琉球銀行と沖縄タイムス、「Okinawa Startup Program」のデモデイを開催——国内9チームに加え、台湾から4チームも参加

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琉球銀行と沖縄タイムスは23日、沖縄県恩納村の沖縄科学技術大学院大学(OIST)で「Okinawa Startup Program」のデモデイを開催した。このプログラムは2年前に琉球銀行が単独で運営を開始、2回目からは主催者に沖縄タイムスが加わり、今回で通算3回目を迎える。

琉球銀行 取締役頭取 川上康氏

今回の3回目のバッチには合計13チームが参加、国内9チームに加え、台湾政府の工業技術研究院(ITRI)に昨年創設されたスタートアップ支援組織 Taiwan Tech Arena(TTA)の協力を得て、台湾スタートアップ4チームも参加した。TTA は台湾の上位大学の教授らが中心となり、大学から生まれた研究成果を商品化へとつなげるプログラムだ。

Taiwan Tech Arena の Michael Ho 氏

今年は SLUSH TOKYO と日が重なったこともあって、東京から参加した投資家はあまり多くは無かったようだが、このプログラムも回を連ねるに従い、沖縄内外からまた新たな顔ぶれが参加者に増えつつあるようだ。特に、日本市場進出を狙う台湾スタートアップに対して、地理的にかなり近い沖縄をローンチパッドにしてもらおうというのは興味深い試みだ。

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以下に参加全チームの発表内容を紹介する。

PoliPoli(日本・鎌倉)

PoliPoli は、政治とまちづくりをテーマとしたオンラインコミュニティを運営する PoliTech スタートアップだ。有権者から政治家へのワンクリック献金の仕組みの手数料、政治家が参加する際の月額課金、また、仮想通貨を発行するプロジェクトが立ち上がった際には、その通貨発行益でマネタイズする。

先月のアプリ正式版ローンチ以降、ダウンロード数は12,000件を突破しており、政治家も300名ほどが参加しているという。うち8割が地方議員、残りの2割を国会議員が占める。神奈川県とはプラスチックゴミ問題の解決に向けたアイデア募集についての連携、沖縄タイムスとは24日の県民投票に向けたキャンペーンで連携した。

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Micro Smart Grid by 3Egreen Technology/展緑科技(台湾)

3Egreen Technology(展緑科技)は、外部電源を必要としない IoT デバイスを使って電流の動きをモニタし、異常の予兆を検出することで電気事故を未然に防ぐ技術を開発している。現在では、この技術が節電に応用され、タイのセブンイレブンや Advantech のスマートビルなどに(PoC ではない)一般導入が進んでいるという。

日本では、大崎電気や日本システムウエアと共同で、高齢者の行動モニタリングのための PoC を実施中。高齢者施設のほか、高齢者住居のリビングルーム、キッチン、トイレなどに導入することで、高齢者に有事があった場合にそれを検出し関係者に通知することができる。デバイス販売、クラウドサービス、分析報告などでマネタイズ。台湾から東南アジア各国に展開中。

FunNow by Zoek/曙客(台湾)

FunNow は、飲食店、マッサージやスパ、温泉、美容サロンなどの直前予約アプリだ。近くにある店舗の最短15分先までの予約が可能で、クレジットカード、LINE Pay、Apple Pay で事前決済できる。ユーザは FunNow から発行されたクーポンコード6桁を店舗に提示するだけでサービスを受けられ、ユーザ心情に配慮し最低限の個人情報を入力するだけで使えるようになっていることも特徴。店舗には BossNow というアプリが提供されており、FunNow でユーザに提供する空席情報と価格調整(ダイナミックプライシング)ができる。セール情報を FunNow のユーザに告知拡散することも可能だ。

2016年に台湾で始まった FunNow には、台湾だけですでに50万人のユーザがいる。30日以内の利用リピート率も40%と高い。2017年に香港と沖縄、2018年にクアラルンプール。そして、今年に入り日本支社を設立しており、日本の都市各地に進出予定。ダウンロード件数は70万件、3,600店舗を超えている。台湾では LINE との提携により、LINE クーポン(LINE 酷券)経由の店舗予約が FunNow アプリのインストール如何に関わらず、FunNow 経由で実行される。昨年8月には Alibaba から500万ドルを資金調達しており、AliPay にも対応する計画だ。そのほか、台湾ミシュラン、UOB 銀行など多くの大企業との提携を実現している。

