13〜14日の2日間、スタートアップへの投資・育成事業を行うインキュベイトファンドが開催する起業家と投資家の合同合宿「Incubate Camp 12th」が 、千葉県内のホテルで開催された。
Incubate Camp の参加対象となるのは、シードラウンドでの調達を求めているスタートアップに加え、すでにサービスをリリース済で、追加の資金調達やサポートを希望するスタートアップだ。2日間にわたって、スタートアップ16社をインキュベイトファンドの代表パートナー4名、13名のゲストベンチャーキャピタリストがメンタリング。2日目には、審査員10名を交えたプレゼンテーションが実施された。
入賞の是非とは別に、参加スタートアップはゲストベンチャーキャピタリストから投資を受けられる可能性があるほか、スポンサー各社からはウェブサービスの無料利用権など特典が進呈される。審査員らからは、いくつかのスタートアップに将来性を認められたとの声も上がっていたので、今回の Incubate Camp を経て、新たにいくつかの出資が実施されることになるだろう。
本稿においては、プレゼンテーションで披露されたサービスの概要についてお伝えしたい。個々のサービスの背景や詳細などについては、随時 THE BRIDGE で取材を進めていく予定だ。
Incubate Camp 12th のプレゼンテーションで審査員を務めたのは、
- GameWith 今泉卓也氏
- グロービス・キャピタル・パートナーズ 今野穣氏
- DBJ キャピタル 内山春彦氏
- ANRI 河野純一郎氏
- ANRI 佐俣アンリ氏
- INCJ 土田誠行氏
- 三井住友銀行 松永圭司氏
- ディー・エヌ・エー 守安功氏
- B Dash Ventures 渡辺洋行氏
- インキュベイトファンド 赤浦徹氏
…の皆さん。司会は、インキュベイトファンド アソシエイトの日下部竜氏が務めた。
総合順位(2日目のピッチのみによる評価)
【総合順位1位】Anyflow by Anyflow(審査員賞、スポンサー賞も受賞)
(メンタリング担当:WiL 松本真尚氏)
SaaS の普及・依存率は増えつつあり、日本企業の一社平均で20種類の SaaS を使っているという。SaaS の利用が増えると SaaS 間の連携が必要になるが、この API 連携の開発を社内エンジニアが個別対応するには、時間やコストを要してしまう。
Anyflow は、これら SaaS 間連携を半自動化する iPaaS 環境だ。海外にも同様の iPaaS プロバイダは存在するが、言語障壁の理由から日本市場では競合になりにくいとのこと。また、日本特有の市場環境として社内システムとの連携も必要になることなどから優位だという。
【総合順位2位】アグロデザイン・スタジオ
(メンタリング担当:インキュベイトファンド 村田祐介氏)
無農薬野菜を求める声は多い中、野菜の全生産量に無農薬野菜が占める割合は0.2%に過ぎない。そこで使われている農薬を、身体へのリスクが低いものに変えようというのがアグロデザイン・スタジオのアプローチだ。これは世界的な流れでもあって、アメリカで除草剤が原因でガンになったと訴えた Dewayne Johnson 氏が農薬メーカーに勝訴したのを機に農薬メーカーの株価は下がり、また、ヨーロッパではミツバチに悪影響を与えるとされるネオニコチノイド系列農薬の禁止になるなど転換期にある。
特定の害虫などに対して、ピンポイントで効能のある農薬が求められており、医薬と同様に、農薬の創薬プロセスの一翼を担おうというものだ。創薬するには、ターゲットとする害虫特有の酵素をゲノム比較により発見し、バイオ実験による酵素のデータを取得。IT 創薬により、酵素の働きを止める薬剤をデザインするというプロセスを経る。アグロデザイン・スタジオは特にバイオ実験のプロセスに貢献したいとしている。これまでに、新規分子標的の殺虫剤、新規分子標的の硝化抑制剤などの創薬に成功している。
【総合順位3位】airRoom by Elaly
(メンタリング担当:DNX Ventures 倉林陽氏)
Elaly の airRoom は月額500円から利用できるサブスクリプション制の家具サービスだ。家具のファストファッション化が進み、一方で中級ないし高級家具には関心を持ちにくい若年層を対象に、気軽に家具を利用できるユーザ体験を提供する。日本の人口は減っていながら世帯数は増えており、都心では賃貸不動産物件の新規契約数は増加傾向にある。比較的短期間で引越を経験するこの層に対し、airRoom はムダの無い最適な家具のデリバリを実現する。
