【インタビュー】Gumi Asia CEO、David Ng(伍明華)氏に聞いた、アジアのゲーム市場の攻め方

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The English version of this article is available here.

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ソーシャルゲーム・デベロッパの Gumi がシンガポールに進出して約1年が経過した。昨年4月、Gumi はシンガポールに現地法人 Gumi Asia を設立、ホームユースのルータ・ベンダ Linksys(Cisco Systems に買収された後、先月、個人向けデバイスメーカー Belkin に売却)や ゲーム大手の Electronic Arts で敏腕を奮った David Ng (伍明華)氏を CEO に起用した。

先週のシンガポール滞在中、David Ng 氏にインタビューする機会に恵まれ、今後のシンガポールを中心とした Gumi のアジアでのビジネス展開や、アジア進出を狙う日本の起業家へのメッセージを聞くことができた。


Q. 現在シンガポールを拠点に Gumi Asia のアジア地域での営業展開を進めておられます。現在、どのような体制で運営されているのでしょうか。

David:
シンガポール・オフィスは75人のチームです。1チーム20〜25人前後のチーム体制を敷いていて、シンガポールだけで3チームが仕事をしています。1つのチームが1つの開発ラインに相当しますので、現在は並行して、3つのゲームタイトルを開発していることになります。

シンガポール以外に、台北、ジャカルタにもそれぞれ開発チームが居り、3拠点あわせて110人を私が統括しています。週に一度はそれぞれの拠点と Polycom(テレビ電話会議システム)で打合せをし、月に一度はそれぞれの現地に行って、プロジェクトの進行状態を確認しています。私は十カ国語を話すことができるので、それぞれの国のチームとのコミュニケーションもうまく行っています。

Q. Gumi は特にアジア市場に注力して営業展開されています。アメリカやヨーロッパ市場ではなく、アジア市場を攻めておられる理由は何でしょうか。

David:
いくつか理由が挙げられるでしょう。この地域は新興市場であり、Gumi のゲームタイトルの潜在ユーザとなるモバイル人口が急速に増加しています。それに、他の市場で Gumi の名前を出しても、正直なところ、まだそんなに知名度があるわけではありません。アジアでは Gumi はその名を知られたので、そこでビジネスしているというのが現在です。

また、アメリカでは、一部のゲームでユーザ獲得コストが一人当たり6ドルかかった、という事例も耳にしていますが、これは我々が受け入れられる数字ではありません。このような理由から、アジアでの営業展開に注力しているわけです。

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Gumi Asia のハロウィーン・パーティーにて。CEO と社員の皆さん。
(Gumi Asia Facebook ページより転載)

Q. Gumi の中で、Gumi Asia が持っている役割は何でしょうか。ゲームタイトルの営業展開だけでなく、アジアの複数の都市に開発拠点を展開することで、どのようなメリットがあるのでしょうか。

David:
ゲーム・デベロッパというのは、平均的なスタートアップとは違ったビジネス戦略を持っています。彼らのように、マーケット・ディスラプティヴなプロダクトやサービスを出してユーザを獲得するのではなく、ひたすらユーザを魅了するゲームタイトルを出し続ける必要があります。そんな中から、大ヒットとなるゲーム・タイトルが生まれるわけです。

限られた資金で多くのゲームタイトルを出すには、一つのゲームタイトルの開発コストを抑える必要があります。例えば、台湾ではシンガポールの半分のコストで人を雇うことできますし、インドネシアでは月に500ドル出せば、高品質のデザインが描ける社員を雇うことができる。各都市の社員が持つスキルをうまく組み合わせることで、我々は高品質なゲームタイトルをより多くリリースできるわけです。平均的な日本のゲーム・デベロッパが1本のタイトルを出すコストで、我々は3本のタイトルを出すことが可能です。

Q. アジアの他の国々はどうなのでしょうか。例えば、最近、ベトナムなどは非常に脚光を浴びています。

David:
ベトナムは非常に成長してきていますね。市場の成長と共に給料も上がって来ており、インドネシアと同じくらいの水準(≒月給500ドル)になってきました。ベトナムには優秀な人材が多いのですが、残念なのは、彼らにはまだ、ビジネスのサクセス・ストーリーが無いことです。ベトナムから有望なスタートアップが出てくれば、非常に伸びしろの大きな市場だと思います。

