【イベントレポート】ウェブの未来、社会を見つめ直す−−WebSigが問う時代のこれまでとこれから

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10月上旬、WegSig1日学校2012が開催された。今年で三回目となるWegSig.テーマは「温故知新」だ。

社会や価値観の変化といった大きなパラダイムシフトが起きている中、インターネットの変化、企業のあり方、個人の働き方といったものを、過去を踏まえつつ、これからについて考える1日となった。共通授業、各クラスに分かれての講師の授業など、WegSigの内容をまとめてみた。

まず、開校の挨拶として、校長の和田嘉弘氏、モデレーターの馮富久氏による概要説明から始まった。WegSig1日学校は今年で三回目。これまでのテーマの第一回目、第二回目を振り返りつつ、今年のテーマである「温故知新」という言葉に対する考えを語った。

現在の社会の変化、技術の変化、消費行動の変化、そしてライフスタイルの変化が変わってきたなかで、変わるもの、そして変わらないものはなんだろうか、ということを考える1日にしてもらいたい。インターネット、そしてウェブが次の時代の重要な要素のなることは間違いない、そうした中で、インターネットに関わる私たちだからこそ、社会の変化に敏感になるべきである。Tipsじゃなく、長く続くものの考え方はなんだろうか、それを考えてもらいたい。

また和田氏は、2010年に発行されたWIREDで書かれた「The web is dead」という単語をもとに、インターネットの黎明期においては、技術の新しさ、変化自体が楽しかった時代は、ウェブを作ることがある意味で目的であったと語る。しかし、時代が変わりウェブが一般的になりつつある中、次第にリアルの生活における興味に戻りつつあり、そうした中でどうインターネットが変わっていくのだろうか、と問いた。時代によって、価値観は変化していく。そのために、どうしていけばいいか、各クラスの授業などをもとに考えてももらいたい、と語った。

社会はプラットフォーム化していく:佐々木俊尚氏講演

共通授業として、佐々木俊尚氏の講演が始まった。佐々木氏は、ITの普及によってこれまでの企業のあり方、経済のあり方が変化してきた、と、アップルやGoogle,Facebookなどの登場などを例にあげ、説明した。

また、Facebookの登場など,人間関係がソーシャルで可視化され、また、クラウドワークスなど、遠隔であっても個人で仕事が獲得できる環境において、これまで、都心一極集中だった環境から、地方においても働ける環境が構築できるようになった。それはつまり、富の一極集中から富のフラット化が起きており、世界規模でそうしたクラウドソーシングが起きていると語る。つまり、ITによって、社会構造全体がプラットフォームが進み、希少性が減少し、グローバルにおけるフラット化、つまり、垂直統合の終焉が近づいているのでは、と語った。

プラットフォームの登場により、個々の能力などに応じてモジュール化し組み合わせる時代がやってくる。社会全体がプラットフォーム化していく中で、ビックデータに対する私自身の共犯関係、そして、水平分離のビジネス構造の変化をどう生き抜いていくか、と話がすすんだ。フラット化していく社会構造の中で仕事をしていかざるをえない状況をどう受け止めていくか、参加者含めて、考えるきっかけとなった。

社会、ものづくり、ビジネスを考える

共通授業のあとは、お昼の休憩後、それぞれ、個々のクラスに別れて授業がおこなわれた。各クラスの様子を、概略ながらまとめてみた。

生活社会クラス

ゲスト:東浩紀氏
東氏は、ルソーの一般意志の流れを踏まえながら、ルソーが生きた時代において、また、ルソーがどのような考えでもって一般意志を語ったか、ということについて話した。

ルソーは、“人は孤独である”という前提のもとに社会が形成され、社会と個人との対立の中で、自由な個人を提唱していた、と語る。言語的コミュニケーションを介さずにいかにコミュニケーションを図るか。その中で、”人の秩序”と”モノの秩序”という話を踏まえながら、一般意志におけるモノの秩序による集合知的意識を形成することが重要であると語った。そして、その一般意志こそ、まさにTwitterにおける”つぶやき”であり、個人の意思表明の集合であるつぶやき、ニコ動の非同期的コミュニケーションによる決定は、現代における一般意志として、社会における合意形成がなされるのでは、ということを話した。

ゲスト:林千晶氏
林氏は、”個”と”Co”を考えるをテーマに、まず、自分自身についての自己紹介、そして、自分自身のつながりの人たちの紹介などを、それぞれ別に分けて書きだすワークショップをおこなった。

つまり、自分自身のネットワークを振り返り、身近な50人の強力なネットワークを作る出すことの重要性について話した。「インターネット時代における個は、中に向かうのではなく、外との接点の中でつながっていく」と語るように、自分を中心に、どういった人とつながっているか、人とつながることで、自分らしさを理解することができる、と語った。

自分自身を見つめ、自分の要素を見つめると同時に、自分のネットワークをみつめ、自分の身の回りのつながりを考えることこそ、これからの時代を生きる鍵だと林氏は参加者に語った。

