まずはこの動画をみてほしい。
これは国内で開催されたハードウェア・コンテストに出品された「試作機」のひとつで、開発したのはメーカーに勤務するソフトエンジニア、メカエンジニア、デザイナーの3人。普段は全く違う仕事に携わっている彼らが、小規模な手工業で開発したもので、動画の通りスマートフォンにセンサー、3Dプリンターがあればこの義手は作れてしまう。
そう遠くない新時代のビジネスチャンスはここにある。
「未来のふつう」をつくる
12月7日、都内某所で開催された電子工作のイベント「Gugen2013」で大賞に輝いたのがこの筋電義手「Handie」だ。Gugenは2008年から過去数年に渡って開催された電子工作コンテストがリニューアルしたもので、よりビジネスに直結するハードウェアプロトタイプを選出し、表彰する舞台を提供している。
実行委員のひとり、岩淵技術商事の岡島康憲氏によれば今回の応募数は過去最高の200点あまりで、これまではどちらかというと電子工作を楽しむ人たちの「コンテスト」だったのだが、今回からはよりビジネスを指向した本格的な人たちの場になりつつあると、肌で感じる「変化」を教えてくれた。
「MAKERS」をバズワードにさせない
クリス・アンダーソンという人物はバズワードを生み出す魔術師だ。あるトレンドを体系化し、ひとつの文字に集約して業界全体に「流れ」を作る。ロングテールやフリーが出た頃には、コンセプト自体に目新しさがなくても、ここぞとばかりの「便乗ビジネス」を多く目にした。
そして最新作「MAKERS」でも遺憾なくその力は発揮されることになる。
都内には雨後の竹の子のごとく3Dプリンター設置場所が出現し、メディアにはMAKERSの文字が踊った。いわゆる「MAKERS」ブームだ。ただ、3Dプリンターで出力するものがフィギュアだけだと分かった瞬間、熱は一気に冷める。
もちろんMAKERSというワード自体に罪はない。流れができているのだからこそ、バズワードにさせない取り組みが必要なのだ。この産業は化ける。Gugenはその取り組みのひとつでもある。
3Dプリンタだけでないー3つのキーワード
新しいものづくりやハードウェア開発についてよく話題に挙る3つの構成要素というものがある。(ちなみにABBALab※の小笠原治氏とは、最近この話ばかりしてる)
◎造形をつくる:デザインされた外装
◎ソフトウェアをつくる:ネット系と組み込み系のエンジニアの融合
◎電子工作をつくる:Arduinoなどのオープンソースハードウェア
私たちがハードウェアに触れる「造形」を手軽に生み出してくれるため、3Dプリンターは分かりやすいMAKERSのシンボルになった。確かに「無」から「有」を創造する課程は刺激的だ。
今回Gugenで大賞を受賞した筋電義手「Handie」の外装は3Dプリンターで出力することで、安価かつ取り替えを容易にしている。データとプリンターがあれば、どの国、場所でも製造ができる。これは想像しやすい。
しかし、それだけではHandieは動かない。残りの2つも同じく重要なのだ。すなわち
◎Handieのソフトウェア部分はスマートフォンアプリに集約されている。専用ソフト部分を汎用的なアプリ開発にゆだねることで大幅なコストカットを実現させた。
◎Handieのモーターやセンサーは特注のものではない。部品メーカーが販売する汎用品を組み合わせることで、実現の敷居を大きく下げることに成功した。
外装、ソフトウェア、電子工作。3つのワードに共通するのが「オープンソース」によって大きく敷居が下がった世界観だ。
もちろん、Handieは誰でも作れるものではない。特に秀逸なのが「メカ設計」のアイデアで、通常複数のモーターが必要だった指の動きを、設計の妙によってひとつのモーターで稼働させることに成功している。
しかし、そのコアになるアイデアと経験さえあれば、これだけのものが作れるようになった。
もはやものづくり、ハードウェアは一部のメーカーだけのものではなくなりつつあるのだ。
新しいビジネスチャンス
新しいものづくりはなぜ注目されなければならないのか。そのひとつが新たなビジネス・アイデアの創出だ。ここ10年ほどを振り返って成長著しかったネット系サービスもそろそろ飽和状態に近づきつつあるのことは、賢明な読者のみなさんであればお気づきだろう。
2次元のディスプレイに表示される情報サービスには限界がある。それがたとえスマートフォンという移動可能な端末に変わったとしても同じだ。
新しいものづくり、ハードウェアを考えるときに大切なのは「積み上げ」の考え方だ。
私たちにはインターネットサービスで培ったソフトウェアとネットワークの可能性がある。ハードウェアというものはこの2次元の可能性を3次元に解放し、さらに拡張させてくれるものと捉えるべきなのだ。Handieはスマートフォンアプリの世界観がなければ登場しなかった。もちろん、スマホアプリだけで手は動かない。積み上げとはそういうことだ。
今まさにその流れが本格化している。2次元から3次元への進化とはこのことにほかならない。
さておき、具体的にどのようなハードウェアなら個人レベルでも開発可能になったのか。まさしくGugenに出品された作品群をみれば、その可能性を感じることができるだろう。本稿の最後にその一部をご紹介させて頂く。他に出品された200点以上の応募作品についてはGugenのページで確認が可能だ。(各タイトルのリンク先はGugenでの紹介ページ、フォトレポートはyteppei氏による)
プログラムによって透明度を自由に変化させることができるSquama。会場では「開放性とプライバシー・セキュリティの両立」という用途に加えて、温室などに用いることでの省エネ効果も示唆された。
イヤフォン側でどちらの耳かを判別し、適切な音声を再生してくれるUniversal Earphone。技術的にはヘッドフォンにも応用できるとのこと。
3Dプリンタやスマホの活用で安価な義手の提供を目指すHandie。手指欠損者への提供はもちろん、将来的には全ての人にとっての「第3の腕」としての提供を求める声もあった。
Android端末とルンバ、それに少数のパーツを組み合わせたビデオチャットロボットTelemba。実際にこのTelembaを使って名古屋からこの授賞式に参加するという離れ業が印象的だった。
直観的かつ洗練された音楽インターフェースPocoPoco。美しい動きを作りだすために部品の材料にも拘っているという。懇親会の前にはミニライブが開かれ、会場を沸かせた。
※ABBALabはハードウェア開発関連の支援事業を展開しており、Gugenにはスポンサーとして参加していた。
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