私はフリーランス、小規模事業の時代が長い。
10数人の所帯で事業をする上で地味に苦しむのが会計だ。会計事務所に高い顧問料を支払ってすべてを任せるには処理量も多くなく、かといって代表がしこしこと経理精算しているほど暇ではない。
しかしそんな苦悩ともそろそろおさらばだ。
個人の資産と家計管理サービスを展開するマネーフォワードは11月29日、個人事業者および法人向けのクラウド会計サービス『マネーフォワード For BUSINESS』のβ版を公開した。
1399カ所の連結金融機関から入出金データを自動的に取得できるため、従来発生していた入力作業などの作業が大幅に軽減できるほか、確定申告や企業決算に必要な貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書などのレポートを自動作成してくれる。これらのデータは弥生会計など従来ソフトが利用できる形式にエクスポートも可能。
また、請求書を作成すると自動的に入金データからの消し込みや、未入金の場合に通知してくれるなど、日々の経理作業も自動化し、現在準備中のスマートフォン向けレシート読み取りアプリにより、諸経費などの自動読み込みにも対応するとしている。
ブラウザからの利用となるため、従来のクライアントインストール型の会計管理ソフトに比較して、WindowsやMacといったOS、iPadなどのタブレットのような端末に依存しないのも特徴となる。
なお、ビジネス向けのクラウド会計サービスではfreeeが先行しているが、対応する金融機関の数ではマネーフォワードが上回る。個人向けは月額980円、法人向けは月額1980円で提供される。
さて、私は前述の通り、個人事業の時から長らく弥生会計を使っていた。クラウド会計はながらく市場を占領していたこのようなクライアントインストール型のソフトをリプレイスするのが狙いとみるのが自然だ。
しかし会計関係は単にユーザーが使うだけでなく、会計事務所と利用ソフトを「合わせる」必要があるなど、そう簡単ではない。クリアのポイントはやはりクラウドならではの利便性になるだろう。
マネーフォワード代表取締役社長の辻庸介氏に話を聞く。
「個人や中小零細企業の経理というのは手作業でいろんなことやってるんですね。でもクラウド化することで、会計ソフトが簡単に経理担当だけのものじゃなくなるわけです。例えば経費管理は今後、各担当がそれぞれアカウントをもって入力できるようにしようと考えてます。
金融機関ともクラウドで繋がってますから、請求書を起こすと売掛金、入金された等の情報が銀行と連動して消し込みができるようになっている。便利なシステムにして時間を作れば他のことができるようになるわけです」。
辻氏がさらに強調していたのは、経営サポートツールとしての存在だ。オンラインでログインすれば財務3表がいつでも確認できる。もちろんある程度の規模の経営者であれば当たり前のことかもしれないが、個人や数人程度の事業所でこれをやれる環境は構築が難しい。
経営者にそもそも会計の知識があれば別だが、それをフリーランスにまで広げる意味は地味に大きい。辻氏は近い将来、ちょっとした質問に答えてくれる会計士のネットワークをつくり、このサービスの延長に据えることも話してくれていた。
「日々のカネの流れ」が理解できれば事業は格段に変わる。これは実体験からもいえる。
ただ若干残念だったのが請求書のレイアウトをまだいじれない点だ。私は窓アキの封筒を使っているため、対応するレイアウトでなければまだ使えない。辻氏はβ版でこのようなフィードバックを吟味し、スピーディーに対応していくと回答してくれていた。利用希望のユーザーはどんどん要望出すべきかもしれない。
最後に気になるライバルのfreeeについて辻氏に聞いたが「まだクラウド会計は出たばかり。共同戦線を張ってこの市場を拡大させる」と模範解答を返してくれた一方で、1年間運営してきた家庭向け資産管理サービスの顧客が数十万人と拡大しており、このレースの「最終勝者」となる自信もちらりと覗かせていた。
この市場は地味だが興味深い。
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