Q. 昨年末、コナミがシンガポールに進出しました。ゲーム・デベロッパにとって、シンガポールは魅力的な立地なのでしょうか。

David:
昨年、コナミ・シンガポールができたときには、社長が私を訪ねて来て歓談しました。 Gumi はまだ小さく歴史も無い会社なのに、シンガポールに進出した多くの企業のエグゼクティヴが私に意見を求めにやってきます。(シンガポール政府のIT振興機関の)MDAのエグゼクティヴは、新聞で Gumi のことを大々的にゲーム人材を雇用しているとして、言及してくれました

シンガポールには、イノベーション・ビジネスに対する手厚い政府の支援があり、PIC(Productivity and Innovation Credit、生産性・技術革新控除)の中で、最大400%の税金減免と、投下した設備コストの60%がリファンドされます。英語や中国語への翻訳も比較的容易にできるし、所得税が最大で17%というのもよく知られています。実際に我々も、シンガポール拠点の開設にかかった費用の一部を政府から援助してもらいました。アジアに進出したいスタートアップがシンガポールを目指すのは、スマートな選択と言ってよいでしょう。

ただし、日本企業がアジア地域に進出する上で注意すべきなのは、短期的な成果を求めないことです。3ヶ月〜6ヶ月とかでは結果は出ません。せめて3〜5年間位のスパンで考えるべきです。そして、日本の経営スタイルをそのまま持ち込まないこと。これは東南アジアのどこであれ、概して、あまりよい結果をもたらしません。

Q. これまで、Linksys や EA で敏腕を奮われるなど、すばらしいサクセス・ストーリーを歩んでこられました。ここに来て、将来はわからないスタートアップの一員になられたのは、なぜでしょうか。

David:
タイ経済危機後の1998年、私は Linksys の CEO と共同事業を行い、アジア地域の Linksys 事業を立ち上げました。2003年、Linksys は Cisco に5億ドルで売却されたので、私は若い頃から起業家として成功することができました。(このくだりについて、一部内容に誤りがあったため、訂正しました。)

しかし、Marina Bay Sands の近くで國光氏(Gumi グループCEO)に会って、彼が目指している方向性や夢を聞いているうちに、彼と一緒に仕事をしたいと思いました。これはお金のためではありません。Linksys や EA のときとは違い、Gumi はすべてを一から作らなければならないスタートアップです。これは非常にチャレンジングな体験だと思ったのです。

Q. 最後に、Gumi Asia で現在取り組まれているプロジェクトやゲームについて教えてください。

David:
スマホゲームの世界では、ウェブアプリからネイティヴアプリへとシフトしていくのが、今年のトレンドだと思います。Gumi の福岡オフィス等で開発されたウェブアプリのゲームを、ネイティヴアプリ化してゆく、というのも、我々シンガポール拠点のミッションの一つです。今後、ゲームは100%ネイティヴで作っていくことになるでしょう。4月16日リリースの Puzzle Trooper はその代表格です。(Android アプリはここからダウンロードできる)

非常にグラフィックが美しいでしょう? また、主にインドネシアでゲームをデザインした、別のスロット・アプリも今月末までにリリースする予定です。楽しみにしていてください。


David Ng と話していて感じたのは、彼は単なる日本企業の現地法人社長ではなく、その考え方は起業家というより投資家であって、業界世界一を目指す創業者と共に夢を追いかけたいという野心の持ち主だ、ということだった。彼は貴重な週末の時間を割いてインタビューに応じてくれたが、幸せそうな家族の写真を私に見せながら、「私もシンガポーリアンである以上、シンガポールがさらなる成長を遂げられるように尽力したい」と抱負を語った。

David Ng のような人物をチームに獲得できたのは、アジア市場、そして、ゆくゆくは世界展開の席巻を展望する Gumi にとっては非常に幸運なことだと思う。スキルや知見はもとより、同じ夢を描けるパートナーを見つけられるかどうかが、日本のスタートアップが世界進出を図る上で、大きなカギになることだろう。(了)

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