新経済サミット〜Jess LeeとMichelle Phan、シリコンバレーの女性起業家2人が語るインターネットの未来 #NES2015

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これは、新経済サミット2015 の取材の一部だ。

先週、東京で開催された新経済サミットの中で、筆者が周囲で「面白かった」と賞賛の声を多く聞いたのが、ファッション・コーディネイト・サイト「Polyvore」の創業者 Jess Lee と、YouTuber として名を馳せるメイクアップ・アーティスト Michelle Phan の2人によるファイヤサイド・チャットだろう。Jess Lee は一昨年の Mashable Innovation Index 2012の 選考委員にも選ばれているし、Michelle Phan は今月初めにライフスタイル番組 ICON を立ち上げるなど、話題に事欠かない人物だ。

Jess と Michelle のセッションは「New Woman Power!/世界を代表する女性起業家たち」と題されたものだったが、スタートアップ界において女性起業家のプレゼンスを説くような類ではなく、彼女達が自分たちの信念に基づいて、やりたいことをやり続けた結果、起業家として成功したというストーリーは興味深い内容だった。このセッションは、新経済連盟の代表理事で、楽天の会長兼社長を務める三木谷浩史氏がモデレートした。

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左から:ipsy co-founder Michelle Phan, Polyvore co-founder & CEO Jess Lee

Michell Phan が YouTube に動画をアップロードし始めたのは、YouTube が Google に買収された2年後の2008年のことだ。レストランのウエイトレスだった彼女はメイクアップの方法を YouTube にアップしはじめ、次第にアメリカの若い女性達からファンを集めていく。

2011年に化粧品の定期購入サービス「ipsy」を共同創業、自分が欲しい化粧品を欲しい通りに定期に届けてくれるサービスとして、現在もアメリカで支持を集めている。日本をはじめとするアジアで、定期購入サービスの元年と言われたのが2013年、一世を風靡した定期購入サービスの多くが今では鳴りを潜めたが、ipsy は現在も順調に成長をつ付けている。

2013年には、化粧品大手の L’Oreal とともに新ブランド「em michelle phan」を立ち上げ。これまで L’Oreal は、誰かと新ブランドを立ち上げるということはしなかったので、この出来事は化粧品業界にとって歴史的な一ページとなった。

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一方、Jess Lee はカナダ生まれで香港育ち。スタンフォード大学でコンピュータサイエンスを学び、Google で Google Maps のプロダクトマネージャーになった。彼女の母は日本人だが、母が起業家であり母の起業家人生を間近に見てきたので、自分が起業することはごく自然なことだったと語る。

アメリカ版 iQON とも言える、着こなしやファッション・スタイリングが共有できる Polyvore を2007年に設立。現在 Polyvore には2,000万人のユーザがいて、コマースサイトやオンライン小売店舗への送客量では、ソーシャル・コマースとしてアメリカで2位の座に君臨する。

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成功の秘密

華やかな女性起業家としての魅力のみならず、アメリカンドリームを地で行く二人に、三木谷氏はこの質問を投げかけずにはいられなかったようだ。彼の「成功の秘密は?」との質問に、Michelle は次のように答えた。

秘密なんて無いわ。私はすべてをオープンにお話ししてきた。ただ、メディアが変化すれば、やり方も変化していく。それに対応して、すばやくピボットしてかなくちゃいけない。自分がやりたいことにパッションを持つべき。そして、起業家は CEO とか、COO とか、広報とか、あらゆる役割を一人で果たさなければならない。

もう一つ言えることは、ストーリーテラーになるべき、ということ。商品を売ろうとするんじゃなくて、商品の背景にあるストーリーを人々と共有すべき。(Michelle Phan)

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ipsy co-founder Michelle Phan(左)

ウェブメディアの行方

Gigaom が終幕を余儀なくされた一方で Buzzfeed が着実に読者を伸ばしているのは顕著な例だが、テック・ニュースメディアに限らず、あらゆるメディアはその形態に変化を求められ続けている。自らメディア事業を運営し、メディア・スタートアップの買収を続ける楽天にとっても、メディアの動向は気になるところだろう。

三木谷氏の「十年後のメディアはどうなっていると思うか?」との質問に、Jess は次のように答えた。

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Polyvore co-founder & CEO Jess Lee

優れた才能を持った人が各所に現れ、世界中でユーザ・ジェネレイティッド・コンテンツが生まれるでしょうね。そして、メディアは2つの形に分かれていくと思う。

一つはプロフェッショナルが制作する形。奥深く考察を掘っていくようなものですね。もう一つは、いわゆるシチズン・ジャーナリズム。スマートデバイスなどを使って、街でビデオを撮ってアップロードされるようなスタイルだ。(Jess Lee)

女性起業家の台頭

日本の実業界のエグゼクティブには、まだまだ女性が少ない。雇用機会均等法が施行されて今年で30年、長らく男性主導だった日本で、状況が即座に好転するのは期待薄かもしれないが、比較的若い世代が多く、社会慣習を踏襲する必要のないスタートアップ界においては、女性リーダーの活躍が大いに期待できるだろう。

アメリカからの視点ではどうか。

たぶん、将来、男性版の(人気 YouTuber としての)Michelle Phan が世界じゅうに現れるでしょう。でも、家庭の購買力の80%は主婦が握っているので、どんな女性達がどんなものを欲しているか知るのは重要。女性が財布を牛耳っているので、女性向けのサイトが出資を受けやすいかもしれない(笑)。

数週間前にサウスバイサウスウエストに行ったのだけど、50人もの女の子達が私の前に並んだの。(胸に手を回して)スマートフォンで、ブラジャーのサイズを測るようなアプリもあったわ。(Michelle Phan)

女生起業家にとってロールモデルは不足している。リーダーがいない。ただ、私は母が起業家だったので、私にとっては、一般女性が CEO になるのはごく自然なことだった。私が Google に入ったときボスは Marissa Mayer だったのだけど、彼女が言っていたのは、より居心地がよくくなるように努力しなさい、ということだった。(Jess Lee)

母も起業家だったという Jess の話を聞いて筆者が思ったのは、果たして、起業家の息子や娘は将来、起業家になるのだろうか、ということだ。起業家精神は遺伝的に伝播するものではないけれど、起業家である親の歓喜や苦悩を間近で見て育った子供にとっては、起業が人生の選択肢の一つになるのは当然のことだろう。

Jess Lee、Michelle Phan の益々の活躍と、日本における女性起業家の台頭に期待したい。

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