ゲスト:荒井尚英氏
新井氏は、新興国における状況のあり方から、日本の現状、そして、世界の現状について自身の体験をもとに受講生に語った。

とくに新興国における携帯市場の発展は”飛越市場”とも呼ばれ、これまで日本が歩んできたような発展のあり方ではなく、最初からスマートフォンを所持、などのように、テクノロジーを短縮して経験している、という。つまり、日本とは違った発展の仕方をしており、モバイルによって生活のほとんどがなりたつほどの生命必需品だと語る。日本では、いまだおこなえないSMSによる送金など、日本よりも発展している箇所も多くある。それはつまり、日本としての発展をベースに考えるのではなく、違った考えをもって市場を監察しなければいけない、ということだ。

また、人口の成長や割合などとくに若い人口の比率も高く、今後数十年の時代において人口の多い国の成長や発展を考えると、日本が今後どう対応していく必要性があるか語った。最後には、日本人と新興国の若者のマインドの違いを示唆し、今日よりも明日が発展していると思えるかどうか、そのマインドの違いが、これからの社会の希望を生み出すと語った。

ものづくりクラス

ゲスト:中川直樹氏
中川氏は、これまでのデザインのあり方から、これからのデザインがどうあるべきかについて語った。今回のWebSigのテーマである「温故知新」からもわかるように、変わらないデザイン、変わるデザインとは、ということについて話をした。

「UIの変化は変わったが、UXはどう変わってきただろうか。ウェブが特別なものではなく、当たり前の時代になってきたからこそ、デザイナーは、ウェブのUIをただ考えるだけではなく、ユーザにどういった体験をさせたいのか、ということを改めて見直す時代にきてる」。

ウェブを基軸に、オンライン・オフラインにおけるコンテンツのあり方とエコサイクルの意識、人間中心・技術・ビジネスの3要素をもとに、デザイナーは世の中の仕組みや社会をデザインしていくこと、そのためのデザイン思考をもち、デザイナーからデザイニストになることの重要性を語った。

ゲスト:福田敏也氏
福田氏は、広告におけるこれまでのあり方や発展の仕方を事例に、相手に”どう伝わるか”ということの重要性について語った。

企業やブランドを好きになってもらう、そのためには、相手に、購入の理由を作り出すことが大切であり、そのためには、”伝えるのではなく、伝わること”が大事だと語った。

メディアの発展と同時に、人の欲望を実現するコストが減少し、人のすぐ近くにメディアが進出するようになった。そうした時代だからこそ、人の欲望とどう向き合い考えていくか。その例として、ドラえもんを例にあげ”こんなこといいな、できたらいいな”というリアリティの設計こそ、人の欲望のショーケースであると語る。広告は、ときに複雑な物事を考えがちになるが、様々な考えをシンプルにし、人が何を求めているのか、人にとってなにが心地よいのかを、ドラえもんというものを中心に起き、ときに振り返ることによって、ニュートラルな思考をもつことこそ、コミュニケーションを設計することだ、とした。

ゲスト:朴正義氏
朴氏は、自身が経験してきたこれまでのパスキュールの起業のあり方を中心に、ものづくりの原点、ものづくりをしていくときに大切なものはなにか、ということについて語った。

朴氏は、起業に際し自身に課したルールとして、才能がある人が一つに集まって力を発揮すれば、うまくいかないわけがない、お金や情報格差でスタッフをコントロールしない、他社ではできない志の高いプロジェクトを形にする、そして、創業3年以内に自社コンテンツをローンチする、などという目標を掲げた。

”前人未到をつくりたい”という思いこそ、ものづくりな自身にとって大切な思いだったと語る。

制作の受託や興味のある関連企業との仕事、広告賞を得るなどの案系を通じて様々な経験をしてきたが、それらの多くは、自分のためでしかなく、多くの人を楽しめるヒーローにはなっていないと考えた。そこで、既存のサービスやコンテンツをデジタルやネットの力を加えるプロジェクトを立ち上げ、ユーザを満足させることこそ、パスキュールが目指すものであると考え、その後、様々なデジタルコンテンツやスマートTVなどのプロジェクトをおこなってきた。

自分のやりたいこと、という視点を、つねにメタ的な視点で稼働させ、世の中を眺めること。その上で、誰を満足させていきたいのかを考えること。そして、それらに向けて、まず自分から一歩を踏み出してみること。そうした流れを意識し、選択の場を見逃さなければ、自然と面白い方向進む、と参加者に語った。

ビジネスクラス

ゲスト:鈴木由歌利氏
鈴木氏は、ビジネスにおいて、共感をいかに生み出すか、これからの時代においてのビジネスとコミュニケーションの重要性について語った。

いまの時代は、鈴木氏は「第4次産業革命」時代だと語った。ネットがインフラとして一般化してきた時代において、消費者の力が、ビジネスにおいて大きな意味を持ち始めてきた、と語る。

「会社の都合ではなく、ユーザがどのように満足していくか。企業としての発信よりも、消費者の発信力が強くなっている時代だからこそ、購買行動の変化に気づく必要性がある」。

