大手との「協業ギャップ」どう埋めるーースタートアップ3社が語る“コラボレーションの法則” #ms4su

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左から日本マイクロソフト原氏、ニューレボ長浜氏、HEROZ大井氏、エクサウィーズ粟生氏

本稿は日本マイクロソフトが運営するスタートアップインキュベーションプログラム「Microsoft for Startups」による寄稿転載。同プログラムでは参加を希望するスタートアップを随時募集している

日本マイクロソフトは6月14日、インキュベーションプログラム「Microsoft for Startups」に関するミートアップを開催した。イベントには国内拠点のスタートアップ、VC、CVC、アクセラレーターらが参加し、企業間コラボレーションの加速を図るための議論が交わされた。

パネルディスカッションのスピーカーには、ニューレボ 代表取締役の長浜佑樹氏、HEROZ開発部プロデューサーの大井恵介氏、エクサウィザーズ取締役の粟生万琴氏が参戦し、「スタートアップとエンタープライズマッチングの今」を中心に議論がされた(取材・編集:増渕大志)。

  • ニューレボ:スマホをベースとしたバーコード読み取りで、検品や物流管理が行えるソフトウェア「ロジクラ」を開発・提供
  • HEROZ:データの時系列分析・未来予想に基づいて、AIによる自動監視・異常検知ツールである「HEROZ Kishin Monitor」を法人向けに提供し、IoT時代における諸サービスの向上・予兆保全を支援している
  • エクサウィザーズ:介護や医療・金融・人事・ロボット等、大きな社会課題を抱える産業領域でのバーティカルSaaSを提供

<第一回イベント詳細はこちら>

協業時のギャップはどう埋める?

まずは今回のパネルディスカッション、メインテーマである「スタートアップとエンタープライズのシナジー」について。数多くのスタートアップが誕生するにつれ、日本においてもスタートアップとエンタープライズ間の「協業」も珍しくなくなってきた。

しかし、その実情はどうなのだろうか。モデレーターで日本マイクロソフトビジネスデベロップメントチームリードの原浩二氏も述べていたように「では、実際に成功した例って何?」と聞かれるとそれほど思い浮かばないのが実際だ。

原:特に「AIスタートアップ×エンタープライズ」によるイノベーション創出はトレンドでした。もちろん、上手くいった例も数多くありますが、なぜそれが成功したのか分析する機会は少なく感じます。事例検証が求められているフェーズなのではないでしょうか。

この点についてエクサウィザーズの粟生氏は同社と飲食チェーン大手との協業を例に挙げる。両社は飲食業界における労働人口の解決などを目指し、AIと行動心理学を活用した勤務シフト自動作成サービスを開発するに至った。粟生氏は協業開始の意識合わせをこう振り返る。 

粟生:弊社とクライアント側が持ち合わせていた課題意識と、AIを使って飲食業界に革命を起こしたいという目的は完全に一緒でした。しかし、パッションもお互い高く持っているのに、どうしても話が合わないというフェーズが初期にあったんです。そこで、私たちは一緒に勉強会を開くことにし、AIの説明や業界の説明をお互いにすることで「なぜ協業するのか」をすり合わせることができたと感じています。

異なるカルチャーの現場で協業を進める場合、このような「温度感」や「業界内の仕組み」を意識合わせするフェーズが大切だということを理解できるエピソードだ。

一方、同じくスタートアップ側として登壇した長浜氏はタイミングが重要と続ける。

長浜:シードを経験した立場から言わせてもらえば、エンタープライズとの協業は(盲目的に)期待すべきではないし、エンタープライズ側も期待させるような雰囲気で話し合いを進めるべきではないと思います。特に初期のスタートアップは、スケールアップしないプロダクトの「開発」をしているフェーズですから、そういった方々と協業をしようとしても、エンタープライズが求めている期待と大きく隔離してしまいます。

スタートアップが掲げるビジョンは数年先を見据えて設定されることがほとんどだ。ここに共感をしたエンタープライズ側が協業を持ちかけたとしても、そこに市場に支持された製品がなければ同床異夢になってしまう。

HEROZの大井氏も「担当者と経営者層でコンセンサスがないまま商談が始まると、結局どこかに話が流れてしまう」とコメントしていた。期待値や温度感の像合わせが雑だと、結局大切な時間を失うことになってしまう。

ではスタートアップとの協業を考えるタイミングはいつがいいのだろうか?

長浜:シリーズA前後での連携は両者の視点がある程度揃っているタイミングかもしれません。スタートアップ側は「提携」という戦略を入れるか入れないのかの判断をするタイミングですし、特にファイナンスを通した提携は両者にとって有益だと思っていて、そうすることで3〜5年のロードマップを持った協業関係性が作りやすくなる。

こういったファイナンスを絡めた資本提携戦略を結びやすいのもスタートアップとの協業の特徴かもしれない。彼らは成長資金を計画的に積み上げる性質を持っているし、こういったスタートアップの「理屈」をエンタープライズ側がよく理解していれば、より強い協業を生み出すこともできる。

スタートアップとエンタープライズの協業は、ポイントを押さえることで両社にとって成長を促進させる「武器」になり得る。しかしその一方、大井氏は盲目的な協業の危険性についても指摘をしていた。

大井:特にAIの目的と手段が入れ替わっているなと、商談の場で感じることは今までも数多くありました。まさに「それ、AI必要ですか?」と。実は解析だけを行う方が効率的だったり求めているアウトプットに近かったり、AIを使わないほうがベターという場合もあります。とりあえず商談の場を設けてプロジェクトを進めればなんとかなるではなく、マーケットや技術・プロダクト性質への理解を持つことは大切な要素だと思います。

実は協業という取り組みは事業そのものだけでなく、社会に向けての「メッセージ」の役割も担うことがある。

大井氏が指摘する技術への盲信だけでなく、大手と手を組む、スタートアップと協業する、こういった「別の側面」を経営者や担当者が強く意識してしまうと、手段と目的の「すり替え」が発生することがある。こういったことが起こらないためにも、協業の目的や意味する範囲を解像度高く担当者全員で理解すべきだろう。

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