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オキマル by DIGILEAD(日本・沖縄)

沖縄を拠点にさまざまなアプリの受託開発を手がける DIGILEAD は、企業の自社チャットボットを開発しやすくするプラットフォーム「O-Chat」を有している。これをもとにリアル店舗ではまずまずの売上を確保しながら、E コマースでの売上が伸び悩んでいるコーヒー屋にチャットボットを導入して自動応対・多言語対応を実現したり、古民家を利用した宿泊施設でクラウドファンディングを利用した販売促進を実現したりしている。今回のプログラム参加を通じ、日本トランスオーシャン航空と沖縄タイムスと、それぞれ、採用支援アプリや新規メディアアプリを開発中だ。

また、同社は O-Chat をベースに台風災害ロボット「オキマル」を開発する。沖縄ならではの悩みとも言えるが、台風や地震などの災害関連情報は各所に分散しているため、それを一ヶ所に集約して配信、チャットボットにより自動応答する仕組みを想定。クラウドファンディングで初期開発コストを調達し、サービスは一般利用無料、非常時常備品の E コマースでマネタイズする。今年6月にβ版、10月に本格リリースを計画しており、台風が最も多い時期にβ運用することで、ユーザからの意見を積極的に募りサービスの改善につなげる。年内10万ユーザ、最終的に50万ユーザの確保が目標。当面はウェブスクレイピングで情報を集めるが、将来には地方自治体らの協力を得て、独自の情報入手ルート開拓にも務める。

AWA PASS by OKT Communications(日本・沖縄)

OKT Communications は、泡盛のサブスクリプションサービス「AWA PASS」を考案した。ユーザは AWA PASS に月額600円を支払うことで、AWA PASS 参加飲食店で泡盛2杯までを無料提供してもらうことができる。お店は多額の集客コストをかけずに、新規顧客の開拓や常連顧客の活性化が可能になる。AWA PASS 提携店の登録料は無料。

2019年5月にまず沖縄県からスタートし泡盛市場の活性化を狙う。ローンチ初年度20万ダウンロード、無料会員数10万人、有料会員数2万人が目標。将来は、サービスを全国地域や泡盛以外の種類などにも広げ、地産地消プログラム、新商品のマーケティング、インバウンド集客などでマネタイズを図る。

カイコ無細胞タンパク質合成系と新規高分子セリシンの実用化 by Silk Renaissance(日本・沖縄)

Silk Renaissance は以前、島津製作所で昆虫培養無細胞タンパク質合成技術に関わっていた伊東昌章氏が、沖縄高専発ベンチャーとして新たに誕生させた創薬支援系のスタートアップだ。カイコの絹糸腺を抽出し、試験管の中で迅速に目的タンパク質を作り出す技術の開発に成功。さらに、絹糸腺細胞から再生医療分野で有用な高い細胞増殖促進能を持った高分子セリシンの開発に成功した。

新薬開発に必要な疾患関連タンパク質を迅速に作れるため、創薬支援を想定して製薬会社への販売でマネタイズを考えている。また、再生医療においても基礎研究から臨床研究へと発展してきているため、再生医療を扱う期間に対し、細胞培養増殖促進剤や細胞培養足場を販売する計画。長期的には、創薬支援だけでなく、自らもインフルエンザワクチンの製造など創薬事業への進出を目指す。

Tadoru by Re:Build

Re:Build は、知り合いを〝たどって〟システム開発を依頼できるサービス「Tadoru」を提供。中小企業にとっては、エンジニアを雇うための募集コストがあまりかけられない、フリーランスや副業エンジニアにとっては、従来のエージェンシー経由で仕事を得ると紹介料を多く取られる、などの課題がある。一方で、同社の調査によれば、フリーランスや副業エンジニアの43%は、知り合い経由で仕事を得ていたことが判明。これらのことをもとに、エンジニアに縁の無い企業に対して、信頼できる人経由で知り合いのエンジニアを紹介してもらえる機会創出の仕組みを考案した。