ブランドとして必要なのは、売る理由でなく買う理由をつくりあげることこそがブランドであり、消費者が買いたいと思うために、消費者にいかに選ばれるか。顧客とターゲットにするのではなく、ブランドは顧客からの視線を浴びている。そのために、ブランドは、他社が提供しない価値を提供し、自社としての優位性を高めていく必要性がある、と語った。

ゲスト:藤川真一氏
藤川氏は、かつて「モバツイ」を創業した人物だ。その藤川氏が語る、クラウド、ソーシャル、ITで生きるために必要な考え方を、参加者に講義した。

「ビジネスにおいて、プラットフォームを使うということは依存関係を築くものであり、それがなくなったときにどのように対処するか、ということを考える必要性がある」。

藤川氏は、プラットフォームにのるメリット、そしてデメリットとを比較しながら、プラットフォームとの関わり方について語った。ユーザ認知やユーザ数などが集まる反面、プラットフォームへの依存が、ときに自身が思いもよらない方向になってしまうこと、ときに、違うプラットフォームに乗る可能性の意識などを語った。

また、依存せずにプラットフォームを利用するためにリンクのシェアの重要性を語り、いかにリンクを貼ってもらうか、リンクは相手との距離や精神的なものによって、無数の可能性があるものであり、「リンクはココロのセット」ということも語った。

その中で、「評価経済社会」についてもとりあげ、相手から評価(信頼)を獲得し、お金では補完できないもの、新しいあり方で、自身のビジネスを友好的に広げていく手段が、いまの時代はできるようになった。そうした、時代時代にあった製品を提供し、外部へのリンクを築き、評判をストックしてそれをビジネスとしてつなげる仕組みを形成していくべきだ、と語った。

ゲスト:中川淳一郎氏
「ウェブはバカと暇人のもの」の著者でもあり、いくつものニュースサイトの編集長を勤めあげる中川淳一郎氏が、昔から今へとつながる、人々の知ってもらうための情報手段の変遷と手法論について語った。

マスメディアがメインであった時代は、少しでも広く認知をさせ、マインドシェアをとることで、商品を買ってもらうことができた。そして、それは、いまはテレビのワイドショーから、Yahoo!トピックなど、かつてにくらべてチャンネルの増加がある、と語った。そうした中、自身の経験などをもとに、情報の重要性や、PRとしての方法論など、世間の関心をいかにひき、そこから自分たちが伝えたいメッセージを伝えていくかについて語った。

「自分が面白いと思う情報は、おそらく他の人の多くも面白いと思うはず。情報発信者は、根拠のない自信をもつべきだ」。

自分の発想を起点し、いかに面白さを世に発信していくか。それは、どんなに時代が変わってこようとも、変わらないものであり、また、人の欲望はいつの時代も同じものであり、そうした、人としての行動原理を知り、そこから相手にいかに伝えることが大切か、と語った。

ワークショップセッション−有料メルマガは流行っているのか

3つのクラスによる、それぞれの多彩な講座の終了後は、最後にもう一度参加者全員が集まり、全体によるワークショップをおこなった。このワークショップでは、ワールドカフェ方式で、各テーブルに分かれて議論した。お題は「有料メルマガが流行っている理由」とした。2012年において、「有料メルマガ」という単語が浮上し、様々な著名人がこぞって有料メルマガを始めている時代を、それぞれの参加者はどう考えているのか、議論した。

2012年の時代において、有料メルマガが見直され、ソーシャルメディアとの親和性や、属人性による情報のキュレーション、編集されたもの、しっかりとコンテンツ化されたもの、情報過多な時代だからこそ、信頼の置ける人からの情報が大事になってきた、など、それぞれのテーブルでは、様々な議論がされた。

2セッションおこない、テーブルを途中で入れ替え、多様な意見を聞き、参加者同士白熱した意見のぶつかり合いがおこなわれた。最後は、クラスを担当した講師陣などの意見や、それぞれのグループで発表された意見をシェアした。

議論において、情報の重要性編集・取材をされたもの、活動をしている人への応援やファンディングなど、という意見もあったが、それとは違い、「そもそも有料メルマガは流行っているのか」という疑問の声も多くあげられた。”有料メルマガが流行っている”という言説自体に対する、現実としての客観的な分析をおこなう意見がでるなど、自分たちの意識をもって、問題に対して向き合うことができたワークショップだった。

WebSig1日学校2012を通じ、参加者の多くはこれまでの日々の環境から解き放たれ、今ではなく、これからウェブがどうあるべきか、いまの社会がどうあるか、そして、これからの時代がどうあるべきか、ということについて、多くの考えや発想をもてる1日を過ごすことができた。

ウェブが特別なものではなく、一般化され、社会の様々なところに広がるからこそ、まだまだ多くの可能性や、新しい使い方やあり方などが考えられるだろう。そうした思いをもち、これからの社会を私たちがどう生きるか、これからも日々考えていきたい。

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