高い MRR、低いチャーンレートを叩き出しているサービスだが、有料会員から解約に至るユーザを解析したところ、引越時に引越先のインテリアに合ったハイエンド家具が airRoom で見つからないことが理由と判明。既に1万点以上の家具を擁する同サービスだが、今後、ハイエンドのラインアップも増やすという。また、AI を使った 3D パース作成により、コーディネートサービス充実にも注力する。
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【総合順位4位】ドクターメイト医療相談 by ドクターメイト
(メンタリング担当:Genesia Ventures 田島聡一氏)
政府の指針により、高齢患者の多くが病院から介護施設へと移動させられるようになり、その結果、介護施設では医療対応が必要な患者が増えている。一方で介護施設の連携医の99%は非常勤であり、平均で1週間4時間しか介護施設に滞在しない。ケアスタッフ(介護士ら)が医師に質問・相談をする時間は十分ではない。
結果として、ケアスタッフが誤った判断によりケアしてしまったり、病気が重症化してしまったりするリスクがある。ドクターメイトが提供する「ドクターメイト医療相談」は、介護施設スタッフ専用の医療質問チャットサービスだ。介護スタッフが容易に医師に相談することができる。一人の連携医では自分の専門領域以外の症例はカバーしづらい問題も、ドクターメイトには複数医師が参加していることで解決しやすい。
収容人数に応じて介護施設から料金を徴収するモデル。過去1年間でサービス検証を続けながら、18施設からの有料契約を獲得した。2025年までに介護施設導入30%のシェアを目指す。介護施設入居者の QoL 向上、介護施設ケアスタッフの労働環境向上にも寄与が期待できる。
【総合順位5位】LOGILESS by ロジレス
(メンタリング担当:セプテーニ・ホールディングス 佐藤光紀氏)
ロジレスは、ネットショップが面倒な物流業務から解放され、戦略的にロジスティクスを設計できる世界を目指し、購買客からの受注を請け負う OMS(Order Management System)と、倉庫で実際の注文に在庫を引き充てる WMS(Warehouse Management System)の機能を統合した「LOGILESS」を提供。
物流倉庫とのマッチング、自動出荷を実現させる SaaS をセットで提供することで、最適な倉庫からの自動出荷を実現。また、ネットショップは手作業で行っていた作業を自動化できる(RPA 機能)。2019年6月時点で、有料ユーザ111社、累計280万件の出荷が LOGILESS を通して行われている。EC 出荷アウトソース事業者(5万社)を手始めに、その後、EC 事業者(40万社)、卸・小売企業(150万社)を攻める予定。
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ベストグロース賞(1日目→2日目の順位変動を評価)
【ベストグロース賞1位】HANOWA by HANOWA
(メンタリング担当: W ventures 新和博氏)
予防歯科の需要が高まる一方、歯科衛生士の人数が不足しており採用競争率は20.5倍と非常に高い。歯科衛生士の97%は女性であり、資格取得者は27万人いるものの就業しているのは13万人。資格を持ちながら就業人数が少ないのは、女性のライフスタイルに就業環境がマッチしていないと HANOWA は考えた。HANOWA は、この問題を解決するため、歯科医と歯科衛生士をマッチングするプラットフォームを運営する。
歯科衛生士が隙間時間を活用し、地元の複数歯科医の中から自分の都合にあった歯科医で勤務できる。歯科衛生士の就労環境を考慮し、プラットフォームに参加する歯科医を開拓する上で歯科医の経営リテラシーや人物評価を重視しているという。リファラルのみで歯科衛生士が29人が登録、歯科医6軒と契約した。医療人材の相互レビューサイト的位置付けを目指す。
【ベストグロース賞2位タイ】Gaudiy by Gaudiy
(メンタリング担当:STRIVE 堤達生氏)
企業のプロダクトやサービスのファンコミュニティマーケティングを支援する、 BaaS アプリケーション「Gaudiy」 を開発。ゲーミフィケーションと暗号資産によって、コミュニティマーケティングに参加してくれるユーザのモチベーション維持などを支援する。
