この記事をゲスト寄稿してくれたのは、日本の内外のスタートアップやテックを紹介するのに精力的な美谷広海さん。1975年フランス生まれ。引越し歴14回。ゲーム,モバイル,
クリス・アンダーソン氏の著書「メイカー」が話題となり、日本でもメイカームーブメント、モノ作りへの注目が集まっている。
そうした中で、個人メーカーとして活動するBsizeの八木氏にITベンチャーgumiの國光氏、著書「ソーシャルもうええねん」が話題となったクレイジーワークス村上氏などが参加したMakers Summitという異色のイベントが12月3日に開催された。参加者は、スタートアップ関連とメーカー関連がそれぞれ2割弱、デザイナーが1割、その他、
余談だが、メイカーはアンダーソン氏の著書MAKERSでさしている創る人を意味しており、メーカーは従来どおりの製造業をさしている。
たった一人の家電メーカー
メイカームーブメントで話題となったのが誰でもメーカーになれる時代になったということ。それをまさに実践したのが八木氏だ。富士フィルムでエンジニアだった八木氏は、小田原の自宅兼工場でSTROKEというパイプを曲げて制作したシンプルなLEDのデスクライトを開発。開発期間は10ヶ月で、昨年末に販売している。クラウドファウンディングによって小ロットでも製造販売が現実的になったこの製品は、初期ロットとして100台を制作し完売。続けて近くの町工場に依頼し1000台を制作することが出来るようになった。
(Bsize八木氏の代表作STROKE)
3D CADソフトが安価に手に入り、試作品をつくるのが用意になったことも一人で製品を開発する後押しとなったが、耐久試験を行うために肉まんの保湿機の中に試作品を入れて40日間連続点灯を行うといった工夫も行ったという。
誰しもができるということは価値が薄れているということ?
そんな八木氏は製品をつくるのが容易な時代になったからこそ、どこにモノづくりの価値が残るのかを考えているという。誰でもできるということは裏を返せば、ただ物を作るだけでは価値が生まれなくなるということだ。八木氏はそのために2つの方向性があると考えている。
ひとつは、「デジタルの追求・非物質化・ソフトウェア化」。製品だけではなくその上で動作するソフトウェアやトータルのサービスを含めて一連のコンテンツのように提供されるようにモノがなっていくという可能性。
もうひとつは、八木氏が行っている「アナログの追求」。芸術と工業を融合し、職人の技術により他では実現できない製品を生み出す。STROKEでは鉄パイプにしわを入れずに曲げ、マットな塗装と質感を実現している。
完璧ではない製品が許容できるか?
八木氏の講演に続いたのが、gumi代表の國光氏とクレイジーワークス代表村上氏の対談。対談でも課題としてあげられたのが、製品保証のあり方だ。誰でもメーカーになれるようになり敷居が下がった分、どのように製品を保証し質を保っていくかが鍵となる。一方で過剰な品質保証は新しい商品を生み出す上での負担・障害にもなり得る。
完璧じゃない製品をいかに許容できるかが、新しい製品を生み出していく上では必要にもなってくるのではないか。議論の中で「人の顔が見えると許せるのでは?」という話になった。クラウドファウンディングのように作り手が見えていれば、購入者も多少の不具合には目をつぶるし、ユーザーから作り手へのコミュニケーションもクレームではなく柔らかいものになっていくのかもしれない、ということだ。逆に言えば大手メーカーは作り手の顔が見えないからこそユーザーが強くクレームを言いやすいということになる。
「アップルの場合は、ジョブスが作り手の顔だし、ジョブスがああいうやつだからしょうがない、となったのでは?」大手企業でも作り手の顔が直接見えなくても、作り手の想いがユーザーにより伝わるようになればユーザーと作り手が対立関係ではなく、よりいい関係になれるのではないかとトークは白熱した。
ITは雇用を(あまり)産まない?
gumiの國光氏は、今のメイカームーブメントにより、ウェブで起こった大きな変化と同じような変化が今後生まれていくのではないかと考えているという。そしてこの分野にも積極的に投資をしていきたいと考えている。そしてウェブの良くないところとして、「雇用を(あまり)産まない」ことをあげた。
「ITだけでなく、製造業も人件費を考えると開発は他の国でやったほうがいい。日本の製造業が厳しいのは間違いないが、この分をIT業界だけでしょうのは厳しい。」その上で、メイカー領域で一番大事なのが職人である一方、日本の職人は英語がしゃべれずコンピュータを使えない人も多いため、そうした職人の不得意分野を若者がサポートし、高齢者の職員を有効活用できるのではないかと提案した。
「世界からアクセスしにくい職人が日本人には眠っている。それを活用すれば高齢問題の解決にもなる」と、職人と若い人とのコラボレーションが大事であると語った。
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