニューヨーク市にある限られた Link で無料広告を打つことができる。

Intersection によると、今回の選挙期で投票者登録と登録者情報のためのタブレットアプリへのアクセスが1万4,473回あり、150以上のコミュニティボード会議の案内が LinkNYC の通常のローテーションコンテンツに載っているという。

こうした数値は励みになるものかもしれないが、Intersection の最も厳しい論者たちをなだめることはなさそうだ。こうした論者の一部、例えば Intercept、American Civil Liberties Union、Electronic Frontier Foundation、Stop LinkNYC、ReThink LinkNYC などは、Link ハブが大衆監視に使われる可能性に注意を向けさせている。それぞれの Link には3台のカメラが備え付けられており、例えば「歩行者、自転車、車の交通状況の監視、通行者のワイアレス端末の追跡、街頭の雑音の認識、そして(中略)捨てられた荷物の特定」などが可能だ。

Intersection によると、プライバシーポリシーの中でユーザの正確な位置については情報を集めないとはっきり述べているという。Wi-Fi ユーザのリアルタイムの位置を追跡する意図があるのではないかという疑いに対し、Intersection は、ユーザのクリックストリームデータも閲覧履歴も集めないと述べた。また、自由に第3者とデータをシェアすることはなく、もしも政府機関からデータ開示の要請を受けた場合には、当該のユーザに通知する「もっともな試み」を行うともしている。

全米盲人協会が、タブレットには目の不自由な人にも使える機能がないとして、ニューヨーク市と LinkNYC に対する訴えを起こしたのち、Intersection は目の不自由な人にとって補助となるツールを付け加えた。(現在それらは1990年の「障害を持つアメリカ人法」を完全に順守している。)また、いくつかの支援団体は Intersection に対し、Link は人々が道草を食うのを促しているとして非難している。タブレットには当初インターネットブラウザがあったが、ポルノを見ているユーザがいるという苦情を受けて、エンジニアらはブラウザを使えなくした。

よくも悪くも、こうした小さな問題が Link の拡大を思いとどまらせることはなかった。2017年より、イギリスの電話会社 BT、イギリスの広告会社 Primesight と協同して Intersection はロンドン、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドを含むイギリス各地域に数百のハブを設置することを始めた。同地では LinkUK というブランド名だ。他にも、同じキオスクはニュージャージー州のニューアーク市(LinkNWK)、マンハッタンのハドソン川、フィラデルフィアの非常に人の多い街角(LinkPHL)にも設置された。

Intersetion の消費者マーケティングシニアマネージャー Amanda Giddon 氏は、VentureBeat との過去のインタビューで次のように語っている。

それは、学んだ教訓の組み合わせになるに違いなく、私たちのプログラムに少しその都市用の特色を付け加えることになります。私たちにはニューヨークとフィラデルフィアに研究チームがあり、彼らは、その地域の人々に最も役立つにはどうしたらよいかを理解するために、予備的なフォーカスグループテストを行いました。私たちはフィードバックに対して非常にオープンです。そしてここでたくさんの努力をしてきましたし、どのように受け入れられるのか見守るのを楽しみにしています。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

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