旅のストーリーが個人を強くする時代

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smartphone beside watch and camera
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トラベル業界の2019年を振り返ると、大きく分けて2つの領域に資金が集まった印象です。1つはオンライン・トラベルエージェンシー(OTA: Online Travel Agency)市場。

なかでも今年はソフトバンクビジョンファンドによる「GetYourGuide」や「Klook」への連続大型投資など、孫正義氏が掲げる「群戦略」の一つにトラベルという領域が入っていることが証明された年でもありました。

また、OTAに対してサービスを提供する市場も大きく伸びた印象です。「ダイナミックプライシング」はバズワードとなりました。AIや機械学習を活用してOTA事業者の顧客データのパーソナライズ化を促進。各ユーザーに対してユニークな価格提案やサービス内容を設定できるといった内容です。同領域では、ピーターティール氏が投資する「FLYR」が市場をけん引していると思います。

brown wooden center table
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2つ目はAirbnbを筆頭とする民泊市場。こちらもまた、ソフトバンクビジョンファンドが新興OYOに投資するなど「〇〇版Airbnb」が数多く台頭し始めました。

まず、ビジネス向け旅行者に特化した民泊プラットフォーム「2nd Address」、ハイエンドな物件のみをリスティングする「Sonder」、一室丸ごと貸し出し&アーキテクチャーデザイナーによる部屋のデザイン性を売りとする「Lyric」が〇〇版Airbnbや、Airbnbの競合として頭角を現しています。(*LyricはAirbnbに投資されています。)

とはいえ、民泊市場においてAirbnbの絶対的王者感は否めません。たとえば同社ではビジネス向けに「Airbnb for Business」を提供、ハイエンド向けには「Airbnb Plus」と称しブランドサービス提供を始めています。

bedroom door entrance guest room
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Airbnbがリードするトラベル市場の中でユニークな動向を掴むには、Airbnbと一線を画している民泊スタートアップの存在を考えてみるとよいかもしれません。

たとえば、新築マンションを民泊化する「WhyHotel」、キャンプ場版Airbnb「Hipcamp」、ミレニアル世代をターゲットに旅行中のみ自身の部屋を民泊化できる「Leavy.co」などが挙げられます。彼らは単なる民泊ではなく、あらゆるトレンドを織り交ぜた市場戦略を採用しています。2020年以降、こうした特定コンセプト型民泊事業者が、ユニコーンへ近づく可能性は大いに考えられるでしょう。

ここまで上げた2つの市場領域は既に成熟しています。また、事例に挙げた企業らを代表として、思い立ったらすぐに旅行に出かけられる、旅行に出かけるまでの壁をなくすサービスを確立させています。

Airbnbは、宿泊地選定にかける時間・費用の短縮化、前述のLeavy.coであれば、旅の資金を半自動的にリアルタイムで生み出せる点で貢献していると言えるでしょう。このように、今後も全体的なサービス・クオリティーは上昇を遂げていくことが予想できます。

woman sharing her presentation with her colleagues
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さて、「ギグエコノミー」から「パッションエコノミー」へ、トレンドが移り変わっている点も見逃せません。個々人のスキルを活かして、いつもとは違った旅行体験を提供する経済圏に注目が集まっていくと感じます。

特別な旅行体験を提供するには「ストーリー」が重要になってきます。Hotspring代表取締役の有川鴻哉さんが自身の新サービスについてnoteで語っていたように、“旅行とはストーリー”であって、そのストーリーを旅行者同士が享受しあえる世界観がやってくるはずです。

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有川鴻哉さんのnote

ただ、ストーリーをうまく表現する、パッションエコノミー文脈で活躍するプラットフォームやサービスは、未だ誕生していません。しかし先行事例は登場しています。たとえば、P2P型で旅人と旅人をマッチングさせ、旅人同士ならではの視点でホテルのブッキングを代行する「TRVL」が挙げられます。

同社は、TripAdvisorにコメントを長文でつけている旅行者「Travel Pro」から直接アドバイスをもらいながらホテルを決めることが出来るサービスを展開。Travel Proは、プラットフォーム上で予約代行をすることでコミッションフィーがもらえるため、自身の経験・スキルを活かして稼げるパッションエコノミーを端的に表現しているサービスと言えるでしょう。

SNS性も持ち合わせている点も特徴で、今後ホテルブッキングに留まらず、スケジュールの立案や秘境フォトスポットなど、Travel Proだからこそ独自に提供できる旅行パッケージを作れるサービスにまで成長できると感じました。

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「旅人」という経歴も徐々に認知されるものになってきています。

日本ではTABIPPOが旅のエキスパートに特化した就職転職エージェント「旅人採用」を運営しています。今までFacebookやLinkedInの経歴欄は大学や職業、留学経験などが一般的でしたが、これからは「旅」における経験から自身の価値を表現することも可能になります。

こうした文脈こそ、「旅 × パッションエコノミー」を体現したものだと思います。旅行経験を単発で終わらせず、人生の中心に据え置き、キャリアに活かす流れは理にかなっています。

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仮想地球を提唱するEXA

将来的にブロックチェーンの考えを取り入れることで、新たなビジネスモデルも誕生するかもしれません。

たとえば、ブロックチェーンと位置情報を組み合わせ、旅行者が特定の場所・日時に立っていたことを証明するプラットフォームを成立できれば、「旅人版・LinkedIn」が可能になります。実際、ロケーションとブロックチェーンを組み合わせた例でいえば、メタップス創業者の佐藤航陽さんが個人で取り組まれている「EXA」がその例の一つでしょう。

同プロジェクトでは、現実世界の経済発展度とは真逆の「地球」を作り出しています。その「地球」を動き回り、経済発展度が低い箇所であればあるほど、トークン発掘量が多いなど、実際に移動する価値を作り出せていることが特徴です。

筆者は国外旅行を頻繁にしている視点から、EXAのように移動した事実を上手く価値表現できる仕組みには魅力を感じるのです。マイレージのような感覚でしょうか。

筆者がなぜ移動への価値にこだわるかというと、2016年7月6日にリリースされたアプリ「PokemonGo」が大いに関係しています。リリース当時、私が生活していたアメリカ・シアトルでも大きな話題となり、近所の公園には連日多くの人があつまり警察も出動するなどお祭り騒ぎでした。その時、人は根本的に移動することを好み、熱中するものなんだと肌で感じました。人の移動から価値表現をどう生み出すかを考えるきっかけとなりました。

もちろん今でも、YouTubeに動画を公開したり、ブログを書いたり、インスタ映え写真をアップロードするなど、旅行した価値を表現する方法はたくさんあります。しかし、従来のツールは単調なものになりやすい印象です。「旅 × パッションエコノミー」が到来し、旅が人生の中心の一つとなった時代には物足りなく感じるのではと思っています。ブロックチェーンを活用した、新たな価値創出に期待感を持っています。

ということで、2020年からのトラベル市場を考えると、今回説明してきたように、ブロックチェーンとの組み合わせが価値を表現するという意味ではベストだと考えています。「旅 × パッションエコノミー」をヒントに、もっと旅が楽しめる日がやってくるのを心待ちにしています。

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