ユーザの自主性を向上させ、ユーザがカスタマーサポートしたり関連事業を運営したりするケースも見られる。8月には、カードを売買できる TCG「クリプトスペルズ」に導入したところ反応も良かったといい、競合の DISCORD よりも良いパフォーマンスを弾き出している。現在、Dapp ゲームデベロッパ 8社でテストしており、今後2年間で世界のブロックチェーン企業利用率90%を目指す。
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【ベストグロース賞2位タイ】Sylt by ウェルネス
(メンタリング担当:Coral Capital James Riney 氏)
救急医でもある中田航太郎氏が創業したウェルネスは、予防医療を念頭に置いたパーソナルトレーニングサービス「Sylt(シルト)」を展開。健康の維持がクリティカルなエグゼクティブ層を中心に、ニーズに応じてパッケージされた医師による 1 on 1 トレーニングサービスを WeWork やホテルのロビーなどで提供している。
ベンチマークとしては、ニューヨークで同様のサービスを提供する THE WELL など。ターゲット層を主ユーザとするクレジットカード会社、高級人間ドック事業者との提携を模索。1 on 1 トレーニングから着手し、今後、サブスクリプションベースのオンラインかかりつけ医サービス、ウェルネスエコシステムへと成長させていく。
【ベストグロース賞4位】Catlog by RABO
(メンタリング担当:iSGS インベストメントワークス 五嶋一人氏)
RABO は、バイオロギング解析技術を応用した猫専用ウェアラブルデバイスとモバイルアプリからなる「Catlog」を開発。Catlog 首輪デバイスには BLE(Bluetooth Low-energy の通信チップ)と加速度センサーが、また、Catlog を充電するステーションには室温計が搭載されている。これらで得た情報がクラウドにアップロードされ、ユーザが外出先に居ても、あるいは、帰宅してから不在時の愛猫の行動の様子をスマートフォンで見られるしくみだ。
昨年10月に実施されたクラウドファンディングでは達成率1,500%超。今月24日には、プロダクトの初期版リリース予定で、ヤマト運輸との提携により専用パッケージで出荷が開始される予定だ。アニコム損害保険と協業し、Catlog を活用した専用のペット保険の開発にも着手した。2021年にはグローバル展開に着手し、アメリカに9,500万匹いる猫をはじめ、世界の猫の市場を視野に入れる。将来は、猫以外の伴侶動物全般にも横展開を計画している。
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アイカサ by Nature Innovation Group
(メンタリング担当:YJ Capital 堀新一郎氏)
雨が降った時に人はビニール傘を買うことが多いが、一雨降るごとに4億円、年間8,000万本のビニール傘が購入される市場がある。しかし、ビニール傘はほとんどリサイクルされず、環境的にも経済的にもエコロジーではない。アイカサは傘を借りたり返したりするスポットを開設し、ユーザが1時間70円でレンタルできるサービスだ。
当初はカラオケ店、飲食店、スマートフォン修理店などにスポットを開設し、レベニューシェアするモデルで着手したが、ローンチ後にサービスが反響を呼び、鉄道各社の支援を得て、鉄道各駅にスポットを開設することに成功した。これにより認知度が高まり、さらに駅周辺の事業体から導入に関する問い合わせが入るようになったという。
スポットの増加により直近3ヶ月でユーザは3倍増、リピート利用率も10〜50%と高い値となった。2022年までに、全国の全鉄道事業者30社773駅にスポットを開設し傘13万本の流通を狙う。将来は鉄道会社のハウスエージェンシーと提携し傘を使った鉄道広告の開発、雨が降ると売上が下がる小売業や飲食業向けの O2O サービスなども計画している。
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rite by rite
(メンタリング担当:XTech Ventures 西條晋一氏)
