起業家の間で人気の資金調達スキーム「SAFE」が、さほどセーフ(安全)ではない5つの理由【ゲスト寄稿】

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mark-bivens_portrait本稿は、パリと東京を拠点に世界各地のスタートアップへの投資を行っているベンチャー・キャピタリスト Mark Bivens によるものだ。Mark Bivens 氏の許諾を得て翻訳転載した。(過去の寄稿

The guest post is first appeared on Mark Bivens’ Blog. Mark is a Paris- / Tokyo-based venture capitalist.


Image credit: RudeVC

90年代、私が自分のスタートアップの資金調達をした頃には、優先株で出資することが VC の間で主流で あった。convertible note(転換社債)や venture loan(事業ローン)は、特にインターネットバブルまでの期間、 デットファイナンスの面で見かけることがたまにあった。

それから10年以上経って紹介された「SAFE(Simple Agreement for Future Equity、将来株式取得略式契約書)」は、近年起業家の間で人気だ。

東京でも良く見かけるようになった中で、SAFE を発行した企業に追って投資をしているベンチャーキャピタリストとして、また、ときには SAFE に投資している者として、SAFE に対する自分の考えを紹介したいと思う。

SAFE は、convertible note から派生したものである。Y Combinator が2013年、convertible note の代替手段として、投資を受ける企業と投資家のどちらにも有益となる SAFE を開発した。Y Combinator の目標は、契約を標準化することによって確実性とスピードが促進され、結果的に取引コストを削減するという立派なものだった。

SAFE が出る以前から、convertible note の元々の根拠は次のようなものだった。

スタートアップを最もアーリーなステージで評価するのは難しい。定量的議論を実証できる測定基準はほぼ存在しないため、当事者たちが合意するのには困難を伴った。起業家(ほとんど男性だった)は自身の発想は最初から何億兆もの価値があると信じており、逆に投資家は、資金無しには日の目を見ないかもしれないベンチャーの株式に〝落ち着く〟理由を正当化できなかった。

そこで、convertible note はバリュエーションを次の資金調達まで先延ばし、この膠着状態を破った。最初の投資家は、将来のバリュエーションをもとに貸付をし、そのリスクに見合う形でディスカウント(例えば30%)ができるというものだ。

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後に、他の状況でも convertible note は有効であると考えられるようになった。連続した値付けされたラウンド(訳注:一般的にシリーズ A 以降)で資金調達するのには予想以上に時間がかかり、その時間を稼ぐために既存投資家につなぎ出資してもらうときだ。ここで双方の利益は似ていて、企業に対して公平な評価をできるのは内部の人ではなく市場であるから、convertible note がプロセスを混乱させることはなく、道のりを少し延長するだけとなる。

convertible note は、そのときの状況に応じて設計することができる。一方、SAFE はより標準的な設計となっており、適用の仕方においても厳格だ。私はシンプルさと便利さの両方の利点から、資金調達を必要とするあらゆるタイミングで、資金調達が SAFE に頼るようになるのを見てきた。

最も悪名高い危険の一つが生じるのは、創業者が2つ以上の連続したラウンドで SAFE を使うときだ。アーリーステージでの困難なバリュエーションの議論を先延ばしする利点は、(たどり着けたとして)値付けされたエクイティラウンドのときに有害なものとなる。SAFE を連続して使うのは、値付けれたラウンドを先延ばししているに過ぎない。

連続して SAFE で資金調達する際に、創業者が重要な複数の留意事項を見落とすのを、私は目の当たりにしてきた。

  1. 将来の希薄化の影響を把握できていない。SAFE は(株式に)転換されるまですぐには希薄化しないため、未転換の SAFE が全て転換されるまで、自分の資本政策に与える将来の希薄化を予想・計算できない創業者もいる。SAFE のレイヤー1については頭の中で計算が極めて簡単だが、バリュエーションキャップが違ったりディスカウントしたりする状況では、SAFE のレイヤー2や3は、瞬く間に複雑な計算になり得る。
  2. バリュエーションキャップを企業価値(バリュエーション)と間違える。SAFE のバリュエーションキャップは、企業の市場評価と混同されやすい。しかし、これは間違いだ。SAFE が実施される理論的根拠は、バリュエーションパラメータの定量化が難しいからというものだ。500万、1,000万、1,500万のそれぞれのバリュエーションキャップで SAFE の後続レイヤーを発行したスタートアップの起業家は、プレマネーバリュエーション(調達前企業価値)が1,500万だと思うかもしれない。しかしそうではなく、会社のプレマネーバリュエーションは、その定義上、外部のリード投資家が値付けしたときにしか決定されない。
  3. 将来のリード投資家を締め出してしまう。レイターステージで SAFE がもたらすもう一つの潜在的な欠点は、自社にとってのリード投資家を締め出してしまう可能性があること。連続した SAFE の転換は多くの株式を消費するため、VC ファンドは投資を見送る可能性がある。Fred Wilson 氏はこの現象を、私よりもはるかに説得力を持って説明しているので、彼のブログ投稿を読んでみることをお勧めする。
  4. ポストマネーバリューション(調達後企業価値)算出への影響を見落とす。SAFE はポストマネーバリュエーション算出に相乗効果をもたらす。この相乗効果は、バリュエーションキャップと、値付けされた調達ラウンドでの実際のバリュエーションとの間の開きが大きいほど悪化する。
  5. 市場の無視。最後に、SAFE を重ねに重ねる創業者は、市場からの暗黙のシグナルを見落としているかもしれない。それはつまり、自社の値付けされた調達ラウンドをリードしたいという洗練された機関投資家はいない、ということだ。