Tadoru では、システム開発を依頼したい企業が、自社が頼れそうなエージェント(インフルエンス力がある、フリーランスエンジニアやエンジニア出身者)をプラットフォーム上で選び、そのエージェントに依頼して開発を依頼できるフリーランスや副業エンジニアを探し出す。こうすることで、依頼企業は社内にエンジニアのレベルを判断できる人材がいなくても、一定の信頼度で優秀なエンジニアを見つけることができる。成約1件あたり5万円〜15万円の手数料を企業から徴収し、7割をエージェント、3割を Re:Build で受け取る。サービス初期段階での登録見込エージェントは100人程度、登録見込企業は20社程度を確保している。

Air Drive Thru by Vintage(日本・沖縄)

Vintage は、飲食店を経営する4人で結成されたスタートアップだ。飲食店の来店客に尋ねたところ、彼らの持つ不満の多くが来店時の駐車に関するものだった。小規模店舗では駐車場が少ないため、すぐに満車になっしまう。また、店内がすでに満席になる、レジに並ぶ必要が生じるなどの不満もあった。そこで Vintage が考案したのが、設備や追加人員を必要とせず、店舗に仮想的にドライブスルーの販売機能を作り出すことができるサービス「Air Drive Thru」だ。

ユーザは地図上から近くにある加盟店舗を検索。アプリから事前決済により注文を完了し店舗へと向かう。GPS 連携によりユーザの車が店舗に近づくと、店員が商品を持って店頭に出てきて渡してくれる。ユーザが渋滞に巻き込まれ到着が遅れても、店舗はその状態をリアルタイムで把握できるため、調理の開始タイミングを調整して対応することもできる。ApplyPay、クレジットカード、デビットカード、専用マネーアプリ「カウリー」で決済可能。カウリーには単価の低い飲食の決済などに最適化された独自プライベートブロックチェーン「島チェーン」が採用されており、カウリーで決済した注文は、島チェーン上の店舗毎のブロックに全て記録される。

Ageshio Japan(日本・沖縄)

Ageshio Japan は、空手発祥の地である沖縄で、空手道場にやってくる外国人向けの旅行会社だ。インバウンド空手ツーリズムの活性化を狙う。空手の競技人口は全世界で1.3億人で、武道の中では最も人数が多いスポーツだ。2020年の東京オリンピックからは正式種目化されるため、この値はさらに上昇基調にある。一方、それとは対照的に沖縄県下にある400以上ある空手道場のうち専業は6.4%に過ぎず、空手道場主の6割以上が60歳以上であるため、ウェブでの情報発信、多言語対応などが難しいという課題がある。

Ageshio Japan では、空手道場と連携した英語版ウェブサイト、Facebook ページの開設、合宿イベントの運営などを通じて大きな潜在ニーズがあることを確信。聖地巡礼ツアー、観光主目的来日客の空手体験、座禅など他の旅行体験、沖縄以外の地域への観光希望など、ユーザからはさまざまな要望が寄せられたという。将来は、空手家だけでなく旅行者全体をターゲットに、日本全土や空手以外の武道にも事業拡大を目指す。商品開発の連携先、行政との連携施策、商品開発のための資金調達を模索している。

Umbo Computer Vision/盾心科技(台湾)

Umbo Computer Vision(盾心科技) は、ビデオカメラを使ったセキュリティ監視のための AI を開発している。従来、ビデオカメラを使ったセキュリティ監視では警備センターなどで人が行なっていたが、見落とし問題や人手不足などの理由から自動化されつつある。一方、セキュリティ監視の対象となる環境は多岐にわたるため、映像から異常な状態を検知し警報を出すのに一般的なディープラーニングを採用するのでは不都合が生じる。天気の状態、車のヘッドライトの映り込み、動物の侵入などが原因で誤報が頻発するからだ。