rite は、Instagram によるインフルエンサー販促支援プラットフォーム。ブランドが個別にインフルエンサーに案件をオーダーするのではなく、ブランドが予め一連の自社商品を並べておき、インフルエンサーが自分に合った商品を選んでマーケティングを実施できる。
インフルエンサーマーケティングでは事実上、ステマ(ステルスマーケティング)が横行する中、rite ではインフルエンサー側から案件を選べるので、ステマが発生しにくいのが特徴。rite はインフルエンサーを通じて販売した注文について、売上の20%を手数料として徴収する。
今後、インフルエンサー100名で流通額合計12億円を目標に設定。D2C ブランドの成功要因とされる、共感マーケティング、購買者からのフィードバックをブランドの製品開発に応用する体制作りなども支援する。
Genics by Genics
(メンタリング担当:インキュベイトファンド 和田圭祐氏)
Genics は、口腔研究とロボティクス研究シーズをもとに、全自動歯ブラシを開発。CES 2019 で発表したところ、特に介護現場から注目を集めた。30秒間の利用で手による歯磨きと同等の効果があることが認められ、また、歯周病リスクが低減される可能性については評価中とのこと。
歯磨きは健康維持の上で重要なファクターとなるが、介護現場では人手不足のため歯磨きが提供できていない。全自動歯ブラシが導入されれば、介護現場では、介護士や看護婦は介助しなくても見守るだけで済むため、口腔ケアを簡素化できる。全国の介護事業会社や介護施設から引き合いが来ている。今後、保険適用で利用できる体制が整うことを期待しており、歯科クリニックとの提携による定期診断、パーソナライズなどにも進出を計画。
VAN SHARE by Carstay
(メンタリング担当:CyberAgent Capital 近藤裕文氏)
Carstay は、インバウンド観光客が増える中で大きな問題となっている宿不足の問題を、移動可能な宿としてバンを共有し、車中泊体験の提供で解決しようとするスタートアップ。日本国内には250万台〜300万台のバンがあり、その多くは稼働していない(駐車場に保管されていることがほとんど)とされる中、バンを利用したいユーザとのマッチングプラットフォームを提供する。
バンを貸し出したオーナーには、ユーザが支払った利用料金の80%程度が還元されるビジネスモデル。「VAN SHARE」として昨日ローンチしたところ、既に30台ほどの登録問い合わせが来ているという。将来は宿泊だけでなく、オフィスにしたり、避難場所にしたり、さまざまなユースケースを想定する。
EPOQ by EPOQ
(メンタリング担当:インキュベイトファンド 本間真彦氏)
EPOQ については、ピッチ内容非公開のため省略。
AR エンターテイメント事業 by ENDROLL
(メンタリング担当:グローバル・ブレイン 立岡恵介氏)
ENDROLL は、ピッチ内容非公開のため省略。
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CG クラウド by TANOsim
(メンタリング担当:B Dash Ventures 西田隆一氏)
TANOsim の「CG クラウド」は、3DCG に特化したクラウドベースの制作スタジオだ。3DCG の制作には、モデリング → マテリアル → リギング → アニメーション → エフェクト → コンポジット といった制作プロセスを経るが、それぞれのプロセスは専門性が高くクリエイターを確保するのは難しい。
CG クラウドには各分野に特化したクリエイターが集まっており、スキル管理ツールによって、案件に応じた最適なクリエイターを探して仕事を発注することができる。独自のディレクションメソッドや、共有された 3D データパーツにより業務も効率化できる。低価格で世界中の最新技術が使えることも特徴。5G/XR 市場の拡大を受け、事業のスケールを狙う。
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キャピタリスト賞(起業家がメンターのキャピタリストを評価)
Incubate Camp は2010年から通算で11回開催され(今回を入れ12回)、1,640名超の応募者の中から200名超を選出している。他のファンドからの調達も含めた、これまでの Incubate Camp 出身スタートアップの資金調達合計額は200億円以上に達している。
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