Umbo のシステムでは、ビデオカメラからの映像をクラウドに送信し、クラウド側での異常判定に独自のデータセットを採用しているため、あらゆる環境において90%以上の精度で正しく警報を発することができるという。フェンスを越えての侵入、不審者のうろつき、立ち入り禁止エリアへの侵入などの検知に利用可能。Umbo のカメラだけでなく、従来導入済みの他社カメラも使えるのが特徴だ。現在、32カ国で導入され、Fortune 500 の350社以上と取引実績がある。Nvidia GTC 2016 ECS で最優秀賞など受賞歴多数。日本市場参入にあたり、日本でパートナーシップを組める企業を求めている。

Sligrid(台湾)

Sligrid は、チーム生産性を向上させる SaaS だ。利便性の高いテンプレートを提供することで属人性を排除し、アイデアや知識の共有の効率化を図る。チーム内におけるコミュニケーションのやりとりなら Slack、タスク管理なら Trello ならば、コード共有なら GitHub が使われるように、知識の共有なら Sligrid と言われるような存在を目指している。

知識が整理されて中央に集められた Wiki とは対象的に、ブレーンストーミングなどチームの知識を総動員してアイデアを練るようなプロセスに非常に向いているという。約30カ国からアーリーアダプター5,000社以上の利用があり、50%超に1週間以内の再利用が確認できているそうだ。

自転車創業(日本・東京)

電車やバスといった一次交通だけではたどり着けない目的地に、ラストワンモビリティに自転車を持ち込むことで観光体験を最大化しようとするスタートアップが自転車創業だ。同社が運営するメディア「FRAME」には毎月70〜80万のユーザが訪問し、半年ほど前に立ち上げた、サイクリングスポットに特化したコミュニティアプリ「RoadQuest」は、保険提供を強化し今年にもマネタイズを始める考えだ。

Okinawa Startup Program を通じて、沖縄の人々向けには、沖縄タイムスと共同で自転車インフルエンサーによるファンミーティングや、沖縄で事業展開している自転車企業との協業したイベントなどを計画。また、沖縄以外の人々向けには、JAL が開発した自転車輸送プロダクトで連携する。自転車 YouTuber けんたさんを起用した久米島ツアーの動画を近日 FRAME で公開予定で、宮古島や石垣島など他の島への展開も計画している。

運転代行プラットフォーム by Alpaca.Lab(日本・沖縄)

Alpaca.Lab は、琉球大学との共同研究により運転代行業界の最適化を図ろうとするスタートアップだ。運転代行を営む業者は全国に8,850あり、なかでも交通事情から沖縄が国内最多の数を誇る県だ。一方で、運転代行は料金が不明瞭だったり、飲食店などで呼び出してから到着するまでに30分から2時間程度を擁したり、違反行為の前歴のある業者を見つけるのが難しかったりするなど、多くの課題がある。

Alpaca.Lab が構想するサービスでは、ユーザが自分の車の特徴をアプリに入力しておくことで、その車の運転に適した最適なドライバーを付近からマッチング。運転代行業者に対しては、いつどこでどのように運転代行が実施されているか、どのように売上が立っているかをもとに AI で最適なドライバー配置を提案できる仕組みを開発する。運転代行業者からマッチング成立時に料金の10%程度を手数料として受け取りマネタイズする計画。行政、警察、運転代行業者などと連携し、社会的摩擦を生まないモデルを目指す。


一連のピッチ終了後には、眺めの良い OIST のボールルームで懇親会が開かれた。上間弁当天ぷら店の「CATER4U」が用意したケータリングに舌鼓を打ちながら、参加者一同はスタートアップが披露した新たなサービスを中心に、企業間のコラボレーションの可能性などで話に花が咲いた。

これまでに Okinawa Startup Program から輩出されたチームには、プログラム修了を機にシードラウンドの資金調達を完了し、次のフェイズへとステップを進めたスタートアップがいくつかみられる。今回発表されたアイデアの多くは、2019年中のプロダクトやサービスのローンチを目指しており、その機会に改めて成果を披露することができるだろう。

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